第四十話『オルニス.ルスキニア』前編
周りは死体と血で染っていた。
家や畑が燃えて居る光景は、僕が最初に襲ったエアスト村を思い出させる。
「まさか、ベゼの正体が人間だったとは」
僕は『ベゼの顔』を『マレフィクスの顔』に戻した。
そして、能力番号23『息を強風に変える能力』を使い、強風を起こす。
「息がこんな強風にぃ?」
オルニスは羽根を広げて、風を受けながら後方に下がる。
――能力番号17『指を銃に変える能力』。
スナイパーライフルに変えた指を、オルニスに向けて弾丸を一発放つ。
空中に居たオルニスは、避けるのが間に合わず弾丸を体に受けた。
「ぐはぁ!このガキィ……うげぇ!?」
――能力番号22『鉄製の物を大きくする能力』。
それだけでなく、オルニスの体に入った弾丸が、体から飛び出すくらい大きくなる。
「ああぁ!?何だこれは?弾丸が大きく見える……ぞぉ?」
「能力番号24『影から死神を出す能力』!」
更には、僕の影から這い上がるように死神が現れる。
黒い影を服のように纏い、大きな鎌を持った太い骨が特徴的な骸骨――死神は浮いており、僕の三倍は大きい。
「悪魔と死神のコンビから、どう逃げる?チープな魔物よ」
僕は羽根を広げ、死神は鎌を鎌を構える。
二人で、オルニスに攻撃を仕掛ける。
オルニスは慌てて、羽根を弾丸のように飛ばし、頭の羽根を鋼に変え、僕や死神に振りかざす。
僕と死神は羽根を避けながら、双剣や鎌を振るう。
しかし双剣も鎌も、オルニスの硬い硬い羽根を断ち切ることは出来なかった。
「硬ぇな」
明らかに、先程より皮膚が硬くなってる。
しかし、代わりに動きが遅なった。
どうやら羽根の強度を上げると、スピードが落ちてしまうようだ。
「図に乗るなベゼ!お前はもう、死の一歩手前だ!」
オルニスの腹の骨が光を放った。
その光から危険を感じ、死神を前に持っていき、出来るだけ後方に逃げる。
「もう遅い!」
オルニスの骨が光と電流を放ち、僕へ向けて魔法を放たれた。
「フンッ!」
――能力番号31『体の一部にバリアを張る能力』。
右手に張ったバリアで、光と雷の魔法を防ぐ。
しかしバリアは、呆気なく破壊される。
「ありゃ……思った以上に強度弱――」
魔法は死神をチリにして、背後に居た僕にも当たった。
「がはぁ!」
黒い羽根は無くなり、地面に落下する。
オルニスはニヤニヤと笑いながら、真っ黒焦げになった僕に近付く。
腹に刺さった大きな弾丸を抜き、傷を羽根で塞いでいる。
「可哀想に……直撃し――」
慢心したオルニスの胸に、銃が放たれる。
その銃弾は大きくなり、オルニスの胸を大きく削った。
「ぐはぁ!まさかお前……生きて!?」
「逆に死んだと思ったのかい?」
僕の体は、焦げてしまった硬い岩で守られていた。
この岩は、布を岩の鬼――『ロッツ.オグル』の皮膚に変えた物だ。
おかげで、致命傷にはならないで済んだ。
「いや死ねよ」
オルニスは胸の弾丸を引き抜き、睨みを効かせる。
「僕に命令できるのは僕だけだよ。あっ、そうか……力が無いから自分では殺せないのか……だから本人に頼んだんだね?可哀想に……」
「あぁ?寝ぼけてるのか?」
「それお前だ……来いよ寝坊助野郎」
オルニスは羽根を大きく広げ、鋼の羽根を飛ばす。
僕は羽根を手から出すバリアで防ぎながら、周りを猿のように走り回る。
走って逃げる道中に、冒険者の死体に触る。
いや、正確には冒険者の着ている服に触れてる。
「何!?」
「大ボケオルニス?何間抜けズラしてんの?」
死んだ冒険者の服が、次々と『ボーン.アダラ』に変わる。
サイズは僕の身長にも満たないが、代わりに動きが早い。
アダラの軍隊は、羽根を掻い潜りながらオルニスに向かって行く。
「「ロオォォ!!」」
「雑魚が何体居ても変わない」
アダラの軍隊は、オルニスが起こした風で軽くあしらわれた。
「逃げてく?怖気付いたかな?」
アダラの軍隊は、オルニスから離れるように一ヶ所に逃げた。
そして皆で体を寄せ合い、震える。
こう見ると、アダラも可愛く見える。
「震えてもダメ、皆死のうね」
オルニスが光と雷の魔法を放とうとしたその瞬間、アダラの軍隊は、光を放って合体した。
アダラの大きさは、通常のサイズに限りなく近くなる。
オルニスなんか踏み潰せそうな大きさだ。
「合体!?」
「ロオオオオォォ!!」
アダラは元々小さな服で作った存在……だから服を集めて巨大なアダラになれた。
しかしオルニスは、上空を空高く飛んでアダラの頭上に身を置いた。
「所詮、魔法をぶつける為の骨の塊」
オルニスは再び光と雷の魔法を放った。
だが、先程の魔法とは威力が桁違いだった。
アダラの体は、魚の背骨が綺麗に剥かれるように、魔法で裂かれた。
「ロオオォ……」
アダラが死に、その姿が元の服に戻る。
「凄い威力だった!僕にはその威力の魔法は無いし、能力ですら破壊力に欠ける!本当に凄い!」
「それはどうも……お礼に最大級の威力をプレゼントしようか?」
ゆっくり地に降りてきたオルニスは、爽やかな笑顔を見せる。
僕に近づき、大胆に距離を縮めて来る。
「ぜひ。しかし、プレゼントを先に贈るのは僕だ」
再びローブを羽根に変え、宙を舞う。
オルニスの一歩上に出た僕は、オルニスに被せるように、大きな布を広げた。
「君がアダラと遊んでる間に村中のカーテンや布を集めて来た」
この布は、集めた衣類を能力番号25『物と物を接合する能力』で接合した巨大な布。
そしてこの布は、巨大な生き物に姿を変える。
――能力番号19『衣類を生物に変える能力』。
「君が可愛そがっていた、レフコス.ドラゴンだッ!」
「なにぃ!?うげぇ!」
布は一瞬にしてドラゴンの姿に変わる。
ドラゴンと地面の距離が近かった為、オルニスはドラゴンと地面に挟まれてしまう。
「うぉぉぉ!!」
「へへっ!せいぜい醜く頑張れ!世界一醜いサンドイッチの完成よ!」
オルニスはドラゴンを押し上げようと、手足を必死にドラゴンの体に押し当てる。
――能力番号3『手から釣り糸を出す能力』。
手から出した釣り糸をオルニスに引っ掛け、ドラゴンの上から引っ張る。
釣り糸をこの状況で強く引っ張ることで、より重い圧がかかる。
オルニスは力を入れ、自身とドラゴンの間に羽根も入れるが、重力とドラゴンの体重の方が強い。
オルニスは腕が折れて、血を吹いて地面に挟まれた。
「ハハッ!可哀想に……こんな汚ぇ奴を踏み潰したドラゴン……君が可哀想だよ」
ドラゴンから降り、潰されたオルニスを確認しに行く。
ドラゴンの下から血が溢れ出て、オルニスの腕が引きちぎれていた。
「貴様ァァァァ!!ベゼェェ!!」
「がはぁ!?」
しかしオルニスは生きていた。
ドラゴンの下から這い上がるように出てきて、血だらけで体が潰された状態なのに、鳥のような足で蹴りを入れて、僕の体に乗った。
「ああああああああぁぁぁ!!!私の腕が無くなってしまった!!再生するまで無様で不便で仕方ないんだよぉぉ!!」
怒り狂い、僕の顔の前で叫ぶ。
「だから何だよ」
――能力番号27『二秒間重力を反転させる能力』。
能力により、オルニスの体は周りの物や家と一緒に、地面から離れる。
僕はその隙を着いて、後方に下がる。
二秒間が立つと重力が戻って、勢い良く家や物が地面に落ちる。
「負け犬の遠吠え……君は鳥っぽいけど、君にピッタリだね」
「私のプレゼントがまだだったな?プレゼント内容は先に教えてやる……この村全てに範囲が及ぶ雷魔法だ……逃げることは出来ない」
オルニスの目に嘘は無かった。
ハッタリでも無い……僕はそれを知って慌ててオルニスに立ち向かった。
逃げることが出来ないなら、魔法を放つ隙を与えないことが必要だと悟ったからだ。
「マーちゃん急げ!奴を止めるんだよ!」
自分で自分を奮い立たせる。
「もう遅い!雷魔法、フォス.セリーニ!」
僕が攻撃するより先に魔法が放たれた。
オルニスを中心に、地面が歪む程の電撃が走り、周りが一切見えなくなる。
家や畑が台風の後のように荒らされ、消し飛んだ。




