第45話 憶測
───「彼女が、貴方の娘ではないから、こんな仕打ちをするのですか?」
そんな言葉を述べた後、シルヴィアの父親であるラウシュ侯爵へ、鋭い視線を向けたままのレイモンドを窘めるよう言葉を掛けたのは、国王のリュシウォンであった。
「レイ、言っていい事とそうでない事がある
何を根拠にそのような事を言う?」
「そうですね
今の段階では、私の憶測ではないとは言えません
では、反対に侯爵に聞きたい
私が、シルヴィア嬢を娶りたいと申し込んだら、貴方は喜んで頷いて頂けますか?」
「殿下……、何を仰有っているのですか……?
殿下は、これまで誰とも婚姻を結ぶ気はないと、公言しておられたではないですか!?
それなのに、何故今になって、それもシルヴィアを相手にと仰有るのですか!?」
今まで、黙っていたルーカスは、レイモンドの言葉に、動揺を隠しきれないような表情で口を開いた。
そんなルーカスにも、レイモンドは表情を崩さない。
「何故、そんなにも私とシルヴィア嬢との関わりを拒むのですか?
彼女の、身分や教養、身辺的に見ても王族である私へ嫁ぐ事に、何の問題もない
それにも関わらず、私が関わる事を拒むように彼女が幼い頃から、侯爵は私が彼女へ近付く事を警戒しているようにも思えた
それは、何故ですか?」
「それは──」
「万が一にでも、私達が気持ちを寄せ合い………
彼女と私が、婚姻を結ぶなんて事になっては、絶対にあってはならないから……、ではないのですか?」
「………っ!」
レイモンドは、今の言葉にルーカスが僅かに動揺した事を見逃さなかった。
「侯爵が、私と彼女の関係が深まる事を拒む理由……
それは、私の出自が気にかかったり、彼女自身の性格や教養が、王族に嫁ぐ事に相応しくないという理由からではない
そんな上っ面で簡単な理由ではなく………、神の領分で禁じられた、き───」
「殿下っ!」
レイモンドがある事を言葉にしようとした時、まるでその言葉を言わせないかのように、ルーカスは言葉をかぶせる。
そんな、ルーカスに構わずにレイモンドはさらに言葉を続けた。
「侯爵
貴方は、かの方に外見的に、似ている部分があった
そんな事で、隠蔽しようとしたのかと思うと、浅はかすぎて馬鹿げているとは思ったが……
様々な事をつなぎ合わせていくと、そう思えて仕方がなかった
この国をも揺るがすような事に、侯爵と彼女の母親であるセレス
さらには、私の母
そして兄上……
陛下、貴方も関係していると言ったら……?」
レイモンドは、リュシウォンへ視線を真っ直ぐに向ける。
リュシウォンは、何も言わずにレイモンドへ視線を返した。
自分の問いに、リュシウォンが何も答えるつもりがないと察したレイモンドは、一つ息を吐く。
「私の憶測でしかない考えです
ですが、私はもう彼女との関係に一線を引く事をやめます
私の憶測が間違っているのならば、彼女が私を受け入れてくれ、手を取り合ったとしても、お二人とも私達を祝福してくださりますよね?」
レイモンドのその言葉に、ルーカスは珍しく感情的になった。
「殿下っ!
貴方は……、シルヴィアを地獄へ道連れにするおつもりですか……?
あの子は、何も悪くはない……
罰せられるのであれば、それは私とセレスで……
私は……」
ルーカスの肩をポンっと、リュシウォンは叩くと、次にレイモンドへ視線を向ける。
「それで……、彼女をこのままこの離宮に住まわせる気なのか?」
「いえ……
ですが、もうこれ以上、彼女を害するような妹や継母のいる屋敷には、彼女を帰す気はありません
以前、打診があった件を彼女にも了承してもらい、彼女の強固な足場となる居場所を作ろうと思っています」
「打診?」
「ええ
まだ、彼女には伝えていませんでしたが、王太后陛下から、シルヴィア嬢を傍付きとして面倒を見たいと申し出がありました」
「母上から……?」
リュシウォンは、思ってもいない人物に僅かに戸惑いを見せた。
「王太后陛下にとって、シルヴィア嬢の母親のセレスは、私の母の侍女になる前に侍女として支えていた存在であります
そんな間柄からか、彼女の事を気に掛けていらっしゃったのでしょう?」
リュシウォンは、一つため息を吐く。
「そうか………
一先ず、我々がここに長く滞在してこんな話をする事は、良い結果を生むとは思わないから、ルーカスと私は戻る
先程の話については……、お前がどれ程の覚悟を持ち本気なのか見させてもらうよ
ルーカス、一度戻ろう」
「ですが……」
「…………何事にも、完全なものはないと覚悟はしていた
レイ、もう一度言う
お前は、それ相応の覚悟を持っての、先程の言葉なのか?」
リュシウォンは、レイモンドを真っ直ぐ見据えた。
そんなリュシウォンに、視線をぶつけるように、レイモンドは真っ直ぐ視線を向ける。
「………はい」
「そうか……」
リュシウォンは、何とも言えない表情を浮かべると、ルーカスを連れて、花の間を後にした。
二人が出ていった扉を見詰めながら、レイモンドは息を一つ吐く。
そして、静かに寝室の方へ足を向けると、声を掛けた。
「こんな形で、君にこんな話を聞かせてしまってごめんね……」
寝室の扉の近くで、シルヴィアが座り込んでいる事に、レイモンドは気が付いていた。
真っ青な表情のシルヴィアを、そっと抱き締める。
「君の気持ちを、無視してはいけないと思っていたけれど……
もう、偽る事を止める事にしたいと思ったんだ」
「わた……くしは………」
「うん……、何から話そうか……」
レイモンドは、優しくシルヴィアの頭をゆっくりと撫でた。
その優しい触れ方に、シルヴィアは何故だか涙が溢れてきそうになる。
思ってもいない話しに動揺したままのシルヴィアを、レイモンドは彼女が落ち着くまで、暫く抱き締めていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価ポイントを頂きありがとうございます!
◇作者の呟き◇
ドロドロとした内容ですが、このまま見守って頂ければ……と、思っております。
そして、こんな禁忌的な話が苦手な方がいらっしゃったら、申し訳ありません。
ここまで、このワードを隠したかったので、あえてキーワードには入れてはおりませんでした。
しかし、まだこの展開も伏線の一つでしかありませんので、見守って頂けるとありがたいです。




