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第24話 ダンスの誘い

 夜会も中盤に差し掛かろうとしていた時、会場に現れた人物に、出席者達がざわつく。

 金色の髪色の二人。ローランド王太子と、カルロスであった。

 普段ならば、高位貴族の夜会にしかローランドは顔を出す事はない。

 今夜の夜会は、子爵家の夜会であった。子爵家とはいえ、貿易手腕に長けている家紋で裕福であり、外交面での様々な功績から一目置かれている。その為に、交友関係は幅広く、高位貴族である公爵家や侯爵家からの出席者も多数いた。

 公爵家嫡男のカルロスもその一人である。


「噂には聞いていたが、かなりの盛況ぶりだね

 僕も、もっと広い目で関わる相手を選ぶべきかな?」


 夜会参加者の顔ぶれを見て、ローランドはそう呟いた。


「コーテッド子爵家は、下位貴族とはいえ手広くやっていますからね

 自分も、父から言われなければ、断ろうかとも思っていましたが……

 多少なり顔を出すだけでも、利はあると思います」


 カルロスの言葉に、フッとローランドは笑みを溢す。


「カルロスのそういう考え方は、僕と似ていてやりやすいよ

 身分差は考えないと、お互い気を遣い合うからね

 招待されれば、損得考えずに何処へでも顔を出すレイとは真逆だね?」


 レイモンドの名前を出され、カルロスはピクリと表情が揺れる。

 そんなカルロスの表情に、含み笑いを浮かべたローランドは「これはこれは」と声をだした。


「殿下、何ですか?」


「カルロスの()()()婚約者も、レイの手中なのかな?」


「え……?」


 ローランドの視線の先には、レイモンドと楽しそうに踊るリリアの姿があった。


()()の婚約者は、全く会わせてくれなかったけど、あの彼女には会わせてくれたよね?

 ()()()の婚約者は、政略的な相手ではなく、君が()()()()()()()相手、なんだろう?

 このまま見ていていいの?」


「その言い方は、やめてもらえますか?

 それに、いいも何も、自分は夜会に遅れると彼女には伝えてあったし、夜会を楽しむ為にダンスを踊る事もあるでしょうから、特に何も思いません

 その相手の一人が、レイモンド殿下であっただけだと思いますが……?」


 そんなカルロスの答えに、ローランドは笑みを深める。


「カルロスは、そんなに淡白であったんだ?

 自分の本当に大事なものには、秘密主義で周りの目から隠したり、執着心が強いと思ってたよ」


「どういう意味ですか?」


「いや……、何でもないよ

 レイもあんなに令嬢と踊る事を避けていたのに、相手がいる令嬢ならいいのかな?

 それに、あそこまで過保護に囲っていた彼女を一人にして放っておくなら、僕が誘っても問題ないよね?」


「殿下?」


 ローランドが、視線を向けた先にいる存在に気が付いたカルロスは、表情が険しくなった。

 そこには、シルヴィアが壁際で立っていたのだ。


「前に、少し彼女と話す機会があったんだ

 あの、女に興味のないレイが、珍しく囲っている令嬢だっていうのも、さらにはお前が婚約破棄した相手だっていうのもあって、気になっていたんだよね

 何より、氷姫なんて蔑んだ噂をされる令嬢がどんな者なのか、ひと目見てみたいとも思っていたんだ

 僕が幾ら言っても、結局お前は一度も彼女には合わせてくれなかったからね?」


「殿下、ご冗談を……

 そんな、殿下の評判を落とすような事を止めてください!

 あんな女……、殿下には相応しくありません」


「どうして?」


 カルロスの言葉にローランドは頷かず、反対に自分へ問い掛ける彼の反応に、カルロスは反応が遅れた。


「え……?」


「彼女は、歴とした高位貴族のラウシュ侯爵令嬢であって身分は確かだ

 まぁ、彼女の母親の身分は低いようだけどね?

 それに、僕は別に彼女を正妃として望んでいる訳でもない

 夜会で踊る相手として、声を掛けようかと思っているだけだよ?」


「それでもっ!

 あの女が……、何を企んでいるのかわかりません」


「企むねぇ……

 カルロスが、そんなに気にしているのは彼女の噂なのかな?

 でも噂は、噂でしかないと僕は思うけど?

 今は、レイのおかげか幾分良い噂も、僕の耳に入ってくるよ?」


「ですが──」


「今はもう、()()()じゃないのなら、お前が、そこまで気にする程の事ではないのではないか?

 踊るだけで、評判が下がるなんて大袈裟だよ

 それとも、僕が彼女へ声を掛ける事に、他にお前が気になる理由でも何かあるのかな?」


「それは……」


 カルロスの言葉を遮り、いつもより強い口調のローランドのその言葉に、カルロスは言葉を返す事が出来なかった。

 狼狽えるカルロスをよそに、ローランドはシルヴィアのもとへ足を向ける。





 ぼんやりと、ダンスホールを眺めていたシルヴィアへ影が射した事に彼女が視線を動かすと、そこには王太子であるローランドが立っていた。その事に、慌てて淑女の礼(カーテシー)をとる。


「久し振りだね、シルヴィア嬢」


「王太子殿下に置かれては──」


「堅苦しい挨拶はいらないよ

 それに、僕の事はローランドと呼んで欲しいな」


「え……あの……、……っ!?」


 シルヴィアは、ローランドが急に声を掛けてきた事に戸惑っている時、王太子の後ろに立つ存在を認識した事で、ビクリと身体を強張らせた。

 そして先日、強く掴まれた腕の痛みを思い出す。

 そんなシルヴィアの様子に気が付いたローランドは、自分の斜め後ろに立つ存在へ目を向けると、含み笑いを微かに浮かべた。


「カルロス、離れてくれないか?」


「殿下、何をっ!?」


「少し、考えればわかる事だろう?

 自分を婚約破棄した男に近寄られたら、不快だってことをさ?」


「それは──」


「シルヴィア嬢、気に掛けないでごめんね

 お詫びというわけではないけど、僕と一緒に踊ろうか」


 ローランドの言葉にシルヴィアは戸惑うばかりであった。王太子であるローランドの誘いを、特別な理由がないのに断る訳にはいかない。

 珍しく、戸惑いの表情を浮かべるシルヴィアの手を、彼女が返事をする前にローランドは取った。


「いいよね?」


 シルヴィアの指先に唇を寄せ、感情を読み取れない視線をローランドは向ける。

 有無をも言わせぬローランドの視線と言葉に、シルヴィアは頷くしかなかった。


「光栄にございます……」


 笑みを深めたローランドは、その場に複雑な表情を浮かべているカルロスを残し、シルヴィアを伴ってダンスホールの中央へ足を進めた。

 その状況に、踊り終わりリリアの手を離そうとしていたレイモンドは気が付く。そんなレイモンドへ、ローランドは含み笑いを向けた事に、レイモンドは訝しげな表情を浮かべた。





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