表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/70

第11話 お菓子

 シルヴィアは、王城でカルロスに会い、蔑みを含んだ言葉をかけられた事で、気持ちが落ちたまま帰途についた。

 夕食の時間になり食堂には、継母と、異母妹のリリア、そしてシルヴィアの三人が集まる。

 今夜も、父親のラウシュ侯爵は、帰りが遅いようだ。


 シルヴィアは、普段よりも食が進まなかった。

 そんなシルヴィアへ、異母妹のリリアは声を掛ける。


「お姉様は、今日もお出掛けされていたみたいだけれど、何処にいつもいらしてるの?

 噂では、頻繁に登城してらっしゃるって聞いたのだけれど

 もしかして、レイモンド殿下とお会いになってるの?」


「それは……」


 シルヴィアが、レイモンドの政務を手伝っている事は父親の侯爵しか知らない。王城へ通っている事は、執事頭のビル、侍女のサラ、御者のマークにだけ伝えている事であった。

 だか、頻繁に登城していれば、様々な貴族達の目にも入る。恐らく、王城でシルヴィアの姿を見た者が、噂をしていたのであろう。

 多くの者が、先日の夜会でレイモンドがシルヴィアをエスコートしている姿を見ている事も、その噂を助長させる要因の一つにもなっているのかもしれないと、シルヴィアは思った。


 シルヴィアが、リリアの問いに言い淀んでいると、継母のスザンナがシルヴィアを睨み付ける。


「高い身分の相手がいれば、分も弁えずに言い寄るなど、血は争えないわね?

 殿下から、優しくされたとしても、勘違いしない方が身のためよ?

 貴女は、婚約破棄されたばかりの傷物なのよ

 自分の身のほどを知りなさい」


「………っ…………」


 スザンナの言葉は、シルヴィアだけでなく、シルヴィアの実母をも蔑む意味合いを含んでいた。

 シルヴィアの今は亡き実母の出自は、男爵出である。侯爵家を継ぐ父と、婚姻を結ぶにはかなりの身分差があったのだ。

 彼女は、継母からの自分への対しての蔑む言葉よりも、実母の事をこうして侮蔑される事が、より悔しく悲しい気持ちになっていた。


 手にしていたナイフとフォークをシルヴィアは静かに置くと、ナフキンで口元を拭い席を立つ。

 そんな姉へ、リリアは声を掛けた。


「お姉様、もう食べないの?」


「ええ、少し疲れていて……

 お継母様、お食事の途中ですが、失礼致します」


 頭を下げて、その場を離れようとするシルヴィアへ、リリアは先程の母親の言葉の意味や、その言葉によって、シルヴィアがどんな気持ちでいるのか、たいして気にする素振りも見せずに、さらに姉へ言葉を掛ける。


「もう、お部屋へ戻られるの?

 折角、デザートに私が作ったお菓子を、お姉様にも食べてもらいたかったのよ?」


 少し膨れた顔を向けたリリアに、シルヴィアは複雑な心内を顔には出さず、言葉を返した。


「後で、お部屋で頂くわね」


 シルヴィアの言葉に、リリアは笑みを向ける。


「じゃあ、食事が終わったら、私がお姉様のお部屋に届けるわね!

 楽しみにしていね」


 そんなリリアの無邪気さに、より複雑な気持ちになりながら、シルヴィアは食堂を後にした。



 暫くして、リリアがシルヴィアの部屋へ訪れる。

 リリア付きの侍女のマーサが、先程リリアが言っていた菓子と、茶器などを乗せたワゴンを押し、付き添っていた。

 シルヴィアの部屋のテーブルへ、お茶とお菓子をシルヴィアの侍女であるサラも手伝い、準備していく。


「お姉様

 今日はね、クッキーを焼いたの」


 リリアは、ニコニコと笑みを浮かべながら、姉へ嬉しそうに報告した。


「とても、美味しそうね」


「そうなの!

 とっても上手く焼けたのに、今日はカルロス様がお留守だったから、直接渡せなかったのよ」


 カルロスという名前に、シルヴィアは心に影を落とす。


「カルロス様へ、お渡しする為のクッキーだったのね」


「カルロス様のお好きなナッツを、沢山入れたのよ

 本当なら目の前で、食べて欲しかったのに、お屋敷に伺ったら、登城されているって言われたの

 だから、執事にカルロス様へ渡してもらうよう、頼む事しか出来なかったのよ

 お姉様も、登城されていたなら、お会いになった?」


「え……、わたくしは……」


 シルヴィアはリリアの問いに、王城でカルロスに会った時の事を、また思い出し気持ちが落ちていく事がわかった。

 そんな気持ちに、何とか蓋をする。


「きっと、今頃あなたのお菓子を、喜んで食べてくださっているのでは、ないかしら?

 今までも、とても嬉しそうに召し上がれていらっしゃったから

 次にお会いする時に、カルロス様のご感想を聞ける事を楽しみにしていたら、いいと思うわ」


 カルロスに会ったかという問いへの答えは濁し、リリアへ言葉を掛ける。

 まだ、シルヴィアと婚約していた頃から、カルロスがラウシュ家を訪れる度に、リリアは趣味で作った菓子を、彼に食べて欲しいと渡していた。

 趣味で作ったといっても、殆どが侯爵家の料理人が作り、仕上げにナッツを乗せたり、粉砂糖をかけるなどの、真似事だけであった。

 そんなリリアから差し出された菓子を、婚約者であったシルヴィアの目の前で、沢山の賛辞を言葉にしながら口にするカルロスの事を、シルヴィアはいつも黙って見ていたのだった。

 カルロスが侯爵家に訪れている時の殆どの時間、彼は婚約者であったシルヴィアではなく、妹のリリアと楽しそうに話し、シルヴィアはそんな様子を同じ場で見せつけられる日々。

 以前の、そんな日々の事を思い出したシルヴィアを前に、リリアは特に気にもせず、姉の先程の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうね、いつも美味しいって言ってくださるものね!

 今から、お会いするのが楽しみだわ」


 自分の気持ちを素直に表現するリリアに対して、シルヴィアは、何ともいえない複雑な感情をしまい、暫く妹の話に付き合った。


 リリアが、自分の部屋へ戻った後、シルヴィアは、小さく息を吐く。

 そんな彼女へ、彼女付きの侍女であるサラはポツリと言葉を溢す。


「リリア様は、無神経です」


「サラ?」


「シルヴィア様のお気持ちを、何もお考えになっておられません」


 そんなサラへ、シルヴィアは困ったような表情を向けた。


「誰が聞いているのかわからないのだから、そんな事を言っては駄目よ?

 あの子は、素直なだけなのよ」


「素直だなんて……

 ご自分の言葉が、どれだけ相手を傷付けているのか、全く気付かれないで……

 それなのに、いつも相手を気遣っておられるシルヴィア様が、反対に悪く言われるなんて、そんなの理不尽です」


「………あの子の、あんな天真爛漫さが、周囲からは好ましく思われるのよ

 サラ、ありがとう

 私の変わりに、怒ってくれて

 私は、サラが居てくれるから、この家で今もこうして過ごせるの

 だから、サラはそんな事を外では言葉にしないで、ずっと側にいてね」


「シルヴィア様……」


 サラが、未だに侯爵夫人のスザンナからシルヴィアの事を、面と向かって庇わずにいる理由。

 それは、幼い頃シルヴィアが涙を浮かべながらサラへ頼んだ事も、一つの理由であった。

 スザンナのシルヴィアへ対しての酷い扱いから、彼女を庇おうとした昔からいた使用人達が、次々と解雇されていった。そんな状況に、シルヴィアは自分の味方にならなくてもいいから、ずっと傍に居て欲しいと、心の拠り所を近くにいたサラへ求めた。

 その願いを聞き、サラはスザンナへ楯突く事を必死に抑え、今日に至る。

 スザンナも、正当な理由もなしにサラを解雇する事ができなかったのだ。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークをつけて頂きありがとうございます!

評価ポイントを付けて頂き、感謝です!!

励みになっております!




◇お知らせ◇


活動報告でもお知らせ致しましたが、今週から(7/19~)不定期更新に移行する事をお許しください。

理由としては、筆が遅い事によるストック不足と、私事で時間があまりとれない状況が1ヶ月程続く為であります。

なるべく更新できるよう、頑張っていきたいと思います。

更新のさいは、活動報告にてお知らせ致します!

明日(7/20)は、更新予定です。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ