表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離愁のベゼ ~転生して悪役になる~  作者: ビタードール
五章『悪の組織編』
46/93

第四十四話『アリア.ベゼ.ラズル』前編

 * * * * *


 ベゼが世界中に姿を見せてから三年半が経つ。

 マレフィクス、ヴェンディ、ホアイダの三人は16歳になり、時期は四月の秋を迎えていた。

 三人は三学期を卒業して、四学期を迎えようとしていた。


 一段階二段階と、歳を重ねる者が居れば学校を卒業する者も居る。

 それは六年制の基礎学校も、同じく六年制の専門学校も同じことだ。


 三人の住むエレバンは大国で、大都市メディウムもかなり大きい都市だ。

 だが、エレバンの都市はまだまだ多く存在する。

 大きな都市も、小さな都市も存在する。


「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


 この小さな都市『ピリア』でも、卒業式が行われ、多くの者が嬉し涙と共に卒業していた。


「きゃぁぁぁ!!」


 だが、この基礎学校の卒業式は、一人の少女によって地獄と化した。

 何があったか分からないが、一人の少女がいきなり、男の子と女の子を一人ずつナイフで刺し殺した。

 周りの者は慌てて、女の子から逃げる。


「アナベル……ちゃん。何やってんの……」

「もう、どうでも良いや。氷魔法、エイス.フモール」


 少女は近くに居た友達にナイフを刺し、足元から出した氷で人々の足を凍らせた。

 周りの人々は氷で身動きが取れなくなる。


 少女は、手に隠し持っていた数十本のナイフを人々に投げた。

 だが、そこに現れた警察の魔法により、ナイフは弾かれてしまう。


「囲め!」


 警察は少女を囲まみ、地面に張られ氷を火魔法で温めた。

 氷が溶けると人々が逃げて行く。


「あぁ!」

「無駄な抵抗はやめて跪け!」


 少女がナイフを投げても、警察の使う守りの魔法を突破することは出来なかった。

 少女は、悔しそうに泣きながら膝を着いた。


「今だ捕まえろ!」


 警察の一人がそう言った瞬間、遠くから悲鳴と爆発音が聞こえてきた。


「きゃぁぁぁ!!」

「逃げろぉぉ!」


 そして次の瞬間、警察が皆魂を抜かれたように倒れる。

 少女には何が起きたか分からなかった。


「何があったのかな……」

「あぁ……ぁ……」


 少女の目の前に現れたのは、今魔王以上に世界中を恐怖させているベゼだった。

 先程逃げて行った子供達や大人の首を持って、血塗れになっている。

 少女は目の前の存在に震えた。


「僕はベゼ……君がそこに倒れている三人を殺ったのを……見ていたよ」

「あっ……」

「君の名前は?」


 ベゼは少女の顔を撫でるように触った。

 そして、指で優しく涙を拭う。


「アナベル……」

「酷い名前だね。それで、何があったか教えてくれる?何であの三人を刺したの?」

「あっ……あの男の子は私と付き合っていたの。けど、あそこの女と付き合いたいからって、私を捨てた」


 少女――アナベルは、不思議と言葉が詰まらなかった。

 目の前の存在に恐怖していたはずが、妙な安心感を覚えてしまっていた。


「つまり、彼女への嫉妬かい?」

「いや……私は男の子を愛してなかった。ただ愛を知りたかった……好きって言われたから付き合ったのに、身勝手な彼に怒りが沸いた。好きなだけ私を愛して、飽きたら捨てる。私はその愛を知りたかっただけなの……」


 アナベルは、ベゼに話を聞いてもらっているだけで、不思議と心が和んでいた。

 周りでは人々が大勢死んでいるのに、不思議とベゼに魅了されていた。


「つまり彼への嫉妬だね。けど、それだけではないでしょ?」

「それだけではない?」

「辛かったのだろ?両親には虐待され続け、いつも自分でも分からない殺意に苛まれ、愛することを知らない。君の気持ちは痛い程分かるよ」


 ベゼの知るはずのない真実だ。

 しかし、ベゼが言ったことは、アナベル自身のことで、全て事実だった。


「何で知ってるの?」

「何でだろうね」

「貴方も、痛い思いをしたの?」

「したよ……けど今は幸せ。君にもこの幸せを分けてあげたいな」

「無理よ……私は幸せにはなれない」

「なれるさ」


 ベゼがそう言うと、上空からゆっくりと白鳥のような美しい人型の魔物――オルニスが現れた。

 オルニスは、二人の人間を生きたまま抱えている。


「え?」


 その人間二人は、アナベルの実の両親だ。

 アナベルが顔を上げた時には、街中は火の海になっており、人々の悲鳴が聞こえなくなっていた。


「この二人は君を苦しめてきた両親だ……生かすも殺すも君次第」

「アナベル!助けて!」

「この魔物を倒してくれ!」


 アナベルの両親は、アナベルに助けを求めた。

 しかし、この両親はいつもアナベルを虐待している親に値しない者。

 決して、アナベルが助けたいと思うような人ではない。


「私が二人を殺しても、私を殺さない?」

「殺さないよ」


 ベゼがそう言った瞬間、アナベルは迷うことなく両親の頭にナイフを突き刺した。

 何回も何回も、憎しみと怒りに満ちた表情で刺した。


「あああぁぁぁ!!やめろぉぉアナベルゥ!!」

「ざっけんな!!都合の良い時だけ頼りやがって!!今日だって卒業式に来なかったくせにぃ!!お前ら死んで当然だ!」


 頭や胸や腹を、容赦なくナイフで切り裂く。

 両親が死んでも、憎しみと怒りを払う為だけに何度も刺した。


「どう、少しスッキリした?」

「しました……やっと殺せて、ほんの少しだけ気が楽になりました」


 アナベルの震えはなくなっていた。

 代わりにあったのは、情熱に満ちた表情だった。

 そんなアナベルのその表情を見て、ベゼがニヤリと笑う。


「二つ選べ。犯罪者としてこの街に残るか、僕に忠誠を誓うか」

「貴方に忠誠を誓います。街に残っても、いずれ捕まってしまうので」

「賢い判断だ……では、君に名前を与えよう。新しい君に生まれ変わるんだ」

「名前を……下さるのですか?この両親が付けた名前を捨てれるのですか?」

「そうさ」


 アナベルの死んでいた瞳は、徐々に輝き始めていた。

 ベゼという存在に、知らず知らずの内に魅了され、感謝をしていた。


「今から君は、アリア。姓は……僕と同じ、ベゼ.ラズル。そう、君はアリア.ベゼ.ラズル……分かったかい?」

「アリア.ベゼ.ラズル……とても気に入りました。それに、貴方様と同じ姓を貰えるなんて……」


 アナベル――アリアは嬉しそうに笑う。

 アリアを撫で、ニコッと笑うベゼは、自分の正体をアリアに見せた。


「え?顔が……」

「こっちが本当の顔、マレフィクス.ベゼ.ラズル。つまるところ僕は、魔物ではなく人間さ」


 ベゼの顔がマレフィクスの顔に変わる。

 その変わりように、アリアも驚きを隠せないでいた。


「君は、僕の初めての仲間……君が忠誠を誓った今、僕は君の意見も尊重する。愛を知りたいんだよね?僕が少しずつ君に教えてあげよう。今まで辛かったね……これから幸せになろう。ちょっとずつで良いから、愛と幸せを学んでいこう」


 甘い言葉を掛けながら、ベゼ――マレフィクスはアリアを軽く抱き締めた。

 お互い血塗れになっているが、そこに拒絶はなく、あるのは愛情に限りなく近い温かみだ。

 少なくとも、アリアの方はそう思った。


 自分も他人も信じたこともなく、誰も愛したことない少女が最初に愛した者は、人々が悪魔と呼ぶ存在だった。

 ドス黒い程の邪悪で、私利私欲の為にしか生きることをしない悪魔だ。

 アリアは悪魔に魂を売ったのだ。

 その代償は、人間であることを捨てること。

 代わりにアリアが得たのは、愛と居場所だろう。

 だがきっと、アリアは後悔しない。

 だって、アリアにとってその悪魔は、ヒーローなのだから。


「うぅ……あぁぁ〜ん!」

「よしよし」


 アリアは、ずっと我慢していた苦しみの涙を流した。

 そんなアリアをマレフィクスが赤子をあやすように撫でた。

 その表情は、優しい笑みであったが、同時に事が上手く進んだような笑みでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おぉ、アリアちゃんが登場しましたね。アリアちゃんが今後どんなことをするのか楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ