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離愁のベゼ ~転生して悪役になる~  作者: ビタードール
二章『大都市メディウム編』
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第十一話『敵との再開』

「照れちゃう照れちゃう!」

「照れんなエロ吉」

「そんな!?」


 専門学校に通い、一週間が経った。

 学校にも、ホアイダにも、ポム吉にも慣れた。

 いつもホアイダは、自分とポム吉の一人二役で話しかけてくる。

 最初はイカれてんのか?と思ったが、今じゃイカれてることに確信が付き、ホアイダの扱いに慣れた。


「マレフィクスはステーキが好きなのですね」

「まぁね。それに、昼からステーキを食べれるのは最高だ。けど月に一度にしとくよ」

「なぜです?」

「毎日平凡な食だから、月一のステーキがより美味しい。分かるっしょ?」


 昼食はいつも食堂だ。

 セスターが僕にお小遣いを必要以上にくれるから、お金は問題ないし、ここの食堂はメニューがレストラン並に多い。

 より多くの食事が楽しめる。


「ムシャムシャ」

「こらっ!ダメでしょポムちゃん!」

「ごめんなしゃい」


 やっぱホアイダは、控えめに言ってイカれてる。

 一人でポム吉につまみ食いさせ、一人で叱って、一人でポム吉に謝らせてる。

 こりゃ友達居ないのも納得だ。

 ちなみに、いつも丁寧口癖なホアイダも、ポム吉にだけは当たりが強い。


「やはり私は変でしょうか?」


 ――少しは自覚あるのか。


「変だよ」

「ですよね、分かってました」

「けど、皆どこかは変だ。ホアイダは表面で分かるけど、大抵の皆は内面で変人だよ」

「本当ですか?」

「本当」


 ――例えば僕とかね。


 ホアイダにちょっと優しくすると、いつも決まってエロ可愛い顔をする。

 僕は、前世から恋をしたことないし、愛なども感じたことはない……それどころか、色欲もない。

 それでも、この表情は結構好きだ。


「お前!?マレフィクス!この学校に転入して来てたのか?連絡くれないから心配してたぜ!」


 遠くから突然、見覚えのある美少年に話しかけられた。

 僕が大都市メディウムに来た時、一番最初に会った少年――ヴェンディだ。


「知り合いですか?」

「さぁね、知らない」


 取り敢えず知らないふりしよう。

 ヴェンディは、僕からエアスト村のことを聞きたがっていた。

 答えるのが面倒だ。


「しかも隣のお前はホアイダじゃん!お前ら、付き合ってんのか?」

「違います……友達です」

「そう、付き合ってるの。だから邪魔しないで」


 ホアイダが嫌そうな顔で目を逸らし、ヴェンディは少し困惑する。

 だが、ヴェンディはしつこい。


「それはともかく……俺だよマレフィクス、この都市に来た時、倒れていた所を助けたろ?」

「……あー!君か?思い出した!この前はどうもね」


 ここまで来たら、ごまかす方が疲れる。

 僕は、仕方なく思い出したふりをし、和気あいあいと会話をすることにした。


「なぁ、前座っていいか?」

「どうぞ」


 ヴェンディは僕らの前に座り、テーブルにコメモチ抜きのトンカツ定食を乗っけた。


「お前ら何で仲良くしてんの?失礼なこと言うけど、ホアイダに関わるなんて……マレフィクスお前、ちょっと変わってるぜ?」


 ――そういうお前の方がも変わってる。


「たまにエロい顔をするから」

「しっ、しませんよ、そんな顔………」


 ホアイダは、照れた自分の顔をポム吉で隠す。

 ヴェンディは、完全に僕に引いてる。


「この表情とかね」

「お前最低だな」

「そりゃどうも」


 ヴェンディの引き顔がドン引きの域になる。

 僕に引きながらも、ヴェンディはトンカツに手を付け始めた。


「コメモチを抜いたのですか?」

「まぁな、違う主食があるからな」


 ヴェンディの食べてるメニューはトンカツ定食。

 この国の主食であるコメモチ、メインのトンカツ、副食のキャベツの三点セットのメニュー。

 だが、ヴェンディのトンカツ定食には、コメモチが無かった。

 変わりに、ヴェンディが取り出したのは、見覚えのある主食だった。


「これは?」

「コメモチを炊く時、水を少なめにしたらこうなる。俺はこれをお米って呼んでる……結構美味しいよ?」


 そう、名前だけじゃなく見た目も、僕が良く知る『お米』だった。

 白いのはコメモチ同様だが、みずみずしく米一粒一粒がくっきりして、生きているような美しいさ……懐かしい。


「お米……」

「一口食べるか?」

「ぜひ食べたい」


 ヴェンディから貰ったお米を一口、優しく大切に噛み締める。

 12年振りのお米……甘味はコメモチ程では無いが、感触はコメモチには無い深みがある。


「うんまぁ!」

「だろ?」

「私も一口下さい」

「良いよ」


 ホアイダも僕と同様、とろけたような甘い表情を浮かべる。


「とても、美味しいです」

「そりゃ良かった。結構簡単に出来るから、お前らも試してみるといい」


 ――おっと、危ない危ない……久々のお米で、美味しいで済ませる所だった。


 今肝心なのは、前世にあったお米の存在を、ヴェンディが編み出したってことが肝心だ。

 普通は思いつかないし、思いついても全く同じ名称の『お米』と名付けるか?

 たまたまと言われたらそこまでだが、たまたまで済ませていい訳ない。

 こんなこと思い付くのは、日本の食文化『お米』を知ってる奴だけだ。


 仮にこいつが日本からの転生者、つまりセイヴァーだったとしよう。

 セイヴァーは、自分以外に転生者が居ることを知らない……てっきり自分だけだと思って、他人に前世の知識や技術を披露するのは変じゃない。

 僕はセイヴァーという転生者が居ることを知ってるから、下手な真似はしないが……セイヴァーは僕を知らない。

 しかし、ヴェンディ=転生者=セイヴァー説は確定じゃない。

 こいつが転生者だという確信が欲しい。


「ヴェンディ、そういえば君はどのクラスなの?」

「特級クラス」


 とにかく、出来るだけヴェンディから情報を得よう。


「さっき一人だったよね?わざわざ僕達に話しかけて……もしかして友達居ないの?」

「それなりに仲が良い奴は居る……けど価値観が違ったり、会話がつまらなかったり……他人に合わせるのが嫌になってな」

「友達居ないでいいじゃん……カッコつけんなよ」

「お前、もしや性格悪いな?」


 今頃気付くヴェンディ……少し寂しそうだった表情が、一気にムスッとした表情になる。


「僕ら昼はここに居るから、暇つぶしに来てもいいよ。性格悪い同士仲良くやろうね」

「俺は性格悪くねぇよ」


 この様子なら、昼食の時間にはヴェンディに会えそうだ。

 つまり、こいつが転生者か知る機会を、掴める可能性があるってことだ。


「また明日ね、ヴェンディ」

「またな、マレフィクス、ホアイダ」


 僕とホアイダは席を立ち、その場を立ち去ろうとする。

 しかし、ヴェンディが僕を引き止める。


「おいマレフィクス!」

「……何?」

「さっき性格悪いって言ったけど、訂正する」

「……どうも」


 訂正したのは間違いだぞヴェンディ……お前がセイヴァーなら尚更だ。

 僕はマレフィクス.ベゼ.ラズル、通称ベゼ。

 僕より悪は居ない……居たとしても、いずれそれを超える。

 少なくとも君達人間からしたら、僕は最も邪悪な存在だ。

 僕にとっての楽しいが、君達人間にとって邪悪なことなのだ。

 仕方ないよね。


「もしかしたらマレフィクス以外に友達ができるかもしれません」

「良かったね」

「はい。けどそのきっかけはマレフィクスです……ちょっと早いですけど、感謝します」

「どういたしまして」


 ホアイダの信じきった顔を見るといつも思う。

 僕の正体を知ったら、この顔はどう歪むのだろうか……考えただけでワクワクする。

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