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第16話 夜会

 社交界。その中でも夜会という舞踏会は、煌びやかなダンスホールに、出席者達の華やかな出で立ち。デビュー前の令嬢ならば、憧れを一度は抱く場であろう。

 だが、社交界へ一度でも足を踏み入れれば、気が付く事もある。華やかさの裏にある、偽り、駆け引き、足の引っ張り合い。次のターゲットは自分かもしれないと怯えながら、弱き者を陥れ、踏み台にする。そんな、影の面が、絶対にないとは言えない、貴族界の表と裏。




 ターンをする度に、フワリと揺れるチュール。息の合ったダンス。見目麗しい一組のカップルは、今日開かれている夜会でも、出席者達の注目を集めていた。


「疲れたかな?」


 ステップを踏みながら聞こえた言葉に、シルヴィアはその声の主へ顔を向けた。


「殿下?

 夜会が始まったばかりですし、疲れてはおりませんが……」


「そう?

 普段よりも、ほんの僅かではあるが表情が固いのは別の理由かな?」


 シルヴィアは思う。目の前の存在は、何故いつも自分の変化にすぐ気が付くのだろうかと……


「申し訳ありません

 表情に出していたつもりはないのですが……」


「他の者は、気付く事がない程度の変化だから、気にしなくとも大丈夫だよ

 ただ、頻繁に登城してもらって執務を手伝ってもらっている立場であるから、君に無理をさせてしまってはいないかと思ってね」


「そんな事はありません

 殿下には、いつも気を遣って頂いておりますし

 それに、殿下の執務室へ伺わせて頂ける事は、逆に感謝しているんです」


「感謝?」


「今まで、あのような安心出来るような空間等、わたくしには殆どありませんでした

 わたくしが、お役にたてる事など殆どないのに、そんなわたくしを、殿下を初めとして皆様が温かく受け入れてくださるから……

 毎回、あの場へ伺う事が恐れ多くも、楽しみなのです」


 シルヴィアの言葉に、レイモンドは笑みを深める。


「君が、そう感じてくれていて良かったよ」


「殿下が、今日わたくしの表情が固いとお感じになられたのは……

 夜会は、どうしても苦手意識を持ってしまって……

 それで……

 毎回、表情(かお)には出さないようにしているのですが、殿下には隠せませんね」


「まあ、夜会は楽しいばかりではないと私も思ってはいるから、君の気持ちは理解出来るよ

 出席者である彼等の思惑をかわす為に、君へこんな無理なお願いをしたのだしね」


 ワルツを踊り終わった後、レイモンドはシルヴィアを壁際の椅子の所までエスコートする。


「飲み物を貰ってくるから、君は少し休んだらいい」


「殿下に取りに行かせるなど、そんな訳には──」


「夜会でエスコート相手をもてなすのは、男の努めであるから、こういう時は身分など気にしないでくれると嬉しいな」


 そう言って、恐縮するシルヴィアへ、レイモンドは穏やかな笑みを向けると、給仕の居る方へ足を進めた。

 気にしなくとも良いと言われても、シルヴィアは王弟であるレイモンドに、飲み物を取りに行かせる等良くない事ではないかと落ち着く事が出来なかった。

 そんな、シルヴィアに影が射す。

 彼女が視線をその影に向けると、従弟のケヴィンが側に立っていた。


「ケヴィン……?」


 ケヴィンは、シルヴィアへ手を差し出す。


「シルヴィ、次の曲は俺と踊ろう」


 シルヴィアは、ケヴィンの申し出に戸惑いを覚える。

 その訳は、レイモンドのパートナーとして、夜会に出席しているのにも関わらず、勝手に他の者と踊る事に躊躇してしまう為──

 いや、それは建前であった。レイモンドならば、事前に伺わずに他の者と踊ったとしても、快く承諾してくれるだろう。

 シルヴィアの本音としては、この夜会に出席しているケヴィンの母親であり、自分の伯母でもあるマーブル侯爵夫人が、ケヴィンと自分が踊る姿を見たことによる面倒に、巻き込まれたくはないという気持ちがあったからだ。

 ケヴィンの望みよりも、自分を守る事しか考えていないそんな自分を、卑怯で自分勝手な嫌な人間だと感じながらも、シルヴィアは口を開く。


「ケヴィン、今、殿下をお待ちしているの

 それに、今夜は伯母様も出席されているでしょう?

 貴方とわたくしの踊る姿を見られたら、気を悪くなされるわ」


「母上は、関係ないって何度も言っただろう!?

 俺がシルヴィと一緒に踊りたいんだ!

 何で、殿下とは踊るくせに、俺の誘いは断るんだよ!?」


「それは……

 殿下のエスコートを承けたから……」


「いつも、ラウシュ家の屋敷へ行っても、シルヴィは登城しているから留守だと言われる

 漸く、夜会で会えたと思ったら、誘いを断る

 どうして、俺の事は考えてくれないんだ!」


 ケヴィンは、シルヴィアの手を握るとグイッと前へ引っ張った。


「きゃっ!?」


 急な動きに、グラリと体勢を崩したシルヴィアを力強い腕が支える。


「レディへ対して、その振る舞いは、紳士としてあまり良くない振る舞いではないのかな?」


 シルヴィアを支えたのは、この場に戻ってきたレイモンドであった。

 レイモンドを前にして、ケヴィンは一瞬焦りを見せるが、直ぐに正式な礼を向けた。

 そんなケヴィンへ、レイモンドは一度視線を向けるも、直ぐにシルヴィアへ顔を向け、声を掛ける。


「大丈夫かい? シルヴィア嬢」


「わたくしは、何ともありません

 支えて頂き、ありがとうございます」


「何ともないのであれば良かったが……

 それで……? 君は、マーブル侯爵子息……で、あるよね?」


 レイモンドは、ケヴィンへ再度顔を向けたが、その顔には笑みはなかった。


「はい、マーブル侯爵三男のケヴィン·マーブルにございます」


「離れた場所から、君達のやり取りは目に入っていたが、シルヴィア嬢は嫌がっていたようにも見えた

 無理強いをする事は、良い行動とは言えないのではないのかな?」


「それは……

 殿下、発言をお許し頂けますか?」


「発言を許すもなにも、この場は、正式な謁見の場ではないから、そんなに畏まる必要はないよ

 頭も上げていい」


 その言葉に、ケヴィンは頭を上げレイモンドを見据える。


「恐れながら、殿下

 何故、シルヴィアなのですか?」


「何故……、とは?」


「殿下であれば、他にもお相手はいくらでも、いらっしゃるのではないですか?

 それなのに、何故シルヴィアを隣に置いているのですか!?

 婚約破棄を突き付けられて傷付いているシルヴィアに、一時の相手を望むなど……

 王族からの命であれば、断る事は困難な事をわかってシルヴィアへ声をかけたのなら、あんまりではないですか?」


「………そう捉える者も、いるだろうとは思ってはいた

 だがね、彼女の事を一時の相手などと、言われたくはないな

 私は、そのような軽い気持ちで、彼女を側に置いている訳ではないよ」


 レイモンドの言葉にケヴィンは、ギリッと奥歯を鳴らす。


「婚約相手に命じる訳でもないのに、一時の相手ではなくて、何であるというのですか!?」


「ケヴィンっ!

 殿下に失礼よ! わたくしは、殿下にはとても良くして頂いているの

 だから、貴方が心配するような扱いは受けてはいないわ」


 シルヴィアは、感情的になっているケヴィンを、咄嗟に窘めた。

 そんなシルヴィアの腰へ手を添えたレイモンドは、彼女をぐいっと自分の傍へ寄せる。

 そんなレイモンドの行動に、シルヴィアは狼狽え、戸惑いを隠せない。


「シルヴィア嬢、彼の言い分も理解出来ない訳ではないから、気にする必要はない、大丈夫だよ

 パートナーとして、シルヴィア嬢には、毎度共に夜会へ出席して貰っている事に対して、そう感じてしまうのもわかるが、私は軽い気持ちで彼女を傍へ置いている訳ではないことは理解してもらいたいかな?

 それと、私もマーブル侯爵子息である君には、言いたい事があるのだよ」


「え……?」


 ケヴィンへ向けるレイモンドの視線に、僅かに鋭さが増した。

 そんなレイモンドの視線に、ケヴィンはたじろぐ。



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