第三十七話『緊急クエスト』
*(ホアイダ視点)*
ベゼが世界番号『1』バグーの首都『アヴァロン』を襲撃してから四ヶ月経った。
世界はベゼという存在に怯えていて、今まで恐れられていた魔王の存在を忘れてかけていた。
不定期に現れるベゼに、世界中が恐怖している。
この国の夏も終わりが近付き、季節は秋になり始めていた。
今日この日、十二月六日、私の誕生日である。
マレフィクスとヴェンディから、誕生日プレゼントを貰った。
マレフィクスからはギルドで使う武器、二丁拳銃。
今日午前、ギルドの登録のついでに、店で勝って貰った。
ヴェンディからはポム吉に似た着ぐるみパジャマ。
今日午後、二人で遊んだ帰りに貰った。
「「誕生日おめでとう!」」
「お父様、お母様、ありがとうございます」
夜は家で誕生日パーティをした。
ご馳走やケーキが、テーブルにずらりと並ぶ。
「今日はギルドに登録してきました。初クエストもマレフィクスと二人で行きました」
「どうだった?楽しかったか?」
「魔物を殺したました……それが依頼内容だったので」
私の発言は、父と母を困った表情にさせた。
何とも気まずそうな表情だ。
「私は分からないです。牛や豚のように食べる訳でもないのに、魔物を殺すことが正当化されているこの現状が分からないです」
それでも私は、自分の気持ちを正直に両親に話した。
疑問の答えを少しでも知りたい……物事に納得したいのだ。
「確かにな。けど悪さする魔物なら仕方のないことだろう。魔物は人に比べ知力が足りない……人の法律は通用しないし、話が通じるなら殺す必要もない。我々人間は、全ての生き物にとって正しく生きることは出来ない……誰かを守るってことは、誰かを守らないと言うことだ。少なくとも悪さをする魔物を殺すことは、人々にとって正しいことだと、父さんは思う」
「……それは、誰もが皆の正義にはなれないと言うことですか?」
「そういうことだな」
私はきっと、これからも魔物を殺すことを躊躇してしまうだろう。
しかし、その行為が誰かの為になっていると考えれば、ほんの少しだけ覚悟が決まってくる。
*(マレフィクス視点)*
一月一日。
ベゼとして活動してからかなり時間が経った。
いっぱい人を殺したから、能力もいっぱい増えた。
現在の能力は以下の通りだ。
『0』能力を奪う能力。
『1』爪を尖らせる能力。
『2』行ったことある場所に転移する能力。
『3』手から釣り糸を出す能力。
『4』水を熱くする能力。
『5』相手から恐怖を無くす能力。
『6』鉄を消す能力。
『7』痛みを一つ消す能力。
『8』音が目に見える能力。
『9』皮膚の一部を硬くする能力。
『10』髪の毛に意志を与える能力。
『11』影を水に変える能力。
『12』スライムを作る能力。
『13』周りの死を感じる能力。
『14』木を枯らす能力。
『15』岩を降らす能力。
『16』涙を垂らした場所に爆弾を仕掛ける能力。
『17』指を銃に変える能力。
『18』鏡を作る能力。
『19』衣類を生物に変える能力。
『20』姿形を変える能力。
『21』寝れば傷が治癒する能力。
『22』鉄製の物を大きくする能力。
『23』息を強風に変える能力。
『24』影から死神を出す能力。
『25』物と物を接合する能力。
『26』血を固める能力。
『27』二秒間重力を反転させる能力。
『28』物を浮かす能力。
『29』食べ物をより美味しくする能力。
『30』他者の目と視界を共有する能力。
『31』体の一部にバリアを張る能力。
『32』生き物の気配を感じる能力。
『33』遠くの出来事を知る能力。
『34』相手の記憶を見る能力。
『35』物を透かして見る能力。
能力数『40』になるまであと五百人。
そして今日、時間は朝の10時。
僕は急いでギルドに向かっていた。
「緊急クエスト発令!緊急クエスト発令!ミラク村にレフコス.ドラゴンが出現!」
ギルド内にはアナウンスが流れていた。
そう、緊急クエストが発令したから僕は急いでギルドに向かっていたのだ。
緊急クエストとは、その名の通り非常事態のクエスト。
今のようにドラゴンが現れたり、魔物やベゼの襲撃があったり、土砂崩れを防いだり、そういう緊急時に出るクエストだ。
活躍の具合によって、報酬や称号が多く貰える。
「マレフィクスおはようございま――」
「セレナ早く!僕を転送して!ドラゴンの場所に!」
「はっ、はい。……分かりました」
受付人が、すぐに僕のことをクエストの場所に転送してくれた。
* * *
「屋根の上?低い屋根だな」
転送された場所は酷く荒れていて、とってもうるさかった。
僕の足元には、崩れた家がある。
どうやら、この場所――ミラク村はドラゴンの襲撃に会ったのだろう。
魔物がたくさん居る森と近いから、きっとそこから来たのだ。
しかし、村の住人は居ない。
恐らく、もう避難が完了したのだ。
「ギャオおおおぉん!!」
ドラゴンの咆哮が聞こえてきた。
少し遠くで、何十人もの冒険者がドラゴンと戦っている。
その中にはエリオットとハンナ、そしてホアイダも居る。
ドラゴンは腕や尻尾が切れており、血をたくさん流して今にも死んでしまいそうだ。
「トドメだけは僕がやる!」
あのドラゴンを殺すことが出来れば、能力番号20の『衣類を生物に変える能力』で創れるようになる。
僕の手で、必ずドラゴンを始末しなければならない。
「邪魔!」
冒険者達の横を駆け抜け、死に損ないのドラゴンの胸を双剣で刺す。
「マレフィクス!?」
「近付き過ぎだ!!そんな慌てなくても倒せる!一旦引け!」
冒険者達は、突如現れた僕に必死に声を掛ける。
僕があまりにもドラゴンと近いから、親切に危険を教えてくれてるのだ。
「いいや引かないね!」
双剣を引き抜き、再び別の場所に刺す。
そして、ドラゴンの穴が空いた胸に手を突っ込む。
「フォティア.ラナ!」
ドラゴンの胸の中で、火が放たれた。
「ガギャニァアアァァァ!」
ドラゴンは耳が痛くなるほどの悲鳴を上げた。
すぐに突き刺していた手を引き抜き、双剣も引き抜いた。
ドラゴンから距離を取った時には、既にドラゴンは死んでいた。
血をたくさん流し、体の一部をたくさん失い、苦しそうに死んでいる。
「やった!」
「ナイスだマレフィクス!!」
「よっしゃあぁぁ!」
冒険者達は、皆一斉に喜んだ。
「本当に君は……無茶するな」
「遅く来て良いとこだけ取っていくなんて、マレフィクスのずるい奴」
エリオットやハンナが、少し安心した表情で話しかけてきた。
もう半年以上この二人とクエストを熟してきたから、僕らは結構仲が良い。
「天才マーちゃんですから」
会話の途中、ふと、横目にホアイダが映った。
皆が喜んで居る中、一人だけ死んだドラゴンに寄り添い、ハンカチを使って丁寧に血や泥を拭いてあげている。
その行為や表情は偽善ではなく、ドラゴンへのせめてもの償いだ。
虚しい表情をしているが、決してドラゴンへ言葉を掛けなかった。
恐らくそれは、その行為が自己満足でしかないのを分かっているからだ。
冒険者達は皆疲れきっていた。
中には傷を負った者も居るし、気絶して倒れている者も居る。
皆ギルド内が混雑しないよう、怪我人を優先的にギルドに転移させている。
「まだ気を抜くな!帰るまでがクエストだぞ!怪我人がまだ居ないか探せ!」
こういう時は決まって、長年冒険者をしているおじさん冒険者が仕切ってくれる。
こういう時の人々は団結力がある。
「何だ?今の――」
僕は反射的に後ろを振り向いた。
何か、明らかに人ではない強大な気配を感じたからだ。
――能力番号32『生き物の気配を感じる能力』。
この能力を使えば、その気配の持ち主がどのような者かだいたい分かる。
優しい奴ならそういう気配を感じるし、元気な奴なら元気な気配だ。
この能力を使って、背後の気配を確かめた。
その気配はやはりあった。
明らかに冒険者の気配ではなかった……僕に近いような気配だ。
悪の気配――それもかなり大きい気配だ。
「何だアイツ?」
冒険者の数人が、その気配の持ち主に気が付いた。
その気配の持ち主は、パッと見清らかな表情をしてドラゴンの死体に額を付けていた。
「あぁ、可哀想に……私がもっと早く来てれば死ななかったのに……」
そいつは体が鳥の毛のようにフサフサで、腹の部位だけ太い骨が見えている。
そして、鳥の頭蓋骨を帽子のように身に付け、耳のような長くて大きい羽根が頭から生えている。
女性のような美しい手には指が無く、足は鳥のような足だ。
しかし、顔は魔物というより人に近い。
表情もあるし、目とか口もしっかり付いている。
「あれ魔物か?今共通語を喋ったよな?」
「なんか細くて弱そうだな」
冒険者がその魔物を見て、不思議がっている。
徐々に、救助活動をしていた冒険者達も、その存在に気付き始めた。
優しい表情と美しい白鳥のような姿をしているが、こいつの気配は悪の気配がした。
人々にとって、危険じゃない訳がない。
「お前達がこのドラゴンを殺したのか。どうやら、生かしておく訳には行かないようだ。この私、魔王軍幹部のオルニス.ルスキニアがお前らを罰する」
魔王軍幹部を名乗った男は、ドラゴンの血を優しく舐めた。




