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第21話 反抗

 夜会へ一緒に行く為に、シルヴィアを侯爵邸まで迎えに来たレイモンドは、応接室へ案内され、彼女の準備が終わるのを待っていた。

 しかし、応接室の扉がノックされ、顔を見せたのは彼が待っていた存在ではなかった。

 スザンナ·ラウシュ侯爵夫人。

 年齢よりも、ずっと若く見える容貌。その容姿は、シルヴィアの異母妹であるリリアによく似ていた。

 婚約解消という酷い仕打ちにも堪えながら、婚約解消された後も婚約者を想い続けた女性。さらに、献身的な真実の愛で一時の過ちに惑わされていた婚約者の目を覚まさせ、その手に愛を取り戻したと、貴族内で囁かれた事もあった。

 それが、真実か否かなど当の本人しかわからない。

 だが、奪われた婚約者との婚姻を確かに成した存在であった。


「レイモンド殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じ上げます」


「これは、侯爵夫人

 私が、侯爵邸(こちら)にお邪魔している身だ

 頭を上げてくれ」


 にこやかな笑みを浮かべたレイモンドへ、スザンナは申し訳なさそうな表情を向ける。


「殿下をお待たせしてしまい、申し訳ありません

 何時も、無作法な継娘(むすめ)が大変お世話になっておりますわ

 けれど……申し上げにくいのですが、勿体なくもシルヴィアのエスコートを殿下から申し出て頂いたのにも関わらず、生憎シルヴィアは体調が思わしくないのです」


 スザンナの言葉に、レイモンドは表情をピクリと揺らす。


「体調が……?」


「ええ、ですから今夜の夜会への出席は難しいと思いますわ」


 レイモンドは、スザンナの言葉の違和感にすぐ気が付いた。

 それは、もし本当にシルヴィアの体調が悪いのであれば、エントランスホールで応対してくれた、執事頭のビルから、何か言葉があったであろうと思ったからだ。

 しかし、ビルはそのようなことは一言も言わずに、「お嬢様をお呼びして参ります」と言葉にした。

 スザンナがわざわざ、夜会の準備があるのにも関わらずレイモンドの元へまで来て、彼へそのように伝えたからには何か思惑があるのだろうとレイモンドは思う。

 恐らく、レイモンドと連日共に夜会へ出席しているシルヴィアへ、多くの不満を抱いているのであろう事は簡単に予想出来た。

 夜会で、注目を浴びるはずの実の娘のリリアが霞み、憎い継娘のシルヴィアが目立っている事も理由の一つだろう。

 だが、今スザンナが言った事が嘘だという証拠もない。

 レイモンドが、どうしたものかと考えていると、スザンナの後ろから、その声は聞こえた。


「お継母(かあ)様、わたくしの体調に、悪い所はありません」


「なっ!?」


 レイモンドから贈られた夜会用のドレスに身を包んだシルヴィアは、顔を歪めるスザンナには顔を向けずに、レイモンドへ淑女の礼(カーテシー)を向けた。


「殿下、お待たせして申し訳ありません」


 シルヴィアのその瞳は何か強い思いを秘めたように、レイモンドには見えた。



 ───強くならなければ……



 真っ直ぐ自分へ視線を向けるシルヴィアに、何とも言えない表情をレイモンドは浮かべる。


「体調が思わしくないと、今、伺ったが?」


 シルヴィアは、ニコリと笑みをレイモンドへ向けた。





 ───この、優しい新緑の瞳に捕らわれてはいけないの……

 だから、諦めないで自分の力で一歩を踏み出さなければ、後戻り出来なくなる……





「準備の時に、ぼんやりしていた姿を見ていらしたみたいで、継母(はは)が気に掛けてくださったのです

 優しい方ですから」


 シルヴィアは、スザンナがレイモンドへ夜会へ行かせない為に、嘘をついていた事を誤魔化すかのように言葉を返す。

 シルヴィアが何もない事を装いたいのだろう事を、レイモンドは察するが、彼女の頬が少し腫れている事に気が付くと、僅かに表情を険しくした。


(今までの彼女と、何か違う……? 何があった?

 それに、化粧で隠してはいるが、僅かに頬が腫れている……)


 レイモンドの、今の状況を懐疑的に感じているだろう表情に、彼がスザンナの行動を咎めようとすれば出来る状況である事に気が付いたシルヴィアは、継母へ作った笑みを向ける。

 それは、今のこの状況はシルヴィアの事をいつも気に掛け、彼女が置かれてきた環境を改善しようとしてくれているレイモンドであれば、スザンナのシルヴィアへ対しての酷い仕打ちを、咎められる絶好の機会であったからだ。

 だが、このまま継母が咎められるような事があれば、様々な問題も起こり、レイモンド自身へも多くの迷惑を掛けてしまう。

 彼女自身、そこまで大事にして欲しくないという、今までの事なかれ主義の感情もあったが、それとは別に、自分の力で変わりたいという気持ちを数日前から持っていた。

 その理由は──……




 ───理不尽な事や屈辱的な事を受け入れる事で、立ち向かわない弱いままの自分がこの感情を認めた時……、それはきっと二度と癒えない傷になる事は、わかっているから……




「お継母(かあ)様、心配して頂きありがとうございます

 ですが、わたくしは何ともありませんので、わざわざ迎えに来て頂いた殿下を、これ以上お待たせする訳にもまいりませんから、先に夜会へ向かわせて頂きますわね」


 シルヴィアの様子に、思うところは色々とあったが、レイモンドは小さく息を吐くと、彼女の考えを尊重して、様々な感情を飲み込んだ。

 問題解決する為の機会ならば、もっと多くの証拠を揃えてからの方が確実である。

 それに、シルヴィア自身が今の状況に手助けして欲しくないようにも感じ取った。その理由は、後から聞けばいい。そんな事よりも、彼女を傷付けようとする黒い感情をぶつけている存在から、今すぐにでも彼女を離れさせたいと、レイモンドは強く感じたのだ。


「侯爵夫人、シルヴィア嬢の体調の変化には気を配ると約束しましょう

 彼女を連れて、今夜の夜会へ出向いても構いませんか?」


 レイモンドから、そう言われてしまうとスザンナにはどうする事も出来なかった。今まで自分に逆らった事のなかったシルヴィアのこの行動に対する、屈辱からくる怒りをどうにか抑える。

 それは、これ以上何か言えば、王族であるレイモンドを謀る事になり得る事もわかっていたからだ。


「この子が……、大丈夫と言っているのでしたら、わたくしが無理矢理止める事など……

 シルヴィアを宜しく……お願い致します……」


 屈辱的な表情を必死に抑えるスザンナを前に、シルヴィアは継母へ視線を向ける事なく、レイモンドの手へ手を重ね、その場を後にした。




 ───自分の感情に気が付かないふりをする為に、自分の境遇と向き合う力をつけなければいけないの……




 シルヴィアは、心の中に改めて深く刻み込んだ強い意思を秘めながら前へ足を進めた……


ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークを付けて頂き感謝しております!



もう暫く、不定期更新が続く事、申し訳ありません。

更新スピードを少しでもあげていけるよう、頑張っていきたいと思います!

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