第七十二話『終わりの始まり』
*(ホアイダ視点)*
警察がセイヴァーと協力した今、私はセイヴァーを逮捕出来ない状況にある。
逮捕出来るにしろ、ベゼが居る間はセイヴァーを逮捕するのは賢い判断ではない。
今は警察とセイヴァーと協力し、いち早くベゼを倒さなくてはならない。
それに、警察や軍だけでなく、世界各国のSランクの冒険者が国に雇われ、ベゼの対策をしている。
今、世界中が行っているのは、支配された竜の土地奪還ではなく、今ある人の土地と魔の土地の防衛だ。
その為、二十四時間体制で海岸の見張りを行っているし、転移されて来てもすぐ対応できるよう、こちらも転移手段を準備したりしている。
それでも、世界中の人々のほとんどは諦めかけている。
ベゼが死んだ魔物を復活させれることを知り、絶望しきってしまった。
布などの衣類さえあれば、何匹だろうとウルティマのような強力な魔物を創り出してしまう。
――勝てる訳がない。
皆そう思い、世界が支配されるその時まで、今ある平和を満喫しようと、未来を維持することを諦めた。
それでも、私やセイヴァー、警察や軍は、諦めた国民の為に戦い続ける。
特にセイヴァーは、もう二度と諦めないだろう。
マレフィクス=ベゼだと言うことは確定された。
セイヴァーが、私と警察や軍のお偉いの人だけにその真実を言ったからだ。
しかし、ベゼが都市や国を人質にしていることも事実。
ベゼの正体が判明したところで、我々にはどうすることも出来なかった。
しかし、ベゼは言ったらしい。
学校生活が終われば人質は取らないと。
勿論、嘘の可能性もあるが、セイヴァー言わくベゼはプライドが傷つくようなつまらない嘘は付かないらしい。
どちらにせよ、学校生活が終わるその時まで、我々は下手に学生マレフィクスに手を出せない。
でも私は、これからベゼによって死んでいく者や苦しんでいる者を救いたかった。
その為、マレフィクスの力を封じようと、学生ホアイダを演じたまま学校の屋上に誘ったが、後少しのところでヴェンディが来て失敗した。
マレフィクスの力を封じる作戦があったが、それももう通じないだろう。
今、私が出来ることはベゼの持っている力を調べ尽くすことだけだった。
その為、セイヴァーから得た情報と、ベゼとウルティマの戦いの映像を整理した。
今、分かっているベゼの力は以下の通りだ。
火の玉を放つ、触れて燃やす、衣類を生物に変える、爪を尖らす、転移、釣り糸を操る、髪の毛を操る、影を水に変える、岩を降らせる、爆破を起こす、指を銃器に変える、姿形を変える、死神の召喚、バリア、記憶を見る、ビームを放つ。
ベゼとウルティマの戦いは、私本人が隠れて撮影した。
話の内容もいくつか聞いた。
ベゼが髪の毛を操り、ウルティマの記憶を見たことで、ウルティマの時間停止の魔法を見破っていたことも聞いた。
恐らく私の推理は正しい。
ベゼは他者の能力を奪うことが出来る。
でなければ、多くの力を持ってる説明が付かない。
それに、この力が魔法なら、ベゼの体力が持たないはずだ。
よって、能力を奪うことが出来る可能性は高い。
まだ未知なる能力があるだろうが、知っている能力だけでも対策が必要になって来るだろう。
*(マレフィクス視点)*
「僕以上に僕のことを愛してる者が居るかな〜?この世界全てが僕の所有物、僕にとっての遊び場だね」
神の土地、神聖ベゼ帝国のお城の頂点に座りながら、僕はこの世界全てを見下ろしていた。
風に撫でられながら、眠った赤子のような笑みで、生きることを楽しんでいた。
「ここに居ますよ?貴方より貴方を愛してる者が」
隣に来たアリアが、ワインを片手に持ってニコッと笑う。
そのワインを受け取った僕は、少し嫌そうにしつつ一口ワインを口にした。
「……そうだったね」
六学期になって四ヶ月が経った。
春休みも終わり、世界征服や国での遊び、学校生活などお楽しみでいっぱいだ。
ほんの少し前までは、世界征服も街の破壊も、いつか飽きてしまうのだろうと怖くなっていたが、最近はその恐怖は全くない。
世界征服も、破壊も、やればやるほど、
――次はどうしようか?
とか、
――もっとこうしたら面白いかも!
とか、アイディアと欲が次々と沸いてくる。
同じことの繰り返しでも、自分の好きことは飽きる気配がしないのだ。
「この世界を手に入れてしまうのが勿体ないよ」
それはともかく、手に入れた能力も何個か増えた。
能力は以下の通りだ。
『0』能力を奪う能力。
『1』爪を尖らせる能力。
『2』行ったことある場所に転移する能力。
『3』手から釣り糸を出す能力。
『4』水を熱くする能力。
『5』相手から恐怖を無くす能力。
『6』鉄を消す能力。
『7』痛みを一つ消す能力。
『8』音が目に見える能力。
『9』皮膚の一部を硬くする能力。
『10』髪の毛に意志を与える能力。
『11』影を水に変える能力。
『12』スライムを作る能力。
『13』周りの死を感じる能力。
『14』木を枯らす能力。
『15』岩を降らす能力。
『16』涙を垂らした場所に爆弾を仕掛ける能力。
『17』指を銃に変える能力。
『18』鏡を作る能力。
『19』衣類を生物に変える能力。
『20』姿形を変える能力。
『21』寝れば傷が治癒する能力。
『22』鉄製の物を大きくする能力。
『23』息を強風に変える能力。
『24』影から死神を出す能力。
『25』物と物を接合する能力。
『26』血を固める能力。
『27』二秒間重力を反転させる能力。
『28』物を浮かす能力。
『29』食べ物をより美味しくする能力。
『30』他者の目と視界を共有する能力。
『31』体の一部にバリアを張る能力。
『32』生き物の気配を感じる能力。
『33』遠くの出来事を知る能力。
『34』相手の記憶を見る能力。
『35』物を透かして見る能力。
『36』遠くの生き物と会話する能力。
『37』自身の体内にある物を浄化する能力。
『38』指からビームを放つ能力。
『39』煙を実体化させる能力。
『40』死体から魔法を一つ奪う能力。
『41』鏡から物を取り出す能力。
『42』爪を柔らかくする能力。
『43』土を綿に変える能力。
『44』死体を操る能力。
『45』球体を太陽に変える能力。
『46』骨を操る能力。
『47』音に合わせて弾く能力。
『48』電気を纏う能力。
『49』影と闇を操る能力。
『50』神の力を使用する能力。
能力数『55』になるまであと一万人。
またいっぱい殺せば、いっぱい増える。
成長し続けらることは、自分で居れることと同じくらい幸福だ。
* * *
「皆逃げろ!ベゼが来たぞ!」
ベゼとして魔の土地の街に現れた僕は、自分でそう言って街を破壊し回っていた。
定期的に街や人を破壊しないと、うずうずしてならないからね。
「そこまでだ」
そこに、セイヴァーが現れる。
よく見ると、街の住民はどこからかやって来た警察や軍によって避難させられている。
だが、下手に僕を囲もうと考えず、僕をセイヴァーただ一人に任せて、住民の安全や、周りの安全の確保に徹底している。
「待ってたよセイヴァー!」
「お前、毎回毎回こんなこと……人も弄んで……お前は今まで何人殺した!」
セイヴァーはいつも、僕に対して怒ってくれる。
それは偽りではなく、愛情に近い怒りだから、僕からしたらとても嬉しい。
「一人も殺してないよ」
あからさまな嘘を、平然と笑顔のままついた。
そんな僕を見て、セイヴァーは目元を痙攣させたように震わせた。
「ふざけるな……何人も何人も殺しといて……」
「はぁぁ、二万五千二百人ぴったし、これでいいのかい?意外と殺してないっしょ」
この数は正確な数だ。
僕は、一度目にしたものを永遠に覚えるくらい記憶力が良いから、殺した人数は忘れないし、能力の解放値を見て計算すらば正確に分かる。
――セイヴァーはこんな数聞いて一体何がしたいのだか?
全然分からないけど、正確な数を聞いたセイヴァーは先程より怒っているように見える。
「ゲス野郎……」
「君こそ何人殺したの?」
「その質問には答えない。ただ、ここでまた一人増える」
セイヴァーはそう言って僕に真っ直ぐ走った来た。
僕もそれに合わせて指からビームを放つが、余裕で避けられる。
「解除」
セイヴァーがそう呟くと、僕の背後にあった折り紙が大きな槍に変わり、僕の胸を貫いた。
「がはぁ!?いつのまに……はっ!」
そして、僕がその槍に気付いたと同時に、セイヴァーが剣を振るう。
今まで勝ち続きだった僕は、油断してたせいか一瞬にして追い詰められた。
しかし……。
「えっ?」
セイヴァーは剣を振るう前に地面に倒れた。
僕が何かした訳でもないのに……。
「ゴホッゴホッ!がはぁっ……うっっ」
セイヴァーの口から、赤黒い血が出ていた。
その血を吐いて、苦しそうに胸を抑えている。
顔色も悪く、まるで重い病気を患っている病人だ。
「セイヴァー?ねぇ、大丈夫かい?」
「……」
セイヴァーはそのまま苦しそうに気絶した。
「おい……ヴェンディ!死ぬな!死なないでよ!!」
僕は突然の事態に取り乱して慌てた。
目の前のステーキが、水で濡れてしまったような酷い気分に襲われた。
しかし、セイヴァーが倒れてるのを見て、警察や軍が僕らの元へ近付いてくる。
「やばい!セイヴァーが!」
「ちっ、ヴェンディのバカ……」
僕はモヤモヤを残したまま、仕方なく転移して、その場を去った。




