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離愁のベゼ ~転生して悪役になる~  作者: ビタードール
四章『ベゼの誕生編』
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第三十一話『明かした正体』

 世界旅行が終わり、とうとう春休みも終わりを告げた。

 長かったようで短い旅だった。


 今回の旅行で得たものはかなり大きい。

 得たもの、それを分かりやすく整理してみよう。


 ①能力番号2『行ったことある場所に転移する能力』。

 ②神の土地以外全ての土地に訪れたこと(能力番号2に影響する)

 ③タラサ.ウェルテックス(能力番号19『衣類を生物に変える能力』に影響)

 ④ヴェンディと共犯者になった(心理的にヴェンディが僕の悪事に強く出れなくなる)


 こんなとこだ。

 今回の目的であったのは、①と②だったが、一石二鳥という感じで③と④も得れた。


 さっそく今週の休日、今回得た能力番号2でどこか移動し、悪いことしちゃおう。


「ほわぁ〜、休み明けだから今日はだるいな」


 学校が始まり、日常も少しづつ始まっていた。

 昼食を食べ終わったヴェンディは、眠たそうにしている。


「午後サボっちゃえば?」

「それありだな。午後は大事な授業無いし」

「図書室来なよ。当然だけど授業中は誰も居ないし、先生にも見つかる心配はない」

「まさか、お前しょっちゅうサボってるのか?」

「いや、今日が初めて」


 午後は図書室でヴェンディと待ち合わせをした。

 ホアイダも誘ったが、奴は来なかった。


「夜の銀行に潜入した気分だな。ちょっとドキドキするぜ」

「本以外にもチェスとトランプもあるんだよ。チェスしながらお互い好きな本でも読もう」

「いい提案だな」


 この学校には下級生用と上級生用に図書室が二つある。

 どちらも広く、図書室というより図書館って感じだ。


「ワイン出して」

「んなの持ってねぇよ」

「前預けたろ」

「あぁ、そうだった」


 チェスの駒を交代にマスに進めながら、お互い別の本を読む。

 静まり返った図書室には、駒を進める音と本をめくる音、それと、授業をしてる先生の声が遠くから聞こえてくる。


「ほら」

「どうも」


 ヴェンディは、能力で折り紙にしていたワインを僕に渡した。

 そのワインに、優雅な気分で口を付ける。


「俺以外の前で酒飲むなよ?普通に犯罪だからな?」

「分かってるよ。君も一杯どう?」

「……貰う」

「どーぞ」


 こういう時思う……ヴェンディはお堅い奴では無い。

 正義感は強いが、誰にも迷惑を掛からない程度の悪ノリはしてくれる。

 そういうとこは正直嫌いじゃない……寧ろ好きだ。


「なぁマレフィクス、悪魔を信じるか?」

「見たら信じる」

「悪魔は生まれたばかりの赤ん坊に取り付くらしい。取り憑かれた子の潜在能力は人の領域を超えていて、あらゆる力を扱いこなせ、あらゆる魅力を持ち合わせている。人の体を蝕む害虫のように、この世を破滅に導く為だけに生きるらしいぜ」

「その本にそう書いてたのかい?」

「そうだ――」


 さっきまでの穏やかな空気が変わりつつあった。

 そして、次の一言で空気が完成に変わった。


「お前、悪魔だろ?」


 ヴェンディは、チェスの駒を一つ動かすと、机から身を乗り出して僕の両頬を強く掴むように触った。

 僕から視線を一切外さず、真剣な表情をしている。

 まるで、何かを克服した後のような清々しい表情だ。


「僕が悪魔?残念……それ以上の存在だ」


 僕が悪魔のようにニヤリと笑うと、ヴェンディは恐怖を感じ、表情を変えた。


「マレフィクスお前……」

「フフっ……チェック」


 そして僕はチェスの駒を動かし、チェクを宣言した。


「いつでも紙に出来るぞ」

「どこまで僕について知ってる?教えてよ」

「俺には地図を見れば世界の危機的状況が分かる魔法がある。地図にはいつもドス黒い赤の印がある……その位置はいつもお前が居る場所だ。最初はお前に危険が起きると思っていたが違った。お前自身が危険だったのだな」


 やはりヴェンディは、『地図を見れば世界の危機的状況が分かる魔法ノウ.アトラス』を身に付けていた。

 読み通り。


「僕、何か危険なことしたかな?」

「惚けるな。俺とお前は共犯者だろ?竜の土地で盗人を殺したあの時、お前は嘘をついていたな?お前は好き好んであの青年達を殺した……そうだろ?」

「嘘をつくなら一人殺したなんて言わないで、誰も殺してないと言う」

「それが罠だ。お前は一人殺したことを口にすることで、俺と同じ罪を共有させた。その気持ちを利用し、俺の心を手玉に取った。今みたいに、俺に大きく出られたら困るからだ」


 どうやらヴェンディは、自身の弱さを克服したようだ。

 僕の呪縛を自らの精神力で解き、勇気を持って疑うことにしたのだ。


「君はやっぱり正義のヒーローだ。弱い自分に打ち勝ち、悪に屈しない力がある」

「やはりな。どうせあの青年が死ぬよう仕込んだろ?俺が殺したように見せかける為に」

「他人に罪を押し付けるな。罪悪感から逃れたいのは分かるけど、殺したのは君だろ?」


 しかし、まだヴェンディを試し、育てる必要がある。

 彼の成長は、僕の成長になる。

 それに、この世界で僕を止めてくれそうなヒーローは、セイヴァーとしての行動力があるヴェンディくらいだ。

 偽物でもいい……正義が無ければ悪が輝かない。


「そしてマレフィクス、俺はもう一つ疑ってることがあった。そして今その疑いは確信に変わりつつある……お前はエアスト村を襲撃した『ベゼ』だな?」

「僕が自分の故郷を自ら壊すと思う?一体何の為に?」

「それを教えて欲しい……お前は何の為に『ベゼ』を名乗った?何が目的何だ?」

「火魔法、エスリア」


 魔法を唱えると、僕の体は熱を放ち、ヴェンディの手を火傷させた。

 ヴェンディは、反射的に手を離し、席を立った。


「あちっ!」

「始めましてヴェンディ……いや、セイヴァー」


 僕は席を立ち、お退けたように一礼する。


「お前か、五月に食堂に日本語を書いた奴は……てことはお前も転生者だな」


 ヴェンディは、火傷した手を抑えながら僕を睨む。


「さっき目的を聞いたね?答えてあげよう。目的……それは後悔」

「後悔?意味が分からないな」

「僕は前世で後悔した……その後悔ってのは悪役で居れば良かったっていう後悔。君も前世で後悔したからセイヴァーとして殺人犯を殺してるのだろ?」

「悪役で居たい?詳しい説明が欲しいんだが……」

「悪は正義を理解しているが、正義は悪を理解出来ない。君には分からないさ」

「友達になれたと思ったのだがな……敵になったな」

「敵でも……友達だよ」


 ヴェンディは、ニコッと笑う僕に一緒戸惑いの表情を見せた。

 やはり、いくら悪人でも友達だった人間を殺すのには多少の躊躇があるようだ。


「ここでお前を殺す」

「ホアイダに爆弾を仕掛けてある……君が動いたらホアイダを殺す」


 ヴェンディの殺気と動きが止まった。


「ハッタリだな」

「そう思うなら、動いてみたらどうだ?」


 しかし、ヴェンディは動かない。

 ホアイダが死ぬ可能性が少しでもあるから、下手に動けないのだ。


「マレフィクスてめぇー!」


 先程まで戸惑いと躊躇の表情だったが、今は完全に怒りを顕にしている。

 流石に怒ったらしい。


「一つ勝負して決めよう」

「勝負だと?」

「今夜、世界番号『1』のバグーを襲撃する。その襲撃中に僕を殺したら君の勝ち……逃げ切ったら僕の勝ち。君が勝てば世界は救われるが、僕が勝てばあと数年は人質を取り続ける」

「お前がホアイダを殺さない保証は?」

「無いよ」

「殺さないと約束しろ」

「約束する」

「……舐めやがって」


 ヴェンディの怒りが、表情に露となる。

 チェスの駒を砕き壊す勢で、拳が力み、睨みを利かせる。


「で?勝負受けるの?」

「受ける」

「良し、なら今夜20時からバグーでパーティーだ!制限時間は一時間……楽しみだね」


 思ったより早く正体がバレたが、臨機応変に対応出来た。

 今夜は取り敢えず、勝負に勝ち、ヴェンディに敗北を植え付ける必要がある。

 敗北感を与え、人質を取ることにより、ヴェンディが下手に僕の邪魔を出来なくなる。

 その状況が欲しい。


 流石の僕も、この学校に通ってる間に邪魔されるのは、少し困るのだ。

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