第六十八話『僕のお城』
* * * * *
アリアを連れた船が、出航して五分以上経過した。
その船を追い掛けるように、背後から海兵隊が近付いてきている。
そんな中、アリアは目を覚ました。
「あれ?船に乗れたの?ベゼ様は?」
「それが……」
アリアは部下の話を聞き、目を丸めて飛び起きた起きた。
「何だって!?黒い布しかなかった!?ベゼ様が乗っていないの!?」
「はい」
「このバカ!!早く戻って!!海岸に来た時まで一緒だったの!!」
アリアはブチ切れだった。
顔を真っ赤にし、慌てて起き上がり、操縦している部下の体を揺する。
「無理です!後ろから海兵が来てますし、ベゼ様なら一人で国に戻れます!」
「違うの!私が助けなかったらベゼ様私を殺して自殺したちゃうの!だから離して!!」
周りの部下達は、アリアを必死に説得し、船から降りさせないようにする。
しかし、アリアは涙目になりながら鬼神の如く暴れた。
船の中で、お構いなしに足から氷を出し、部下達にナイフを振り回す。
「皆手伝ってくれ!アリア様を止めてくれ!!」
「やぁだ!!」
アリアが駄々っ子のように暴れるが、周りは大の大人達。
小柄なアリアを簡単に止める。
その時、アリアの頭の中にテレパシーのように声が過った。
『僕だ。先に国に帰っているから、君も黙って国に迎え……分かったね?』
その声は、アリアの良く知るベゼの声だった。
この声は、ベゼの能力番号36『遠くの生き物と会話する能力』による声だ。
能力番号33『遠くの出来事を知る能力』で、アリアの様子を確認しながら遠くで話しているのだ。
「ベゼ様!私がしっかりしてないばかりに!申し訳ありません!」
『君には罰として死んでもらう。国に帰ったら覚悟しとけ』
「それは構いませんが、貴方様は生きてくれますか?」
『今死ぬのはつまらない……通信を切る』
周りの部下は、一人で話しているアリアが、ベゼと話していることがすぐに分かった。
すぐにアリアから手を離し、ホッとしたアリアを見て安心の表情を浮かべる。
「はぁぁ、良かった。皆、急いで神の土地に向かって」
「分かりました」
アリアは心の底から安心して、再び眠りにつく。
*(ホアイダ視点)*
海兵隊と海に出て数時間が経った。
アリアを乗せた船は、海兵隊から逃げている。
「奴ら何処に向かってるんだ?この先は魔物だらけの神の土地だぞ?」
「もしかして、神の土地に拠点があるのかもしれません」
私の予想通り、アリアの船は数分後に神の土地に降りた。
神の土地の海岸は、人の手によって整備されており、立派な港が出来ていた。
港には、既に数人の人が集まっている。
「どういうことだ!?なぜ神の土地に港なんか!?人や船もいっぱい居るぞ!?」
「ベゼは既に、神の土地を支配していたらしいですね。隊長さん、撤退して下さい……神の土地が拠点と分かっただけ十分、これ以上近付くのは危険です」
「分かった」
結局、私と海兵隊は神の土地が見えた所で撤退した。
上陸すれば、ベゼの部下に殺られる可能性が高いし、今この場で死人を出すのは賢い選択ではないと判断したのだ。
人の土地の港に戻ると、セイヴァーは居なくなっていた。
私はヴェンディ=セイヴァーと言うことを知っているが、敢えて知らないふりをしていた。
きっとセイヴァーは、ヴェンディへと戻ったのだろう。
大都市メディウムは多大な被害を受けた。
大魔王ウルティマと悪の王ベゼの襲撃を受け、多くの建物がめちゃくちゃになり、死人や怪我人も千単位で出た。
ウルティマが倒されたのは、嬉しいニュースとして取り上げられたが、ベゼがより恐怖されるようになったのは間違いない。
それだけではない。
ベゼに部下が居たこと、神の土地を拠点としていることを知った世間は、再びベゼの恐怖を思い出した。
ベゼが恐怖される都度、セイヴァーを支持する声が集まる。
セイヴァーは警官隊や軍隊と違い、いち早くベゼを止めに来るし、神出鬼没で何処にでも現れる。
彼は警官隊以上にベゼを知っているから、ベゼに唯一対抗出来る存在だと世間は言う。
だが、世間の声はセイヴァーを否定する声も少なからずある。
セイヴァーは所詮連続殺人鬼……褒めていい人間じゃないと、世間は言う。
実際その通りだと思うし、ベゼが居なければセイヴァーを支持する声は減るだろう。
当然だが、学校は一週間休みになった。
私の家は被害を受けていなかったから、この一週間でベゼやセイヴァーの情報を整理したり、警察達と今後の対策を決めたり、やることを済ませないといけない。
*(マレフィクス視点)*
夕日が落ち、空は暗くなり始めていた。
能力番号2『行ったことある場所に転移する能力』で、アリア達より先に神の土地に戻っていた僕は、レネスと会っていた。
「これは?」
「死亡した戦闘員達です。念の為、能力で連れて来ました」
レネスの空間を操る能力は、空間ごと転移させることが可能だ。
だから、アリアと共に僕の元に来れたし、戦闘員を空間から出現させた。
レネスはその能力で、戦いで死亡した僕の部下をこちらに持ってきたらしい。
「持って来なくて良かったのに……。ちょっと!ヴァルター来て!」
「はい」
少し離れていたヴァルターを呼ぶ。
ヴァルターはすぐに僕の元に来た。
「これ全部消しといて」
「えっ?墓を作ったりしないんですか?せめて埋めたり火葬したり……」
「それ、一体何の意味があるの?君がそうしたいならしていいけどさ」
「……確かに、そうですね。分かりました」
ヴァルターは驚いていた表情を切り替えるように戻し、仕事人の如く死体の山に触れて、次々と死体を消した。
「終わったら城に来て。一時間後僕のお城集合」
「分かりました」
「それとレネス、アリアが戻ったらいち早くアリアを連れて来て」
「分かりました」
神の土地に作っていた国は、ほとんど完成していた。
まだ建設中の建物があったり、道や環境の整備が完璧じゃなかったり、問題点が発生したりと、発展途中だ。
しかし、国は完成したと言って過言ではない。
既に、僕の部下達が国や街の住人として住んでいるし、僕の能力で創った魔物達が仕事をしていたりと、どの国にも負けない素晴らしい国になった。
海に浮かぶ街、空に浮かんだような街、美しい廃棄のような街、氷や雪の街、比較的化学が進んだ街、前世で見てきた街並みや、この世界で見てきた街並みを参考に、色んな題材を使って街を作った。
その街全てがこの神の土地にあり、一つの大国となっているのだ。
国の大きさなら、この世界のどの国よりも大きい。
街のあらゆる場所に僕の拠点があるが、一番の拠点は国の中央にある『ベゼ城』だ。
フランスのモン・サン=ミシェルを参考に作ったお城で、この土地で一番大きな建物だ。
城の下や周りには、幹部連中の家や側近の者の家があったり、多くのお店や建物の階段のように連なっている。
「失礼します」
「早めに頼むよ」
僕はそのベゼ城で、医療部隊に腕や足を治してもらっていた。
なくなった手足が再生し、体の痛みが癒え、潰れた目も治っていく。
一人の治癒魔法では腕一本がやっとだが、医療魔法や治癒能力の者が複数居たから、体の傷はかなり治った。
「レネスです。アリア様を連れて来ました」
「どうぞ」
レネスと共に、アリアが部屋のドアを開けた。
ドアは巨体のレネスでも余裕で入れる程大きい。
「覚悟は出来てます。今まで貴方に仕えれたことが幸せでした」
「他に言うことは?」
「ありません」
「そう」
僕の目の前で、膝をついてひれ伏すアリアの頭を触る。
アリアに恐怖や震えはない。
「えっ」
「アリアのおバカさん。本気にしたんだね」
アリアの顎をクイッと上げ、目を合わせてニコッと笑う。
するとアリアは、嬉しそうに笑い、僕に強く抱き着く。
「良かった!まだ貴方の居る世界で生きていられるなんて幸せ!」
「一番有能な君を自ら壊す訳無いでしょ。けど、僕を助けたんだから、それを後悔させないでね」
「勿論です!ベゼ様大好き!!」
周りに居た医療部隊の者は、微笑ましい表情で僕に抱き着くアリアを見ていた。
「それより一時間後、この城で演説するから準備しといて」
「演説?この国の設立演説ですよね?」
「そう。開国記念日のパーティを開くの」
治った体を確認し、髪をとかし、新しい服に着替えた。




