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第13話 レイモンド

 レイモンド・ミルヴォア。

 現王弟という立場であり、甥となる現国王の息子の第一王子とは、同い年だ。

 兄である国王とは、親子程の年の差がある。その理由は、国王の異母兄弟という出自である、というものが、一番わかりやすいのかもしれない。

 現国王は賢王と名高いが、先王は女好きだと有名であった。

 だが、あまり子宝には恵まれず、沢山の側妃や愛妾がいたのにも関わらず、子どもは王太后が産んだ現在の国王と、そしてレイモンドだけであった。

 レイモンドの実母は、王城へ行儀見習いに来ていた伯爵家息女である。

 彼女の容姿はとても美しく、性格も穏和で、頭も良かった為、多くの貴族子息から好意を持たれていた。

 そんな彼女は、当時国王であった先王の目に止まり、登城している時に手をつけられたのだ。

 彼女が国王の子を身籠った事がわかり、側妃へと迎えられたという過去は、貴族達で知らない者はいない。


 年の差があれ、現国王と異母兄弟となるレイモンドとの関係は、とても良好であり、甥である現王太子とも、実の兄弟のように育ってきた。まだ、存命である王太后からも、疎まれる事もなく可愛がられている。

 それは、レイモンドが兄である国王に対して、自分を主張しないという控えめな姿と、物言いははっきりしているという真逆の性質が、周囲からは好ましく思われていた事。頭の回転が早い秀逸さ。そして、穏やかな性格。それらは、王族としてとても好まれる為に、兄や王太后との良好な関係を築いているとも、言われている。


 レイモンドが王位を継ぐ気はない事は、貴族達の中では有名であるが、そんな魅力的な存在である彼は、未婚の令嬢やその親からは、婚姻を望む相手として有名な存在であった。



 シルヴィアは、レイモンドの政務を手伝うようになってから、レイモンドの評判は本当であるなと、改めて何度も感じていた。

 容姿が整っていて目を惹く事や能力の高さ、彼の立場は勿論、それ以上に彼の振る舞いや性格が、人を惹き付けるのだろうと感じる。


 レイモンドから、偽りのパートナーになって欲しいと頼まれ、政務の手伝いを担うようになって2ヶ月がたとうとしていた頃であった。

 シルヴィアが、レイモンドと会瀬を重ねる為に登城しているとの噂が広がりをみせていたが、彼女は登城をやめる事はなかった。

 今までであれば、悪目立ちする事は避けようと、登城を控えていたかもしれない。

 彼女自身は、手伝いを引き受けたからには、責任を持ちたいという気持ちが大きいと思っていた。

 しかし、彼女にとって温かで居心地の良い空間であるレイモンドの執務室に通う事は、自分では気付かずとも、楽しみになっていたのだ。


 そんなある日、書類と手紙の仕分けをしていたシルヴィアは、差出人のない一つの封書に目を止める。

 その封書は、あまり見掛けない黒い印籠で綴じられいた。


「殿下」


「ん? 何だい?」


「こちらの封書なのですが、差出人が書いていないのですが……」


 シルヴィアが差し出す封書に、目を止めたレイモンドの表情が、一瞬ではあったが僅かに鋭くなった事に、シルヴィアは気がつく。

 そして差し出した封書は、あまり公にはしてはいけない秘密裏なものなのではないかと察した。


「ああ……

 そちらに混ざっていたのだね、それは正式な私宛ての封書で間違いはないから、今後も万が一そちらに混ざっていたら、直接私に渡してもらえるかな?」


「はい、畏まりました」


 一瞬ではあったが、穏やかなレイモンドにしては珍しい鋭い表情に、シルヴィアの緊張感が増した時、執務室のドアがノックされる。


「僕が伺ってきます」


 ロータスが報告しにきた侍従から、要件を伺い、レイモンドへ伝える。


「殿下に、来訪者がいらっしゃっているとの事です」


「来訪者?

 今日は、誰とも約束はしていないが、先触れもなしにどんな来訪者なんだ?」


「それが、殿下とシルヴィア嬢にお会いしたいと、シルヴィア嬢の妹君であるリリア・ラウシュ嬢が、登城されたと……」


「えっ!? リリアが!?」


 ロータスの言葉に、シルヴィアは驚き、表情を青くする。

 レイモンドは、歴とした王族の身分だ。

 その存在に、突然会いたいと登城するなど、あってはならないのだ。

 本来であれば、城務めでない一般人は、貴族であっても、立ち入り許可の出ている場所に入るだけで、登城理由を記した上で、登城許可証を発行してもらわなければ、登城する事もかなわない。

 その上、王族に謁見するとなれば、さらに複雑な手続きをふまなければならないのだ。

 その事を、侯爵令嬢であるリリアが知らない訳はない。

 と、いうよりも常識として知っている事が当然で、知らなかったという事は通らないのだ。

 それなのにも関わらず、前もって約束もしていないのに、このような申し出をするなど常識はずれもいいところであった。


 シルヴィアが、青い顔でレイモンドへ頭を下げる。


「妹が大変失礼な行動をとって、申し訳ありません!」


 レイモンドは、そんなシルヴィアの頭をフワリと撫でた。


「君が謝る必要はないよ

 彼女は噂に違わず、かなりの()()()()のようだね

 まぁ、君の妹でもあるから、無下に帰す訳にもいかないだろう」


「殿下どうされますか?」


 ロータスの問いに、レイモンドは乾いたような笑みを浮かべた。


「今日は特別にシルヴィア嬢に免じて、時間を作ろうか

 だが、執務室(ここ)に通す訳にもいかないから、応接室へ通すように伝えてくれるかな?」


「畏まりました」


 レイモンドの声に、ロータスは執務室を出て指示しに向かった。

 未だに青い顔のシルヴィアへ、レイモンドは先程までの表情とは違う柔らかな笑みを向ける。


「大丈夫だよ

 今回の事で、君が責任を感じる必要もないし、咎めたりもしない

 妹君が、どんな理由で登城したのか、彼女の事を殆ど知らない私も、気になる所だしね」


「殿下……

 寛大なお心をありがとうございます……」



 レイモンドは、複雑な表情のままのシルヴィアを伴い、リリアが案内された応接室へ向かった。

 応接室の扉が開かれ、レイモンドが来た事を伝えられたリリアは、淑女の礼(カーテシー)を向けるよりも先に、可愛らしい満面の笑みをレイモンドへ向ける。


「レイモンド殿下!

 お会い出来て良かったです!」


 そんなリリアの姿に、シルヴィアはより顔を青くした。

 レイモンドの表情は、笑みを浮かべてはいたが、いつもシルヴィアへ向けているような、柔らかな笑みではなく、外向きの表情のような笑みを浮かべている。

 周囲に控えていたロータスやロザンナは、訝しげな表情を隠せないでいた。

 リリアは、そんな周囲の様子に気が付いていないのか、可愛らしくドレスを摘まむと淑女の礼(カーテシー)を向ける。


「ラウシュ侯爵次女であります、リリア・ラウシュと申します。

 以後、お見知りおきを……」


 リリアの言葉や礼は、王族へ向けられるようなものではなかった。

 意識的なのか、無意識なのかはわからないが、いつものように、自分の可愛らしさを、相手へ伝えるかのようなものであった。

 そんな振る舞いを、今まで他の貴族達はリリアの雰囲気からか「可愛らしい」と褒めていた。その為に、そのような振る舞いで大丈夫なのだと、彼女は勘違いし思い込んでしまったのではとも、この場にいた者は感じる。


 だが、そのような王族へ向けて失礼な振る舞いであっても、レイモンドはリリアを咎めずにいた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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