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第2話 氷姫

 たまたまエントランスにいた為に、ホールでの出来事を知らずにいたルーベンス公爵は、ホールから退出しようとしている人物を目に止めると、慌てて駆け寄った。


「レイモンド殿下!

 こんな早くにホールから退席されるとは、どうかなさいましたか!?」


 夜会の行われているホールから退席してきたのは、夜会に招待されていた、現国王の弟であるレイモンド・ミルヴォア。

 レイモンドは、現国王とは、かなり年が離れており、甥で現王太子でもある第一王子とは同い年で、今年23歳になる

 艶やかで、夜空を思わせる黒色の髪色に、翠眼を持つ長身で整った容姿をしていた。

 レイモンドは、駆け寄ってきたルーベンス公爵へ、冷ややかな視線を向ける。


「興が冷めた」


「何か、持て成しに不備でもありましたでしょうか?」


「公爵家の使用人達に、不手際等はない

 問題があるとすれば……

 公爵は、子息の事を随分甘やかしたのだな?」


「息子が何か……?」


「そなたは、先程夜会会場を離れていたから、あの騒動を知らないのであろう

 公爵家の嫡男であるのなら、このような夜会で、あのような振る舞い方をする事は、どうなのかと思う

 彼が次期、ルーベンス公爵となるのなら、今一度振る舞い方を学び直す事を、私は勧める」


 レイモンドは、ルーベンス公爵へそう告げると、その場を後にした。

 彼は公爵家のエントランスへ出る時、ある存在に目を止める。

 銀色の髪を靡かせ佇むその人物の頬には、零れ落ちた一粒の涙が月明かりに照らされていた。

 レイモンドは、その者へ自分のハンカチを差し出す。ハンカチを差し出されたその人物は、顔を上げると目の前にいる王弟の姿に、驚いた表情を一瞬見せ、直ぐ膝を折った。


「レイモンド殿下におかれましては──」


「堅苦しい挨拶はいらないよ

 顔を上げて構わない

 君はラウシュ侯爵息女の、シルヴィア嬢であったと思うが……」


 シルヴィアが、レイモンドへ向ける言葉を彼は止める。


「はい

 先程は、夜会の雰囲気を壊してしまい、申し訳ありませんでした

 殿下が、もうお帰りになられるのも、先程の件でご不快になられたのでは……」


 そんな謝罪の言葉を口にしたシルヴィアへ、レイモンドは手に持っていたハンカチを再度彼女へ差し出し、言葉を掛けた。


「先程の騒ぎは、君の責任ではないだろう?

 あの場での君の振る舞いは、適切であったと私は思うよ」


「あの……」


ハンカチ(これ)は返さなくていいから」


 レイモンドはそう言葉を掛け、シルヴィアへ笑みを向けた。彼女へハンカチを握らせると、馬車寄せに停まった王室の紋の入った馬車へ乗り込む。

 そんな、レイモンドの姿をぼんやりと眺めながらシルヴィアは、彼の乗った馬車を見送った。




 ◇*◇*◇


 次の日、シルヴィアは私室の窓辺で、昨日の夜会の事をぼんやりと思い出しながら、手元にあるレイモンドから差し出されたハンカチに、指先で触れる。


(………殿下がいらしていた夜会で、あの醜態……

 殿下は、わたくしに非はないと仰有ってくださったけれど……

 他の出席者の方々からは、そうは見られないわ、きっと……

 それに、昨夜の件はお父様に報告しなければならないわよね

 カルロス様との婚約がなくなった事───

 もしかしたら、既にリリアやお継母様から伺っているかしら

 そうだとしても、わたくしからも報告しなければいけない事だわ

 まだ、屋敷を出ていらっしゃらないようなら、忙しいお時間かもしれないけれど、会って報告しなければ……)


 そう考えたシルヴィアが、私室を出て父親のラウシュ侯爵の執務室へ足を向けると、廊下をパタパタと走り、シルヴィアへ掛け寄ってくる足音にシルヴィアは気付いた。その足音の主を知る彼女の顔には、複雑な表情が浮かぶ。


「お姉様っ!!」


「リリア……」


「ごめんなさいっ!!」


 ふわりと艶やかな髪を揺らし、シルヴィアの元へ掛け寄ってきたリリアは、瞳を潤ませ悲しげな表情を浮かべると、謝罪の言葉を口にした。

 そんなリリアに、シルヴィアはより複雑な心境が増す。


「どうして、あなたがわたくしに謝るの?」


「それは……

 私のせいで、昨夜カルロス様から婚約を破棄するなんて言われたことに、お姉様が傷付いているんじゃないかって思ったの……」


「あなたのせいではないわ

 カルロス様が、あのように多くの出席者がいる夜会で仰有ったという事は、わたくし達の関係には既に綻びが幾つもあったという事だもの

 だから───」


「リリアに、何をしているのっ!?」


「お継母様……」


 シルヴィアの言葉を遮ったのは、シルヴィアの継母であり、リリアの実母でもある、ラウシュ侯爵の後妻のスザンナであった。


「カルロス様から、婚約破棄をあのような観衆の前で言い渡され、リリアが新たな婚約者に選ばれたからって、リリアを苛めていい理由にはならないのよ!」


「わたくしは、苛めてなど……」


 継母のスザンナは、シルヴィアをキッと睨み付ける。


「その、可愛げのない目!

 本当に憎たらしいわ!

 あなたが、今さらリリアを脅して、婚約者の座を取り戻そうとしても無駄よ!

 もう、既にリリアとカルロス様との婚約の話は、動き初めているのですからね

 さぁ、リリア行くわよ

 カルロス様との婚約披露の場で着るドレスを、仕立てなくてはね

 あなたは、優しすぎるから心配だわ

 こんな意地の悪い異母姉に、騙されそうで!」


 そう継母のスザンナは言い残すと、リリアを連れてその場を離れた。

 その場に残されたシルヴィアの心の中には、気持ちの悪い感情だけが重く残る。


 シルヴィアの産みの母親は、彼女が2歳になる前こ頃に儚くなった。

 その母の喪が、明けない短い期間に、継母のスザンナは後妻としてすぐ侯爵家に入る事となったのだ。

 シルヴィアは、継母から可愛がられた記憶は殆どない。

 スザンナは体面を考えてか、シルヴィアの父親の侯爵が屋敷にいる時や家の外では、シルヴィアへ穏やかな顔を向ける。

 だが、侯爵が仕事で屋敷に居ない時は、侮蔑の表情を向け、蔑むような酷い言葉を何度もシルヴィアへぶつけた。

 何故そんな言葉を言うのかと、幼いシルヴィアが継母へ問う事もあった。

 その度に、継母から返ってくる言葉は、何時も同じ言葉。


『あんたの、その声が、その目が、その顔が気に障るの!

 あんたそのものが、憎らしいのよ!』


 それは、幼い子どもへ向けるような言葉ではない。

 そんなスザンナの態度を見ていた侯爵家の使用人は、我慢出来ずに仲裁に入ろうとした者も多くいた。

 しかし、その仲裁に入ろうとした使用人の姿は、次の日から侯爵邸から消えていたのだ。

 そんな事が続き、スザンナへ面と向かって歯向かう者は使用人の中にはいなくなった。それは即ち、スザンナから標的にされているシルヴィアを、面と向かって守る者が居なくなったという訳だ。


 シルヴィアの父親の侯爵は、後妻のスザンナと再婚した頃から、仕えている王宮での仕事が忙しくなった為なのか、それとも別の理由があったからなのかわからないが、屋敷に滞在する時間が極端に少なくなっていた。シルヴィアとの関わりも殆どなくなった為に、スザンナとシルヴィアの関係も知らないのか、スザンナを窘める事もなかった。


 そんなスザンナとシルヴィアの関係性を間近で見ていたにも関わらず、異母妹のリリアは、姉のシルヴィアを母親がしているように蔑む事もなく、慕っているような姿が多く見られていた。

 その姿は実にいじらしく、表情の乏しいシルヴィアから冷たく突き放され疎まれているようにも、周囲からは見えていた。


 そして、いつの日からか社交界では、シルヴィアの事を、情の一つもない心の冷たい氷姫と揶揄するような言葉が、囁かれるようになっていったのだ。





ここまで読んで頂きありがとうございます!

一話目からブックマークを付けて頂き感謝でいっぱいです!



◇作者の呟き◇


皆様、暗いお話に、ついてきて頂けているでしょうか?

今作は、なろう様で多く見られるように思われる、姉妹格差なお話……

こちらの作品は、姉の方が虐げられているパターンでのお話になります。

シルヴィアが、皆様が応援したくなるキャラクターになれればいいのですが…

何とも1.2話目では難しいですね……

イライラされるキャラクターになりませんように。。。



◇作者の覚書◇


レイモンド·ミルヴォア

現国王の弟。

現国王である兄とは親子程の年の差があり、国王の息子である第一王子の王太子と同い年の23歳。

黒色の髪色、翠眼で長身。

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― 新着の感想 ―
[一言] 珍しさで言えば王子がマトモな思考回路してることぐらいか
2022/02/04 12:04 退会済み
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