表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/70

第10話 遭遇

 レイモンドの政務を手伝うようになった、シルヴィアの手際の良さは、レイモンドやロータスの想像以上であった。彼女へ、頼んだ本人であるレイモンドですら、驚きを隠せない。

 シルヴィアへ、レイモンドが頼んだ手伝いとは、書類の仕分け等の整理や、執務室内の整頓である。シルヴィアが、書類を分かりやすいように分類事に纏めて仕分けたり、資料となる書物を前もって選んだりする事で、二人は今までよりも、より仕事に取り掛かりやすくなった。



 そんなある日、レイモンドの執務机の横に積み上がっている、資料としていた書物に目を落としたシルヴィアは、レイモンドへ声を掛けた。


「この書物は、もう使わないものですよね?」


「ああ、もう確認が終わっているからね」


「では、書庫室へ戻してまいります」


 そう言ったシルヴィアへ、ロータスは言葉を返す。


「シルヴィア嬢重いので、僕が後で返してきますから、大丈夫ですよ」


「ロータス様は、まだお仕事が残っていらっしゃいますよね?

 わたくしは、今、手が空いておりますし、この程度の冊数であれば、問題ありません」


「いやいや、ご令嬢に重たい物を持たすなんて、問題です

 それであるなら、侍従を呼べば──」


「皆様各々お仕事がありますし、お仕事を増やすよりも、手が空いている者が動く方が、効率が良いと思います

 今回はわたくしが、戻してまいります」


「ならば、ロザンナを護衛に──」


「ロザンナ様は、殿下の護衛であります

 書庫室までの道のりは、見渡しの良い回廊ですもの、何も危険などないですわ

 何より、王城内は警備が行き渡っていますもの

 わたくし一人で大丈夫ですので、それまでに、こちらに分けておいた書類の確認とサインを、お二人は終わらせてくださいませ」


 シルヴィアはそう言うと、積んであった書物を抱え、執務室を後にする。

 二人は、そんな彼女の姿を見送るしかなかった。


「殿下は、シルヴィア嬢のあそこまでの働きを予想していたなんて、凄いですね」


「いや……、さすがに私の想像以上だよ」


「何というか、あそこまでハッキリした物言いは、ぎゃくに気持ちがいいです」


 そんなロータスの返しに、レイモンドはフッと笑みを浮かべる。


「さて、早く書類の確認に取り掛からないと、遊んでいたのかと、戻ってきた彼女に叱られるな」


「そうですね!」



 ◇*◇*◇


 書物を抱え、書庫室へ向かっていたシルヴィアは、あまり会いたいとは思っていなかった見知った人物と、王城の回廊で出会し、身体に緊張が走る。


「……シルヴィア」


 暖かな風が吹き抜ける回廊で、そんな気候とは相反する冷々とした声が、シルヴィアの足を止めた。

 自分に向けられる鋭い視線に、今までそこまで感じなかった書物の重さが、何故かより重く感じる。


「……カルロス様………」


 回廊で出会したのは、シルヴィアの元婚約者で、今は異母妹のリリアを婚約者にした、カルロスであった。

 カルロスは、シルヴィアの姿を見ると、乾いた笑み浮かべる。


「婚約破棄をされて、城の小間使いにでもなったのか?」


「…………」


 カルロスのその言葉は、侯爵令嬢であるにもかかわらず、書物を何冊も抱えている今のシルヴィアの姿を見ての事であろう。

 カルロスは、自分の言葉に何も言い返さないシルヴィアに、苛立つ事を隠さず言葉を続けた。


「否定もしないとはな

 先日の夜会では、レイモンド殿下の隣にお前が居たのには驚いたが、殿下に何と言って言い寄ったんだ?

 本当に、最悪な女だな」


「……………」


「シルヴィア

 殿下に、何を言いつけた?」


「何の事でしょうか?」


 淡々とした言葉で返すシルヴィアに、カルロスの苛立ちはより深まる。


(とぼ)けたって無駄だ!

 殿下から咎められたと、父上から小言を相当言われたんだからな

 何故、俺が咎められる? お前が原因であるのにだ!

 そうであるのに、殿下が父上を咎めたのは、お前が自分の良いように殿下へ言いつけたとしか、思えないだろう!?」


 シルヴィアは、カルロスの自分本位な考え方は、今も変わらないのだなと感じた。

 それでも、昔はシルヴィアに対しても、気にかけてくれるような姿もあった。

 カルロスがこんなにも、シルヴィアに対して苛立ち、敵意を向けるようになってしまったのは、何故なのだろうか。

 シルヴィアは、書物を抱えている自分の指先が震えている事に気が付く。そして、自分へ怒りを向けるカルロスへ言葉を掛けようと思っても、良い言葉が思い浮かばなかった。

 彼女が、気が強いように端から見えるのには、目鼻立ちがキツい印象に見える他にも理由があった。

 相手の機嫌が悪かったり、相手から怒りを向けられると、彼女は構えてしまうのだ。さらに、相手を穏やかにさせるような、上手な言葉掛けが不得手であり、必要最低限な言葉を掛ける事が、やっとである為だった。

 今も、カルロスが自分へ向ける怒りを、どうにか抑えたいと思うが、身体が萎縮し言葉が出てこない。外見からは、カルロスを見据えているような姿のように見える。シルヴィアが、萎縮している状態であると外見からそう見えないのは、良くも悪くも、長年の貴族令嬢としての学びの成果であった。


「自分の都合が悪くなったら、相手を睨み付けるのは、相変わらずだな?

 本当に、虫酸が走る女だ!」


「睨み付けてなど、しておりません」


「その目っ!

 それが睨み付けていると言わないで、何て言うんだ!?」


「わたくしは───」


「シルヴィア嬢!」


 そんな時、シルヴィアを呼ぶ声がした。

 彼女を呼び止めたのは、ロータスであった。


「まだ、回廊(こちら)に居たのですね

 急遽、必要な資料があって──

 これはルーベンス様、失礼致しました

 お二方のお話の間に入ってしまって……」


 カルロスに気が付いたロータスは、カルロスへ礼を向ける。その時、シルヴィアの指先が震えているのが彼の目に入った。

 ロータスは、ニコリとカルロスへ笑みを向ける。

 そんなロータスの事を、訝しげにカルロスは睨み付けた。


「お前は……?」


「自分は、ロータス・ダーレンと申します

 レイモンド殿下の補佐をしている者であります

 失礼ながらルーベンス様、お二方のお話は、急を要するお話しでしたでしょうか?」


「いや……」


「でしたら、非礼になってしまいますが、シルヴィア嬢を伴っても構いませんか?

 レイモンド殿下から、そう命じられているのですよ」


 王弟であるレイモンドの名前を出されたならば、カルロスでも異を唱える事はできなかった。


「殿下の命であれば……」


「そうですか、申し訳ございません

 では、失礼ですが……

 シルヴィア嬢、書庫室へ参りましょう」


 ロータスはそう言うと、カルロスへ会釈し、シルヴィアが抱えていた書物を片手で持つ。そして、彼女の背を押しその場を離れた。

 カルロスは、ロータスが伴いその場を離れていくシルヴィアの事を、彼女の姿が見えなくなるまで睨み付けていた。



 カルロスから離れたシルヴィアとロータスが、書庫室へ向かう途中、彼女へロータスは声を掛ける。


「やはり、初めから僕も伴うべきでしたね」


 ロータスの言葉に、シルヴィアは自分が不甲斐ないような気持ちになった。


「あの……、お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」


「僕は何もしていませんよ?」


「あの……、殿下には今の事……」


「……シルヴィア嬢は、お伝えしないつもりなのですか?」


「ご心配を、おかけしてしまうかもしれませんから……

 わたくしが、一人で大丈夫と言ったのにも関わらず……ロータス様に、助けていただく始末で……」


「そうですか……

 シルヴィア嬢が言わないとされるのなら、僕から言う事ではありませんね

 ただ……」


 ロータスは、柔らかな笑みをシルヴィアへ向けると言葉を続けた。


「気持ちを切り替える為にも、この後の休憩時間には甘めの菓子を頼みましょうか」


「ロータス様……

 ありがとうございます……」


 ロータスの気遣いに、シルヴィアは先程まで構えていた気持ちが、少し軽くなっていく事がわかった。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもつけて頂きありがとうございます!




◇お知らせ◇

活動報告でも月曜日にお知らせ致しましたが、土日、それから祝日は更新をお休みさせて頂きます。平日の更新とさせて頂きます。

宜しくお願い致します。

なので、明日、明後日(17.18日)は更新お休みとなります。申し訳ありません…

ですが、ストック的に更新リズムが、もうはや崩れそうです。。。

執筆頑張りますね!


それにしても、カルロスは良くない性格ですね……

それにも理由があるのですが、それがわかるのはもう少し先であります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ