第六十四話『大魔王ウルティマ』後編
首に鎌の刃が刺さり、胸に傷を負ったウルティマは止まった時の中に居た。
またもや、先程まで居たベゼの姿がなくなっている。
ウルティマが時間を止める一瞬前に、どこか別の場所に転移したのだろう。
「やはり、どんな方法か分からないが儂のクロノス.タイムに合わせて転移をしている」
ウルティマは首の鎌を抜き、負傷した胸と首を再生させる。
「まさか、未来を見ているのか?時を止める未来が見えていればそのタイミングに合わせて転移できる」
ウルティマはそう考えたが、ベゼに未来を読む能力などない。
「まぁいい、クロノス.タイム解除だ」
時が再び動いた。
まだ、周りにベゼや気配はない。
「来たな」
ウルティマは背後に気配を感じ、手刀を振るった。
ウルティマの手刀とベゼの爪がぶつかり合う。
「分かったぞベゼ」
ウルティマに吹き飛ばされたベゼは、身を捻って体勢を戻す。
「何が?」
「貴様は未来を読む能力があるな?貴様が複数の能力を宿しているのは知っている!その中にあるだろ!」
「そんな便利な能力ないよ」
「何っ!?じゃあどうやって!?」
ウルティマは予想が外れて取り乱す。
「僕が使用した能力は三つ。能力番号2『行ったことある場所に転移する能力』、能力番号10『髪の毛に意志を与える能力』、能力番号34『相手の記憶を見る能力』。もう分かったかい?」
「分からぬ」
ウルティマの即答に、ベゼは一瞬困った表情を浮かべる。
「僕の髪の毛一本が常時君に触れているんだ。能力番号10で意志を与えた髪の毛は、間接的にだが触れたことになる。これで能力番号34が発動する条件が整ったのだ。記憶とは言い換えれば思考だ……現在の記憶を常時見ることで、君の思考を読んでいるの」
「見ていたのは未来ではなく、儂の思考か!?儂が魔法を使用するタイミングを思考を読み取り、その一瞬前に転移したのか!?」
ウルティマは謎を全て理解する。
ベゼがクロノス.タイムを攻略したのは、常時ウルティマの記憶を見ていたからだということを。
「時を動かしたタイミングも思考を見れば分かるし、それに合わせて転移すれば良い。瞬きや呼吸と違って、魔法や能力を使用する時は思考が伴う。思考を止めることは出来ないだろ?」
「まさかクロノス.タイムが使い物にならぬとは……」
「理解したようだね。時を止めても体力と時間の無駄だって。それに時間が止まってるから、時間が無駄になるのは君一人。やはりどんな力にも、穴はあったね」
ウルティマは慌てて自分に付着してるベゼの髪を探す。
だが、大きすぎる体を全て見渡すのには無理があるし、髪の毛一本を見つけるのは難しい。
「無駄、僕の髪の毛は自由に動く。悪あがきは止めて正面から来いよ」
「クロノス.タイムを攻略したところで、お前は儂に傷を付けれるか?その羽根を硬化させても浅い傷が精一杯だ」
「それは能力の使い方による」
ベゼは手から出した釣り糸を建物に引っ掛け、機動力を付けながらウルティマの周りを飛ぶ。
しかし、ウルティマが周りの空気を吸い込んで吐き出したことで、建物や魔物を吹き飛ばす程の強風がベゼを襲う。
ベゼも対抗するように、息を吐き出して強風を作る。
ベゼとウルティマの台風をも超える息がぶつかり合う。
「崩れろ」
ウルティマが地面を強く踏み潰した。
周りの地面が激しく割れ、強風に吹き飛ばされた瓦礫がベゼに飛んでくる。
ベゼはすぐに息を吐くのを止めて、ウルティマの上空に回る。
「早いな……スピードもそうだが、死にゆくのも」
ウルティマは上空に居るベゼに向けて炎を放つ。
上空まで届く炎は、ベゼを空気と共に飲み込んだ。
「なぬっ!?」
しかし、ウルティマに向かってベゼが炎から身を出した。
岩の服を羽織るように纏っており、その岩が焼け焦げて崩れ落ちる。
手にはバリアが張られ、硬化した羽根をウルティマに向けてる。
硬化した羽根は、ウルティマの胸を浅く貫いた。
「ほらな?こんな赤ちゃんみたいな傷しか付けれない」
「傷の中に布を丸めた物を入れた……僕自身は破壊力のある魔法や能力はない……けど、僕が創る魔物はどうかな?」
ウルティマの傷の中で、オルニスが創られた。
ウルティマは胸を強く抑え、血を吐いた。
「がはぁ!?」
「布から魔物になり胸で破裂したね。そしてまだだよ?胸の中に居るオルニスは君程ではないが強力な魔法を放てる」
「まっ、まさか……」
「オルニスの代わりに言ってやろう。雷魔法、フォス.セリーニ」
ウルティマの胸が光を放った。
身体中に雷が走り、皮膚が割れて全身から血が吹き出る。
体内から魔法を食らったウルティマの再生力は、徐々に落ちていた。
「はぁ……はぁ……」
「跪け」
ベゼはウルティマの傷を痛めるように踏み潰した。
ウルティマは痛みのあまり、巨大な膝を落とす。
「この儂が……儂は、大魔王ウルティマだぞ……こんなことで……」
「最後の言葉は選んだ方が良い……生き様を選べないのだから、死に様くらい選んだ方が良い……最後にお前は何を言う?」
ベゼがウルティマの傷に、指をねじ込むように入れる。
一発ビームを放ち、傷を広める。
「あぁ!!」
「やはり悲鳴と断末魔か?」
ベゼがもう一発ビームを放とうとしたその時、近くに居た魔物達が警察や軍隊によって蹴散らされた。
そこには、一時的に協力しているセイヴァーも居た。
「何だ……この状況?」
セイヴァーはベゼと目が合った。
ウルティマを追い詰められているベゼを見て、困惑している様子だ。
それは、セイヴァーだけでなく、警察や軍隊も同じだった。
「あんなに居た街の魔物を始末し終えたのか?だとすると、世界各国から軍事力が集まってると考えるべきだな」
「あれはセイヴァー?ハハッ!ははははは!」
ウルティマはセイヴァーを目にして大声で笑った。
まるで、ピンチを乗り越えたような笑いだ。
「そう言えばベゼ、貴様はセイヴァーを正々堂々倒したかったな?」
「あぁ、そう言ったね」
「お前は儂を倒して絶対悪になると言っていた。危険にも関わらず、その為だけにわざわざ儂を復活させた。貴様はそういう性格の持ち主。もし、儂にセイヴァーを殺されたら、貴様は嫌だろうな?」
「君の思考は読めて――」
ウルティマの思考が読めていたベゼは、片目を細めてウルティマを見下ろした。
しかし、ベゼがウルティマの企みを阻むには、少し遅かった。
「動くなベゼ!既に儂は魔法を放った!どうする?自分の命か、奴の命か。いや、お前はどちらも取る性格だ」
ウルティマの王冠から、黄金に輝く小さな球体が出現した。
その球体は上空に飛び、再びゆっくりと下りて来た。
「思考を読めてるお前にはもう理解出来たようだな」
「卑怯極まりない……けど、そういうの僕の大好物」
「破壊魔法、シン.エンド。触れたものを爆発と共に消してしまう魔法。この都市は余裕で消える。セイヴァーも勿論消える」
「残りの体力を使って賭けに出たな……そこで祈ってろウルティマ。今が絶頂なんだ、絶望する準備を整えるといい」
ウルティマの体力は僅かだった。
ベゼに食らった雷魔法のダメージが体にきて、強力な魔法を使ったからだ。
「これを止めたなら、達成感と幸せが得れる」
ベゼは手に張ったバリアを黄金の玉に当てた。
そして、黄金の玉にバリアが触れたと同時に、ベゼは別の場所へと転移する。
大都市メディウムには、瀕死のウルティマと複数の警官隊が取り残された。




