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第70話 昔語り②…卑劣な仕打ち

 リュシウォンへの別れを告げ、その場を後にしたクラリス。

 王妃であるアデラインへ、行儀見習いとしての登城を辞めたいと伝えに王城の廊下を歩いていた。

 クラリスの母親からの付き合いもあり、異例ではあったが、彼女を王妃自ら傍に付けていたのだ。


 クラリスは、何となく何か違和感を感じていた。

 いつも通い慣れた廊下であったが、いつもと何かが違ったのだ。


 彼女の視界が暗闇に落とされたのは一瞬であった。

 次に光が視界に入ってきたのは、それからすぐの事だった。

 何者かに視界を奪われた上に、身体を引きずられ何処かの部屋に連れられ、そして柔らかな場所に放り投げられた事は、感覚でわかった。

 そして、その何者が誰なのかも視界に入ってきた光と同時にわかる。

 この国で、絶対的な存在だったからだ。


「へ……陛……下……?」


 クラリスを寝台に組み敷き、ニヤリと笑みを浮かべるその存在。

 この王国の頂点に立つ、国王であった。

 クラリスは、自分に起こっている状況に理解が追いつかなかった。

 先程まで、アデラインの元に足を進めていたはずなのに、今、何故か国王が自分の事を見下ろしている。

 その場所が、何処かの部屋の寝台の上という事を漸く認識した瞬間、クラリスはゾクリと恐怖を感じた。

 笑みを浮かべていた国王が、ゆっくりと口を開く。


「そちが、()()()の最も大事なものというわけか……」


「……っ………」


 国王の舐めるような嫌な視線に、カタカタとクラリスの身体は震えていった。


「そちを奪ったなら、生意気なあやつの、得意気な顔も歪ます事が出来るのかもしれぬな

 まあ、そちには悪いようにはしない、これから余の元で贅沢な暮らしをさせてやろう」


 クラリスは、国王のその言葉に全ての事を理解する。

 そして、これから自分の身に起こるだろう事に彼女は絶望し、その瞳からは静かに涙が溢れ落ちていった。





 王城のある一室で行われていたであろう事を、密偵から聞いたリュシウォンは慌ててその場へ向かった。

 その場を後にしようとしている国王が、自分の息子でもある彼の姿を目にとめると、笑みを深める。

 そして、すれ違いざまにボソリと声を発した。


「手折るのも、楽しいものであるな」


 その言葉に、リュシウォンの表情は怒りと絶望の色に染まる。

 そんな息子の表情に、国王はクククッと声を上げた。


「そちの、その表情(かお)が見られた事が一番の収穫だ

 安心したら良い、そちの宝は余が飽きるまで可愛いがってやる」


 怒りから、国王に飛び掛かる寸前のリュシウォンを、王太子側近であるラウシュ侯爵家長男のルーカスが、必死に止めた。


 笑いながらその場を後にする国王が去るのと同時に、その部屋に足を向けたリュシウォンは、そこに残されていた存在に声が出ない。

 その惨状に、ただその存在を抱きしめた。


「すまない……」


 リュシウォンに抱きしめられながら、言葉を発する事すら出来ず、ただ身体を震わせ涙を静かに零すその存在。

 そんな状態の存在に、リュシウォンの心は壊れそうに痛んだ。


「……すまない………クラリス……」


(私が、君を愛してしまったから……だから、君が標的になってしまった……

 全て、私のせいだ……)




 クラリスに、国王の手がついた事は瞬く間に国内に広まっていった。

 国王の子を孕んでいる可能性もある為に、あの日の後すぐ、彼女は国王の側妃として離宮に入ることとなる。

 クラリスは、与えられた離宮の一室にある窓辺で、一言の声も発する事もなく、表情を無くしボンヤリと過ごす日々が続いた。

 離宮に近付ける者は、国王以外に女官と、護衛任務に付く女性騎士、掃除婦のみである。

 その為、あの惨事の後彼女を抱きしめたのを最後に、リュシウォンは、彼女と会う事すら出来ずにいた。


 そんな状況を重く受け止めたのか、王妃のアデラインがクラリスの、側付きとして、自分の侍女であった一人の令嬢を国王に進言し付けることとなる。



 その侍女の名は、セレス·タリア。

 辺境に地にある、小さな領地を持つだけの男爵家の長女として生を受けた令嬢であった。

 タリア家の領地は、農作物や生花の産地とする、特に特色もない地である。

 だが、薔薇の品種改良に成功し、その薔薇を王妃のアデラインが目に留めた。

 王室御用達として薔薇を王城で育てさせた縁から、男爵家の娘としては異例の王妃付きの侍女という任に、セレスは付くこととなったのだ。

 そんな彼女は、知識が豊富で、男性官僚にも負けないくらいの頭の回転の早さがあった。

 その容姿も美しく、風貌はクラリスによく似ていた。

 王妃のアデラインが、彼女をクラリス付きの侍女にした理由は、その似ている容姿が一番大きかったのだろう。

 息子可愛さからなのか、クラリスへの贖罪の為なのか、真意はアデラインにしかわからないが、王妃はセレスに大きな仕事を任せていたのだ。


 そして、セレスがクラリス付きの侍女となって、その仕事の初日がすぐ訪れる。

 クラリスへの元へ、国王の渡りが知らされたのだ。

 真っ青な表情で震え出すクラリスに、小さく笑みを浮かべたセレスは、彼女の細い手を取りアデラインから聞かされていた隠し通路から、外に出て、小さな建物の部屋へ彼女を案内した。

 クラリスは初め、国王の閨からセレスが自分を逃がしてくれたかと思った。

 しかし、その場には、アデラインから別の用として命を受けていたリュシウォンがいたのだ。


「王妃陛下から、事が終わるまで、こちらでお二人ご一緒にお過ごしくださいとの事であります」


 そのセレスの言葉に、リュシウォンは理解出来ない表情を浮かべる。


「二人で過ごせとは?

 母上は何を考えているのだ?」


「わたくしは、それ以上の事は何も聞かされておりません

 ただ、お二人でご一緒に過ごされてほしいとだけ…」


「だが、渡りの通達があったのにも関わらず、クラリスが部屋にいなければ、あの父上が逆上したらどうするのだ!?」


 そのリュシウォンの言葉に、セレスはクラリスに似た笑みをふわりと浮かべた。


「その心配はいりません

 室内の灯は調整させて頂きますうえ、きっと…クラリス妃であると思われるでしょう」


「君は……っ!まさかっ……」


「お時間があまりありませんので、わたくしはこれで失礼致します」


 そうセレスは言うとその場を後にした。

 リュシウォンは、そんな馬鹿げた事はないと思いたかったが、自分の母親の性質も知っていた為に、否定しきれなかった。


 二人のいる小さな建物から出たセレスは急いで、離宮の隠し通路に繋がる石で出来た扉へ手をかけようとした時、腕を引かれその小さな身体は細身ではあるが彼女よりも大きな身体に抱きしめられた。

 そして、フワリと香る知った薫り…


「ルーカス様……」


いつもありがとうございます。


前回からまた物凄く日があき申し訳ありません。


どうぞ宜しくお願いします。

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