2話 「登校」
ついに今日から二学期が始まる。
少し緊張はしているが楽しみである。
久しぶりの制服に胸が躍る。
鏡を見てネクタイを結ぶがあまりにも不格好で何度も結びなおす。
「あれ?なんか違うんだよなー。」
十数回目にしてやっと納得のいく形になった。
時計を見ると、針は八時十分を指していた。
「いつまで準備してるの!遅刻するよ!!」
母の呼びかけに焦り急いでカバンを手に取る。
徹夜で終わらせた夏休みの宿題がしっかりとカバンに入っていることを確認して部屋の扉を開ける。
「母さん弁当はー!?」
「テーブルの上にあるわよー。」
階段を駆け下りてキッチンへ向かう。
テーブルの上に置いてある弁当箱を掴んで玄関で靴を履く。
「いってきまーす!!」
玄関の扉を勢いよく開けて学校に向かって走り出す。
と思いきや、数歩進んだところで足が止まる。
「学校どこだっけ、、、。」
異世界での生活が長すぎて自分が通っている高校の場所を忘れてしまった。
「嘘だろ、どうしよう、、、。」
やばい。やばい。このままじゃ完全に遅刻だ。
頭がパニックになりかけた瞬間、
「あれ?優助じゃん!お前目、覚めたのかよ!!」
自転車に乗った男が目の前で急ブレーキをかけて止まる。
顔に見覚えはあるが名前が出てこない。
「何してんの?遅刻するから後ろに乗れよ。」
「ああ、わりい。」
戸惑いつつも遅刻するよりはましだと思い後ろに乗った。
とりあえずこれで安心だ。
「お前が遅刻しそうなんて珍しいな。まだ寝ぼけてるのか。」
「ちょっとネクタイを結ぶのに時間がかかって。」
普通に話せてはいるもののいまだに名前が思い出せない。
「ん、どうした?」
「いやあ、おれ、事故のせいで一部記憶喪失でさ、、、。」
申し訳なさそうに口を開く。
言い訳にしかならない気もするが。
「えっ!じゃあおれのこと覚えてないの!?」
「顔は覚えているんだけど、名前が、、、。」
今の俺、すごくダサい。というか最低だ。
予想通り、男は少し残念そうに話し始めた。
「そっか、それはしょうがないよな。俺は中学からの同級生だったんだけどなー。」
「あ!本堂か!」
俺は咄嗟に思い出した名前を口に出した。
自転車を運転している男は急に後ろを振り返り、
「なんだよ!!覚えてるじゃん!!」
「バカ!!前見ろ!!前!!!」
急ブレーキをかけギリギリ電柱の前で停止する。
二人は同じタイミングで大きな息を吐いて顔を合わせる。
「あっぶねえ~。」
「何してるんだよ、、、。」
「ごめんて、無事だったんだから許してくれよ。」
「まあ、そりゃそうだけど。」
命の大切さと危機に対しての敏感さはあっちで嫌というほど学んだ。
あともう少し遅かったら電柱に直撃していただろう。
「ほら、はやく学校に行くぞ。」
「おう!、って今何時だ?」
俺はケータイの電源をつけて時間を確認する。
「優助、顔が真っ青だぞ、、、。」
「朝のホームルームって何時だったっけ?」
本堂は少し上を見上げながら答える。
「確か八時半だったような、、、。」
俺はケータイを本堂の顔に近づける。
「あと五分だよ!!」
二人の顔からは大量の汗が。
急いで乗りなおして学校へ向かう。
「しっかりつかまってろよ!!」
「お、おい!!」
次から次へと流れる景色に懐かしさを感じながら、学校へと着いた二人は下駄箱から靴を出して内履きに履き替える。
走って階段を上りながら本堂は俺に話しかけた。
「俺のことも忘れてたくらいだからどうせ自分のクラスも覚えてないんだろ?」
「え、三組でしょ。」
俺は普通に答える。
そうすると本堂は泣きそうになりながらスピードをあげる。
「なんでクラスは覚えてて俺の名前は忘れてるんだよ~!!」
大声で叫びながら視界からものすごい勢いで消えていった。
俺は歩いて階段を上り、ケータイを開く。
「よかった。ギリギリ間に合いそうだ。」
ようやく教室に着き、一回深呼吸をする。
久しぶりの学校だ。俺はネクタイを触って身だしなみを整えてから扉に手をかける。
そしてゆっくりと扉を開けた。