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離愁のベゼ ~転生して悪役になる~  作者: ビタードール
四章『ベゼの誕生編』
35/93

第三十三話『計画的混乱』前編

 * * * * *


  街の住民は、カタラの石がある中央地から遠くへと逃げていた。

 しかし、まだ何人もの人々が目に入る場所からベゼを名乗る男を見ていた。

 彼らは、安全より好奇心を優先させてしまった者達だ。


「逃げた奴らを殺しに行くか」


 ベゼはカメラから目を離し、まだ近くで逃げている人々を見た。

 しかし、ベゼが人々を追おうと足を運ぼうとしたその瞬間、カメラマンが構えていたカメラが壊れ、空から現れた少年がベゼの首元を剣で切った。


「ちっ。浅いか」


 首を切られたベゼは、至って冷静だった。

 即座に少年の剣を蹴り上げ、流れるように少年を蹴り飛ばす。


「君は誰かな?」


 ベゼは、近くにいたカメラマンとアナウンサーを虫を殺すかのように銃で撃ち殺す。


「クズ野郎……知っているくせに」

「お互い正体は隠そうよ……その為にカメラを壊したのだろ?僕はベゼ……君はセイヴァーだね」


 ベゼは可愛らしく笑い、おどけたように足を遊ばす。

 ステップをしたり、宙に浮かんだりと楽しそうだ。


「お前のその顔、その見た目、わざわざメイクしたのか?いや、それにしては身体付きも細身になっている気がするし、指とか髪の長さも違う。魔法だな?」


 白いフードを被り、目元が隠れるハーフマスクを身に付けた小柄の少年のような男――セイヴァーは、ベゼと間合いを取りながら会話をする。


「あと45分、早く来な」

「お前こそ、早く逃げたらどうだ?」


 セイヴァーは自信満々に笑みを浮かべ、地面に手を当てた。

 地面は、触れている場所から瞬間的に紙になり、半径50m全て紙になった。

 そして、セイヴァー自身も紙になり、地面を軽く切り、その切れ目に入って行く。


「高ぶってきたよ」


 遠くから見ていた人々は困惑していた。

 突然現れて、警察や冒険者を次々と殺し、街を暴れ回るベゼ。

 そして、そのベゼを止めに来たセイヴァー。

 その二人が戦い始めている光景……その全ての事実が人々を困惑させた。


 まだ、人々の安全を確保する警察、魔物を倒している冒険者、火を消す消防隊など、街で戦っている者も居る。

 それだけでなく、逃げ遅れた人々やベゼを見張る人々など、街の中には人々が大勢残っている。

 彼らは、皆セイヴァーがベゼを止めてくれる未来を期待していた。


 * (ヴェンディ視点)*


 ベゼの見た目は、俺の知っている見た目とは明らかに違った。

 正体を隠す為に、変身の魔法を持っていると考えて良いだろう。


 そして信じたくなかったが、ベゼはマレフィクスで確定だ。

 こうやって目にしたことで、マレフィクス=ベゼという事実が99%から101%になった。


 そして奴は人間じゃない。

 街を平気で壊すし、人も平気で殺す。

 さっきだって、アナウンサーとカメラマンを呼吸するかのように殺した。


 逆に言うなら、あのクソ野郎を同情も躊躇も無く殺せる。

 躊躇う理由はあったが、今ので全て無くなった。

 今ここで始末する。


「お前は自分が特別だと思い過ぎだ……薄汚れた悪魔の分際で」


 今俺は、ベゼの足元で紙になった姿で潜伏している。

 この紙になった地面の中に、大量の爆弾を仕掛けた。

 爆破系の魔道具だったり、ダイナマイトだったり、とにかくここら辺は軽く吹っ飛ぶ。


「お前はマレフィクスではなくベゼだ。マレフィクスはもう思い出の中の友達……貴様は死ね」


 爆破範囲外まで移動し、爆弾を作動させる。

 瞬間、紙の地面はぶっ飛び、周りの建物も台風で吹き飛ぶ傘のように崩れ、吹き飛んだ。


「解除」


 爆風が収まったあと、能力を解除して、紙になっていた建造物を元に戻した。


「死体は……あれか?」


 ベゼの死体はすぐに見つかった。

 爆発をもろに受けたせいか、手足が無くなっており、顔の皮膚も半分焼け剥がれている。

 ベゼが身に付けていた服を来ているし、姿形もベゼだ。


「……くそっ」


 ベゼの最後の声を聞いた。

 掠れた声で、何とも呆気なく力尽きた。

 それと同時に、顔や体付きが俺の知る姿に戻っていく。


 長めの黒い髪、透き通った肌、綺麗な骨格――マレフィクスだ。

 死んで魔法が解けたことで、姿形が戻ったのだろう。


「その顔になられると……流石に辛いな」


 仮面の下で涙を堪えながらも、ベゼの死体を折り紙サイズの紙にして胸ポケットに入れた。


「やったのか!?」

「奴を倒した!やった!あの仮面の少年がベゼを倒したぞ!」

「やったああぁ!」

「助かったぁ!」


 遠くから人々が駆け寄ってきた。

 ベゼの死体を目にした者が、安全と安心を確信したのだ。


「あれセイヴァーだよ!ネットで見た写真と似てるもん!」

「セイヴァーありがとう!!同じ犯罪者でもあんたは正義の犯罪者だ!」


 賞賛の声を聞いた俺の心情は複雑だった。

 ベゼを倒したあとだからか、マレフィクス=ベゼという考えが過ぎってしまう。


 遠くから警察や冒険者も次々と姿を見せる。

 どうやら、魔物の撃退が終わったようだ。

 それにベゼが居ない今、もう逃げる必要はない。

 人々は少しずつこの中央地に戻って来るだろう。


「君がセイヴァーだな。本来は逮捕させてもらう立場だが、今回は礼を言う。本来にありがとう」


 警察の一人が、かしこまって敬礼をした。


「まだ街に怪我人が居る。爆風で瓦礫に挟まっている者も居る……早く助けに行って下さい。そして出来れば、俺を追わないで下さい」

「……あぁ、そうする」


 警察達は、救急隊や冒険者と共に人々の救助に回った。

 それを確認した俺は、人々に称えられながら、その場を去ろうと、震えた足を動かす。


「マレフィクス……」


 俺の仮面が濡れた。

 胸元に手を当て、マレフィクスとの思い出を思い出してしまったのだ。

 ベゼもマレフィクスも死んだ……複雑な気持ちというのはこのことを言うのだろう。

 心が虚しい。


「泣いてるの?」


 俺の背後で、聞き慣れた声がした。

 その声は、俺を骨の髄までゾッとさせた。


 恐る恐る背後を見ようと、目線と首を右後ろに動かす。

 そこには、黒いフードを被って目元を隠した少年が、牙の生えた歯を見せてニヤリと笑っていた。


「嘘だ……確かに俺は……」


 俺はすぐに振り返った。


「バーイ!」


 振り返った時には手遅れだった。

 フードを被った少年は、笑みを見せたまま人混みに消えて行く。


「皆気を付けろ!!まだベゼが生きている!今黒いフードを被ったベゼがその人混みに逃げたのを見た!それらしい奴を見たら逃げろ!!」


 何が起きているか、俺もまだ全然分からない。

 しかし、ベゼが生きている可能性がある限り、人々への呼び掛けは必要だ。


「何言ってんだ?さっき死体を見たぞ?セイヴァーが死体を小さくして胸ポケットに入れてたろ?」

「そうよ!何言っての?」

「え?どっち?まだ生きているの?死んでんの?」


 だが、人々は信じようとしない。

 さっきベゼを始末した本人が、死んでないと言うのはおかしいからだ。


「胸ポケットの紙……解除」


 俺は人々の言葉で思い出し、ポケットの紙を取り出し、解除した。

 折り紙は死体に戻る。


「何だ……どうなったんだ?奴は……一体何を?」


 確かに、紙にした死体はマレフィクスのものだった。

 もっと詳しく言うなら、魔法が解け、ベゼの顔がマレフィクスに戻った者。

 この目で確かに見た。


 けど、今この場にある死体は全然知らない人間の顔だ。

 身長や体格もマレフィクスとは違う。

 さっきまでマレフィクスだったのに、折り紙にして解除したら別人になっていたのだ。

 頭がどうにかなりそうだ。


「居たぞ!ベゼだ!」


 ――なんだと?


「どこだ!」


 人混みを押し寄せて、声がした方に行く。

 そこには、殺したはずのベゼが居た。

 姿形、服装もさっき殺した時と同じだ。

 しかし、ベゼの様子が妙だった。


「え?俺のこと?ベゼ?あれ?何か変だぞこの体?あれあれ?」


 まるで自分を理解してないようだ。

 意味の分からないことを言って、困惑させようとしているのか分からないが、まるで別人のようだ。


「何言ってんだお前!」

「殺るんだ!」


 しかし、隙をついた冒険者が、ベゼを剣で突き刺した。


「がぁ!」

「やった!」


 ベゼは血を吐き、再び俺の目の前で死ぬ。


「死んだ?何だ?今この数分、何が起きたか分からない」


 警戒しつつ、ベゼの死体に近付く。

 そしてまた顔を確認する。

 その瞬間、またもや妙な発言が聞こえた。


「ベゼだ!」

「お前ら近付くな!」

「ベゼが二人居る!」


 この人混みで、皆が混乱していた。

 人混みの中に、ベゼが二人居たのだ。


「何だと?ベゼは何人も居るのか?」

「おい見ろ!あっちにも居る!」

「待て!あっちにもだ!」


 なんてこったい。

 今俺が見つけた数だけでも、十人……十人のベゼが人混みの中に居る。

 全員が惚けた顔をして、人々同様困惑した様子だ。


「俺は今……何を見せられているのか分からない。もう、思考停止だ……」


 ベゼが生きているのか死んでいるのかも分からない。

 しかし、誰も予想出来ないような、恐ろしいことが起きているのだけは……確かだ。

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