第二十六話『消えない危険信号』
日が沈み初めた。
船には僕とホアイダ、そして何故か居るヴェンディの三人が乗っている。
さっきまで冷たい海に居た為、僕はブルブル震えていた。
新しい服に着替え、毛布を被りながら、火を焚く。
できるだけ暖を取るようにし、牛肉のステーキを食す。
「生きてて良かったです。コメモチもう一杯入りますか?」
「頼む。それよりヴェンディ、なぜ居るのか答えてもらおうか?いつから尾行してた?なぜ尾行してた?」
ホアイダが過保護にもご飯の準備をしてくれた。
そんな中、ヴェンディは暖を取りながら黙り込んでいる。
「お前ら二人だけなのが心配になって、旅の最初から尾行してた。すまん」
「なら隠れる必要無かっただろ?」
「行かないって言ったのにやっぱり来ましたっての、なんかダサいじゃん?気持ちの問題さ」
「ふ〜ん、そうかい」
嘘だな。
燃やしたホテルに泊まって居た時、ニュースでセイヴァーが活動していたのは見ている。
つまり、僕がホテルを燃やした日以降にこちらに来たのだ。
なぜこの魔の土地の僕らが居た場所に来たのか?
それを考えた時、セイヴァーとしての活動を理由として考えたが、偶然にも程が過ぎる。
ヴェンディが僕=ベゼということに気付いているとは考えずらいが、気付きかけてる可能性はある。
やはりヴェンディは、未知なる魔法を二つ以上隠し持っている。
「だからさ、言いづらいんだけど、俺腹ぺこなんだよ。水も全然飲めてない」
ヴェンディは、情けない顔をして僕のステーキを見ている。
よだれを垂らし、ボールを待っている犬のようだ。
「だから?」
「頼む!俺にもステーキくれ!その牛は能力で創った牛だろ?」
「いやだ」
「えー!?じゃあせめて水だけでも!」
「やだ」
「こいつ!!恩を仇で返しやがって!」
やけになり、ヴェンディが強引にステーキにかぶりつこうもしたので、ヴェンディを蹴り飛ばした。
「うへっ!?」
「勝手に恩を着せるな。薄っぺらのカスの分際で調子乗りやがって」
「ひでぇ!お前やっぱ最低だ!悪い奴じゃないとか思っていた俺がバカだった!」
ヴェンディはうつ伏せに倒れ、床を叩いて今にも泣きそうにする。
しかし、そんなヴェンディにホアイダが水を差し出した。
「まず水を飲んで下さい。今お魚料理を作りますから」
ヴェンディから見たホアイダは、まさに女神だった。
キラキラ輝く宝石のような瞳をちらつかせ、水が入った瓶を開けて、ヴェンディに渡した。
「あっ……ありがとうホアイダ……あんたは俺にとっての女神――」
「フォティア.ラナ」
ヴェンディがホアイダの手を取り、水を得た魚のような表情を浮かべたので、水を得る前に魔法を放ち、海に落としてやった。
薄暗く寒い海のおかげで、ヴェンディは燃えずに済んだようだ。
「好きなだけ飲みな。海水だけどね」
「ぶはァ!?さみぃ!!早く上げて!うぉ!サメだ!サメが居る!ヤバいマレフィクス!サメサメサメメメ!!」
「ほんとだ、肉がさめてる」
「マレフィクスの冷めた人。海にサメが居るってことですよ」
すぐにホアイダが、指から出した糸で、ヴェンディを拾い上げる。
「へっぷ!?さみぃ!マレフィクスてめぇこの仮は必ず返す……へっぷし!」
「フフっ、そりゃ楽しみ」
* * *
「んまぁい」
結局ヴェンディは、ホアイダの作ったさんまの塩焼きやマグロのステーキを食べて機嫌を戻し、頬っぺたが落ちそうな笑みを見せた。
僕の右手と腹部は、タラサの戦いで負傷していたが、ホアイダの治癒魔法でほとんど治った。
そんなホアイダは、黄昏たように海を暗い眺めている。
「間違っても落ちるなよ。サメや魔物もそうだけど、どこの海が宇宙と繋がっているか分からないからな」
「宇宙?海と繋がってる宇宙とは?」
「宇宙ってのはこの世界の外側のことだよ。あまり発見はされてないが、場所によっては宇宙と繋がっている海がある。入口は小さいらいしいけど、落ちれば戻ることは出来ないって話だよ」
「なるほど……初めて知りました。帰ったら父様にも聞いてみます」
この世界にも宇宙があるが、僕らが知るように空の上にある訳ではない。
空の上に何があるか、この世界の人類はまだ知らないのだ。
理由としては、単純な科学技術不足だ。
宇宙船も無ければ、飛行機も無い。
飛べる魔法もあるが、生身の人間が上がれる高さはたかが知れてる。
話を戻そう。
この世界の宇宙、この世界の宇宙は海の下に発見されている。
古い写真が一枚残されていたり、画家の残した絵があったりするから、どんな感じかは分かる。
前世の世界、つまり地球に居た頃の宇宙そのものだった。
しかし、海の下全てが宇宙では無く、小さな入口が一つ発見されただけだ。
他にも入口があると噂されているが、定かではない。
「ちなみにその入口、確実に発見されているのですか?」
「確実に発見されているのは奇跡の島の近くにある海だ。陸のすぐ近くにあるらしいよ」
いつか宇宙に行ける技術か魔法、あるいは能力が身に付いたら行ってみたいものだ。
「少し興味ありますね」
「僕も、一度で良いか行ってみたいよ。永遠に宇宙に居るのもありかも」
「永遠は流石に嫌ですよ」
「冗談だよ」
*(ヴェンディ視点)*
マレフィクス達と合流した翌日。
日が登り、目覚めの良い朝が来た。
船の操作は、マレフィクスが一日中していたようだ。
戦いもあり、負傷もある中の操縦だ。
これでもかってくらいぐったりしている。
「代わるか?俺操縦できるぞ」
「それ早く言えよ。もう死にそうだ」
「お疲れ様」
「地図通り行けよ。任せたからね?ほわぁ〜」
そう言って、マレフィクスは奥の部屋に入ってた。
「あと二時間で着くな……ちっ、この地図もってことは……そういうことなのか」
マレフィクスが持っていたここら辺の海辺の地図。
それと俺が持ってる世界地図、竜の土地とその付近の地図、計三つの地図全てがドス黒い赤い危険信号を放っている。
それも、俺らを中心に。
つまり、マレフィクスとホアイダに訪れる危険は『タラサ.ウェルテックス』の襲撃では無かったということだ。
これ以上の危機が二人に、またはどちらかに起こるということ。
いや……もしかしたらもう既に、起こっているのこもしれない。
二人に姿を見せることはしたくなかったが、マレフィクスを助ける為だったので仕方ない。
今俺がすべき事は、危険信号がマレフィクスとホアイダのどちらから放たれているか明確にすることだ。
その為に、二人を一旦離さなくてはならない。
「ヴェンディ!」
ホアイダが気配もなく、考え込んでいた俺の肩を軽く叩いた。
「うひょい!ビックリした〜」
「おはようございます」
「……おはよう」
――こいつほんと可愛いな……笑うと尚更だ。
「マレフィクスはどこに?」
「さっきまで操縦してた。今は疲れて船室で寝ている」
「そう……ですか」
浮かない顔だ……あれだけ戦い疲れてたマレフィクスを心配してるのだろう。
「心配するな……寝ればいつもの憎たらしいマレフィクスに戻る」
「それもそうですね」
再び明るさを取り戻したホアイダは、俺のそばをゆっくりと立ち去る。
「どこ行く?」
「朝ご飯作ります……まだ食べていませんよね?」
「あぁ、ありがとう」
いつも思う。
ホアイダと二人で話すのは、何だか懐かしい感じがする。
何故だが暖かい気持ちになるのだ。
 




