表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離愁のベゼ ~転生して悪役になる~  作者: ビタードール
二章『大都市メディウム編』
17/93

第十六話『初めてのクエスト』

 転送された場所は、見たこともないような、美しい洞窟だった。

 海賊映画や海外の本に出てきそうな、広々とした神秘的な場所だ。


 天井を見上げれば、光が漏れているのが分かった。

 地上と今いる場所は、そう遠くない。

 光は海に反射していて、洞窟の割には明るい。


「おーい!ハンナ!マレフィクス!」


 少し遠くから、エリオットの声が聞こえる。

 周りに、二人が居ないのを見ると、転送場所は一定ではないらしい。


「こっちだよ!」


 また別の方向からハンナの声が聞こえる。

 取り敢えず、二人と合流しよう。


「よし、皆無事だね。それじゃ、下を目指して行こう」


 合流すると、二人は迷いなく道を突き進んだ。

 まるで、目的の鉱石の場所を知ってるいるようだ。


「目的のフローライトの場所、分かるの?」

「バッチシ、何度も行ってるから場所を把握しているんだ」

「何回くらい?」

「たくさん」


 もう慣れっこって表情だ。

 街の道を歩くのと、大して変わらないのだろう。


 道を突き進んでいると、徐々に暗くなってきた。

 光が遠くなり、エリオットは懐中電灯を取り出し、前方に明かりを灯した。


「階段?」


 目の前に現れたのは、古い鉄の階段だった。

 下に行きやすいよう、丁寧に設備されている。


「昔の冒険者が作った階段さ。下に行きやすいよう建てたの」


 階段は結構長かった。

 たまに、踏んで大丈夫か疑うような階段もあったが、無事下に降りれた。


「何だここは?」


 階段を降りて、目の前に広がっていた世界は、これまた神秘的だった。

 光り輝く鉱石が、天井や床のあちらこちらに広がっている。

 おかげで、洞窟に懐中電灯や光は要らない。


「ここら辺の鉱石は取ってはならないんだ。安全地帯として、目印として、必要だからね」


 奥に進めば、直ぐに分かれ道が見えた。

 五つの分かれ道が丁寧に用意されている。

 僕ら三人は、一番左の道に入っていた。


 道に入ってからは、ハンナが光魔法で明かりを灯した。


「光魔法、ファナー.ランプ」


 ハンナを中心に、約半径10m明るくなった。

 懐中電灯よりは、断然周りが見やすい。


「気をつけろよ、ここから先は普通に魔物が居る」

「分かった」


 しばらくすると、魔物のうめき声が聞こえてきた。

 犬が吠える前のような、ライオンの威嚇のような声だ。


「来るぞ、飛び道具に警戒しろよ」


 光の中に入り込んだ魔物が見えて来た。

 魔物はすぐに攻撃はせず、こちらの様子を見ている。


「待て、攻撃するな。あれは『ロッツ.オグル』。触覚が一つの奴は攻撃しなければ無害だ。二つ以上は普通に攻撃してくるけどな」


 僕もこの魔物のことは知っている。

『ロッツ.オグル』、岩の体を持った鬼というのが、一番良い表現だろう。

 頭に岩の触覚があるのだが、触覚の数で強さが違う。

 触覚一つは攻撃しなければ無害、触覚二つは知能が低く狂暴、触覚三つはそれなりの知能にそれなりの戦闘力、触覚四つ以上は魔法を使える者も居る。

 しかし、触覚四つ以上は滅多に居ない。


「慌てずにゆっくり来て」

「分かった」


 触覚一つのロッツ.オグル――オグルが二匹の前を通り、またしばらく歩く。

 すると、青く光る鉱石が複数見えて来た。

 この青く光る鉱石こそ、目的であるフローライトだ。

 周りには、赤や紫に光る鉱石や、水たまり、不思議な植物、見たことない土などがある。

 だが、その周りにはオグルの集団が居る。

 こいつらを倒さないと、フローライトを回収できない。


「一、二……五。触覚二本が三匹、触覚三本が二匹、全部で五匹」

「どうするエリオット?マレフィクスには待機してもらった方がいいんじゃない?」

「だな。マレフィクス、君はここで待機してろ」


 僕がごく普通の子供なら、待機させるのは当然の状況なのだろう。

 しかし、この僕は実年齢83歳のスーパーおじいちゃんだ。

 それに、魔物に対する恐怖心は全くない。


「二人とも僕を舐めないで。僕がびびって足手まといになる子供に見える?」

「……そこまで言うなら手伝ってもらおう。ハンナが矢を打ったら、攻撃の合図だ。分かったなら静かに近づいてくれ……奴らは暗闇こそ目が良いが、光の中ではほとんど見えてない。音を立てるなよ?」

「了解」


 エリオットもハンナも、自信たっぷりの僕に目を丸めた。

 お互いに目を合わせ、(変な子)って言ってる。


 ロッツ.オグルの集団から5mの距離まで行くと、エリオットがハンナに合図を送った。

 触覚三本のオグルの頭に、矢が刺さる。

 同時に、僕とエリオットはオグルに剣を振るう。

 しかし、僕の短剣はロッツ.オグルの硬い皮膚に深くは通らなかった。

 エリオットは立派な大人の体、僕は貧弱な子供の体、考えてみれば力不足なのは当然だった。


「マレフィクス引け!」

「断る」


 仕留めそこなったオグルを蹴り離し、手のひらをオグルに向ける。


「フォティア.ラナ」


 生きていたオグル三匹に火が移り、苦しそうに悲鳴を上げる。


「めひゃああああああぁ!」

「良し!火で炙れば、お肉は柔らかくなる」


 オグルの剥がれ落ちる皮膚に、短剣が刺さる。

 そして、短剣を滑らかに、流れるように、オグルの首に当てる。

 オグル二匹の首は落ち、もう一匹も力尽きる。


「終わったよ」

「あ……大丈夫か?君、随分肝が据わってるね……ははっ、生首は見ない方がいいよ。俺も初めて見た」


 オグルの生生しい死体と生首に驚いているのか、僕の実力と行為に驚いているのかは分からない。

 だが、二人とも驚愕している。

 エリオットは近寄りがたいようで、ハンナは気持ち悪そうに口を押えている。

 冒険者の癖に、死体に慣れていないのかな?


「普段から魔物の死体見てんじゃないの?」

「いや、見てるけど……首を刎ねるのは、君が初めてだよ」

「どこが弱点か分からなかったから……ごめんなさい」


 少し本性を見せすぎた為、子供らしい申し訳ない表情を見せる。

 エリオットは顔を引きつる。


「ははっ、今度から気を付ければいいよ。じゃあ……フローライト回収しようか」

「うん。僕が回収するから、エリオットはハンナに付き添ってあげて良いよ」

「……ありがとう」


 エリオットにとって残酷だった僕から、少し優しい僕になった為、彼にとって不気味だろう。

 僕は悪役であるが、ごく普通の人の気持ちも分かるし、正義のヒーローの気持ちも分かる。

 まぁ、理解はできないけど。


 いつだってそうさ、悪は正義も悪も知っているが、正義は悪を知らない。

 どちらの気持ちも分かるから、それを逆手にとって行動できる。


「とれた。10kg一人で持ちきれない……僕とハンナは3kg、エリオットは4kg持とう」

「分かった。行こう」


 フローライトを袋に詰め、その場を後にしようとする。

 すると、急に地面が動き、地震が始まる。


「なんだ?」

「きゃあ!」


 地面が揺れたと思うと、地面が動き、足場が崩れる。


「皆こっちだ!こっちの足場は安全だ!来い!」


 エリオットが居た場所は、洞窟の端の方だった。

 僕とハンナは、エリオットの居る方に移動する。


 足場はすっかり無くなり、中央に僕ら人間とは比較にならない大きさの魔物が現れる。

 僕らがさっきまで足場にしていた地面……それはあの魔物の背中だったのだ。


「あれは、一度眠れば100年眠る『ボーン.アダラ』だ。絵でしか見たことないが、間違いない」


 ボーン.アダラ――アダラの足場は地下深くて見えない。

 地面を鎧のように纏い、蛇のようにしなやかで長い尻尾、体に合わない長い手と足、目も鼻も無い歪な頭を持っている。

 どこを攻撃しても死ぬイメージがわかない。


 しかし、もしこの魔物を殺すことが出来たなら、能力番号19の『衣類を生物に変える能力』で、こいつを作ることが出来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ