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第53話 呆然

 シルヴィアは、レイモンドの腕に手を掛け、足を進める。

 茶会の用意のされている庭園へ着くと、同じタイミングでもう一組もその場に着いた所であった。


「レイ

 それに、シルヴィア嬢も久しぶりだね」


「ローランド」


「それにしても、お祖母様の茶会にレイが参加するなんて、珍しいよね

 いつも、何かと理由をつけて断っているのにさ」


 そんなローランドの言葉に、レイモンドはピクリと表情を揺らした。


「自分が原因だとわかっていての、その言葉なのか?」


 レイモンドの言葉に笑みを浮かべたまま、ローランドは何も答えない。

 そんなローランドの後ろに、静かに控える存在へ視線を向けたレイモンドは言葉を続けた。


「ローランドと二人で話し、紹介が遅れて申し訳ないマクベス嬢」


 レイモンドの言葉に、静かに頭を下げたのはローランドの婚約者であり、マクベス公爵家息女のシェリル・マクベスである。

 レイモンドは、エスコートしているシルヴィアを彼女へ紹介する。


「マクベス嬢、私が今日エスコートしている彼女は、ラウシュ侯爵ご長女の、シルヴィア・ラウシュ嬢だ」


 レイモンドの紹介に、シェリルはシルヴィアへニコリと笑みを浮かべると、ドレスを摘まむ。


「存じておりますわ

 社交界で、氷姫と噂の的であるぐらい、美しさと気品を持ち合わせていらっしゃると有名ですもの

 お顔は知っておりますが、こうしてお話させて頂く事は初めてですわね

 シェリル・マクベスと申します

 以後、お見知り置きを」


 シェリルの言葉は、シルヴィアの世間の評判を揶揄しているようで、褒め称えるような相反する言い回しであった。

 しかし、そんな言葉に反応するようなシルヴィアではなく、彼女もまたシェリルに負けないくらい綺麗な所作で、礼を向ける。


「シルヴィア・ラウシュと申します

 マクベス様のご高名は、わたくしも聞き及んでおりますわ

 こうして、お話させて頂ける機会を頂けて、ありがたく思います」


 シルヴィアの所作に、シェリルは笑みを崩すことはない。


「わたくしの事は、シェリルとお呼びください

 わたくしも、ラウシュ様の事をお名前でお呼びしても宜しいでしょうか?」


「勿論です」


 隙のないシェリルの振る舞いに、シルヴィアは王太子の婚約者として、彼女は完璧であるように思えた。

 そんな二人へ、ローランドは笑みを浮かべる。


「二人とも歳も同じぐらいだし、仲良くなって良かったよ

 シェリルも、今日の茶会に来たがっていたのは、シルヴィア嬢に会いたかったのも、あったのだろう?」


「ええ、ずっとお話したかったのですわ」


 シェリルの綺麗な笑みの裏には、どんな事を考えているのだろうかと、シルヴィアは思う。

 そんな自分のいつもの悪い癖で、相手の心の中を疑ってしまう自分にシルヴィアが嫌気が差した時、その声は聞こえた。


「お姉様っ!!」


 その声の主はリリアで、カルロスを伴いこの場に駆け足でやってきた。

 大声で呼び掛ける事も、駆け足で近付く姿も、王城のこの場にはそぐわないものである。

 無邪気と言えば良い意味に捉えられるのだろうが、淑女の所作としては褒められるものではない。

 シルヴィアは、そんなリリアの姿に、隣にいるシェリルが訝しげな表情を浮かべた事に気が付く。


 リリアは、王族のローランドやレイモンド、家格が上であるシェリルにすら挨拶も無しに、少し息を切らしてシルヴィアへ駆け寄ってきた。


「お姉様に、漸く会えたわ!」


「リリア……あなた……」


「どうして、王城で侍女なんてしようと思ったの!?

 お姉様が、侍女なんて出来るのか、私物凄く心配していたのよ?

 お母様だって、心配なさっているのに何の相談も無しに、お城に入ってしまわれるなんて、そのお話を聞いた時、とても悲しかったのよ?」


 矢継ぎ早に、リリアが話す。

 その内容は、姉を心配する健気な妹のようにも思えるが、常識を持った者が今の状況を見ていたならば、どう感じるのか、リリアは全くわかっていない。

 王族や位の高い者への基本的な挨拶をせずに、勝手に話し出す。

 不敬だと言われても、反論しようのない状況にも気がついてすらいなかった。

 呆気に取られ、シルヴィアがリリアを窘める事すら出来ずにいると、リリアはさらに話を続ける。


「そんなに、私がいるお屋敷に居づらかったの?」


「え……?」


「お姉様の婚約者だったカルロス様と、私が婚約を結ぶ事になった事がそんなに悲しかったの?」


 突然の、見当違いなリリアの話しに、シルヴィアは反応出来ない。


「でも、それはお姉様にも原因があったのでしょう……?

 それなのに、当て付けのように、何の相談も無しにお屋敷を出られるなんて──」


「ラウシュ嬢」


 そんなリリアの言葉を遮ったのは、レイモンドであった。

 普段の穏やかなレイモンドの表情ではなく、鋭い視線を向ける彼の様子に、リリアはビクリと身体を強張らせる。


「少し、場の状況を見る力を育んだ方が良いのではないだろうか?

 ここは王城で、何度か顔を見知っている仲であろうとも、君よりも家格が上の者、そして王族もいる場だ

 礼儀という言葉を覚えた方が身の為だと思うが……?

 況してや、今日は王太后陛下の茶会に招かれている身であるのならば、粗相などあってはならない」


「レイモンド殿下……?」


 リリアは、冷たい口調のレイモンドが、いつも自分の周囲にいる者のような、自分へ対する優しい接し方でない事に、戸惑う。

 レイモンドは、そんなリリアを気にもせず、次に視線を向けたのはカルロスであった。


「ルーベンス殿

 貴殿も、彼女を()()()にと選んだのならば、その責任を持った方が身の為では?」


「………っ!」


 含みのあるレイモンドの言葉に、カルロスは以前の公爵邸でレイモンドと相対した時の事が甦り、怒りが込み上げてくる。

 そんなカルロスにも構わず、レイモンドは一つため息をついた。


「こんな所で、時間を無駄にしている余裕はないんじゃないか?

 早く、席へ向かわないと王太后陛下をお待たせする事になる」


 レイモンドのその言葉に、ローランドは今までの状況を傍観していたが、特に誰かを擁護したり指摘する事もなく、笑みを浮かべると皆を促す。


「そうだね、お祖母様をお待たせしても良くないから、席へ向かおうか」


 戸惑いを隠せない状態のシルヴィアの背を、レイモンドはそっと撫でた。


「大丈夫

 私が、君の事は守ると言っただろう?」


「殿下……?」


 そのままシルヴィアの腰をそっと抱き、レイモンドは足を進めた。


 その場に残されたのは、呆然とするリリアと、怒りやその他のぐちゃぐちゃな感情が混ざりあったようなカルロス。

 カルロスは、一度息を吐くと、呆然と立ち竦むリリアをグイッと普段とは違う荒々しい態度で引っ張った。

 そんなカルロスの変貌や、周囲の状況を理解出来ないままリリアは連れられるまま、足を進めた。





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