第五十九話『敗北の少年』
*(ヴェンディ視点)*
世界中が大魔王ウルティマに恐怖し始めて半年以上経った。
マレフィクスが七日間のチャンスを与えてくれた。
今この七日間は、マレフィクスの時でもベゼの時でも攻撃を許されている。
マレフィクスには転移の能力がある為、正面から戦ってもダメだ。
攻撃が失敗して逃げられる可能性もある。
だから麻酔を打って眠らせるのがベスト。
マレフィクスの力があれば、ウルティマに勝てる可能性が大きくなる。
奴は頭が良いし、魔王軍の幹部を一人で倒せる実力がある。
ウルティマを倒す力もあり、もしかしたら良い作戦も考えてくれるかもしれない。
それに、ウルティマとマレフィクスを戦わせ合い、マレフィクスを殺すチャンスも訪れる。
一石二鳥だ。
「今なら殺れる」
今マレフィクスは図書室に顔を伏せて眠っている。
罠かもしれないが、これはチャンスだ。
麻酔銃を取り出し、それをマレフィクスに向ける。
そして、首元狙って麻酔弾を放つ。
しかし、マレフィクスの首元は鉄のように硬くなっており、麻酔弾を弾いてしまう。
「ちっ」
俺の攻撃を警戒して、首元を硬くしていたらしい。
だが、マレフィクスはまだ目覚めていない。
もしかしたら、目のような柔らかい部位なら麻酔弾が通るかもしれない。
――いや、それより三秒間触れて紙にする方が良い。
俺はゆっくりマレフィクスに近付き、首元をバレないように触る。
――一秒……二秒……。
「三秒」
マレフィクスが小さな声で言った。
そして、あと少しで紙に出来るってとこで、マレフィクスが俺の指をへし折る。
「うおぉぉ!?指がァァ!」
指を抑え、一歩後ずさりをする。
それを見て、マレフィクスが眠そうにしてニヤッと笑う。
「ほわぁぁ……じゃあ次の母語の時間も寝るから……おやすみぃー」
「なんで野郎だ……」
――マレフィクスが無防備状態に見えるのは、逆に言うなら無防備ではない状態ということか……。
今また攻撃しても、きっと無駄だろう。
寝るといいながらも起きてるかもしれないし、何か罠を張ってるかもしれない。
「この指はホアイダに治してもらうとして、覚悟しとけよ」
「僕には君の状況が常に分かる能力がある……君はずっと監視されてるってこと」
「そうかい」
マレフィクスは再び眠りについた。
マレフィクスは複数の能力を宿している……俺が知ってる能力もあるが、まだ知らない能力もある。
能力だから魔法と違って詠唱も要らないし、体力も使わない。
そこが奴の強みだ。
「幸せそうに眠りやがって」
紙から毛布を出し、その毛布をマレフィクスにかける。
その日、結局マレフィクスには勝てなかった。
しかし、チャンスはまだ数日ある。
次の日、マレフィクスは色んな提案をしてきた。
「チェスやろ。君が勝ったらウルティマ討伐協力するよ」
「バカめ!俺は前世でチェス世界一の男の息子だったんだ!親父以外にチェスで負けたことないんだな!!」
俺は前世でチェス世界一の男の息子、それは本当。
しかし、俺がチェスで負けたことある相手は、前世の親父以外にマレフィクスだけ。
皆の予想通り、この日もマレフィクスにチェスで勝てなかった。
10戦10敗、負け戦だった。
「前世でチェス世界一の息子?君にしては面白い冗談だね」
「次は五時間目のバスケだ!バスケで勝ったら俺の勝ちってのは?」
「いいよ」
しかし、バスケでもぼろ負けだった。
マレフィクスのチームは、俺のチームより弱いメンツだったが、マレフィクスの圧倒的身体能力と、メンバーの統率力で勝利を持ってかれた。
「マレフィクスすげぇ!!」
「ドリブルすら出来ねえ俺をよくぞ上手に使ってくれた!」
「チェスと同じ、どこに駒を進めるか、どう駒を使うか、それが大事なんだよ。君はドリブルは下手だが、パス回しとシュートは下手じゃなかったからね」
「俺らは駒かよ!」
チームの心を掴み、弱い駒を適切に使うマレフィクスに、俺は負けた。
こいつのカリスマ性といいリーダシップといい、人としての能力が格上だ。
今回のバスケも、マレフィクス自身そこまで本気を出していなかったが、チームをチェスに見立てて戦略された。
それに負けた。
やはり俺は、何もかもマレフィクスには勝てない。
「くそぉぉ」
「仕方ねぇってヴェンディ、マレフィクス一人居るだけで負け確みたいなもんだろ?」
「そうそう、どんな奴だってマレフィクスの助言でチームに貢献し、試合に活躍できる。それにあいつ自身が魔物以上の身体能力だろ?仕方のないこと……そう悔しがるなよ」
俺のチームメンバーがそう言った。
チーム戦力はこっちが上だったし、連携も上手く取れていたが、敵にマレフィクスが居れば全て無駄。
皆嫌という程分かっていることだ。
不意打ちもダメ、チェスもバスケも惨敗、ここまで来ると心が折れそうだ。
「ヴェンディ、次は何で勝負する?」
「俺が決めていいのか?」
「良いよ」
この時、俺が絶対に勝てるような勝負を考えた。
そして閃いた。
「じゃあどちらが彼女を早く作れるかだ!俺が勝ったら例のやつ、頼むぜ」
「……もう居るとかじゃないよね?」
「そんなズルはしてない」
「良いだろう……変態ヴェンディと天才マレフィクスの三試合目だ」
マレフィクスは男女関係なくモテるが、かなり怖がられており、正面から近付こうとする者はあまり居ない。
転入そうそう女の子の髪を燃やしたこともあり、特に女の子には恐れられている。
俺の方がイケメンだし、モテ男で優男だ。
それに、彼女になってくれそうな人が既に居る。
あらゆる才能や力で負けている俺でも、この勝負に負ける要素はない。
「よーいドン!」
五時間目が終わると、俺は急いで教室に戻った。
マレフィクスはとろとろ歩いているし、もうこれは勝ち確だ。
俺とマレフィクスは特級クラス、そして俺の彼女候補は上級クラス。
五時間目の後の休み時間、上級クラスのドアを強く開けた。
「ホアイダ!!ちょっと来て!」
「何ですヴェンディ?そんなに慌てて」
「良いから!」
彼女候補、それはホアイダだ。
学校の皆も薄々気付いてるが、ホアイダは女の子だ。
ホアイダの胸を触ったことがある……そこで確信が付いた。
心の性別はともかく、体は女性だ。
――頼む読者の皆、あんなマレフィクスより、こんな俺を……応援してくれ。
「ちょっと!」
俺はホアイダの手を取り、人気のない空き教室に連れ込む。
「今からとても大事な話をする」
「……いきなり、何です?」
「良いから聞いてくれ」
バスケ後、更に走った後ということもあり、俺の息は乱れていた。
ホアイダは訳の分からない顔をし、きょとん顔をしている。
「俺はお前に何度も救われた。お前はそれを知らないかもしれないが、俺はその都度感謝していた……勿論今も痛いほど感謝している」
「……」
突然、真剣な眼差しで真剣な話をされたホアイダだったが、不思議そうにしながらも、黙って話を聞いてくれた。
「お前が好きだ……付き合って、下さい」
さっきまで勢いと覚悟に任せていた俺も、告白の時には声を小さくしてしまい、照れてしまった。
ホアイダも驚いたように目線を逸らし、少し困ったように唇を舐めた。
「何の真似ですか……私をからかってるのですか?」
「違う」
俺がホアイダの疑問に即答すると、ホアイダは頬を赤らめて何かを探す素振りを見せた。
「ポム吉……教室に置いてきちゃった」
どうやらポム吉を探していたようだ。
きっと顔を隠す為、照れた自分を隠す為のポム吉が必要だったのだろう。
「俺は本気なんだ」
「ごっ、ごめんなさい……私ヴェンディやマレフィクスのおかげで自分の性別が分かりかけてきました……それでもまだハッキリしてませんし、ヴェンディとは友達のままで居たいです」
根拠のない自信を持っていた俺の心は、どん底に叩き落とされた。
ホアイダは申し訳なさそうに頭を下げ、早歩きで空き教室を出て行く。
空き教室に一人取り残された俺は、涙目になりながらも唖然とつっ立ってる。
振られて冷静になる。
――なぜ俺は告白が成功すると思っていたのか?
色んな勘違いと、多くの思い込みが俺に自信を与えていただけだった。
ホアイダのことを分かった気でいて、何にも分かってない。
自分を理解したつもりで、何にも理解してない。
だからマレフィクスにも負けるのだろう。
「大丈夫だよヴェンディ、他の彼女作れば良いっしょ」
いつから居たか分からないが、気配もなく、空き教室の机に座っていたマレフィクスが、ニコニコしながら言う。
「そんな軽い男に見えるか?」
「見えるよ」
「俺が好きなのはホアイダだ……他の選択はない」
「じゃあ、この勝負引き分けね」
「そうだな」
その日、マレフィクスに夕食を奢らせられた。
デザート付きのカフェで、泣いてる俺を嫌という程バカにし、嫌という程煽った。
何故か、素直に慰められるより、小馬鹿にされる方が楽になった。




