14話 「生贄」
一組との勝負から一週間が経ち、学園祭の準備は順調に進んでいた。
準備までの衣装班、買い出し班。当日のコスプレ担当。
各々が出来る限りのことをしているが、やはり当日コスプレをする人間がなかなか決まらない。
みんなはやはりコスプレはする方よりも、見る方がいいらしい。
もちろん俺もその一人だ。
あちらの世界で嫌というほどコスプレをしてきたようなものだからな。
「当日、部活の出し物やパフォーマンスがある人はそっちの準備もあるから無理にしろとは言わないわ。その代わり、何もない人はとことん働いてもらうからね。」
ある日の放課後、学園祭の準備のため教室に集められた俺たちは深いため息をつく。
何しろ今集められている人たちはその「何もない人」だからである。
「あのー。何人コスプレやればいいの、、、?」
「ん~。一時間ごとに交代で五人はいてもらいたいから、、、。あ、でも複数回出てくれる人がいたらまあ二十人くらいかな。」
思ったより必要人数が多すぎて絶望する。
現時点で十五人はもう決まっているからあと五人。今ここにいるのは男子五人、女子五人の計十人。
男女のバランスを考えると男子が一人多く必要になる。
確率的に俺が選ばれてもおかしくない。
頭の中で色々と考えていると、いつの間にか女子の方は決まっていてしまった。
次は男子の番だ。
「なあ、どうするよ。俺らから三人出さないとなんだろ?」
「ああ、こうなったらじゃんけんにするか?」
俺らはみんなで円になってコスプレをする、つまり生贄を決めようとしている。
あまり関わりの少ないやつらの集まりだが、今はそんなことは言ってられない。
「俺は彼女とまわる約束してるから当日はちょっと、、、。それにコスプレしてる姿なんて見せたくねえし。」
「お前彼女いたのかよっ。いつも遊び断ってたのバイトって言ってたじゃねえか。」
そこまでしたくないのかなぜかここで暴露し始めるやつもいる。
だが周りはそんなことで生贄を減らすわけにはいかない。
むしろリア充をここで野放しになんかできるか、という目でそいつを見る。
すると一人の女子が誰かにメールを送るとすぐに教室の扉が開く。
「トシくん、コスプレするの!?」
「げっ、あかり!なんでそんなこと知ってるんだよ!」
まさかのたったさっき彼女がいるといったクラスメイトの彼女が来てしまった。
もちろん、その本人は驚きで体が震えている。
「おい、お前教えたな。」
「だってあんたたちがさっさと決めないからでしょ。」
メールを送ったやつは棚田有希子。
気が強い性格だが、見た目によらず優しい一面もある。
「ねえ、私トシくんのコスプレ姿見たいからやるよね?」
「え、あ、ああ。もちろん。」
ナイス!!!!
俺を含めた他の男子が全員心の中でそう叫ぶ。
「これで一人決まったな。あと一人だ。」
「ああ、もうこれはじゃんけんで決めよう。異論はないな?」
こうなったらもう腹を決めるしかない。
全員が静かにうなずく。
「いくぞ、じゃん、けん、ぽんっ!」
信じられない。
今までじゃんけんで負けたことない俺が、、、。
「じゃあ、残りの二人は高山と大森な。」
まあ、大体こういうときは自分になるのが相場ってものか。
あまり目立たない衣装にしてもらわなきゃ。
こうして放課後の緊急集会は終わり、俺は遅れて部活に向かう。
ちなみに医者にはもう運動しても構わないため、今週から練習には参加している。
つい前にあった地区大会も無事入賞したため県大会の切符を手に入れたらしい。
そしてここで学園祭の出し物決めやコスプレ決め以上の問題が発生している。
それは県大会の団体メンバーだ。
戻ってきた俺を団体メンバーに入れるかどうかでもめている。
もちろん俺自身はみんなに申し訳ないため無理に入れられたくはないのだが、顧問がどうしてもと言って聞かない。
それをよく思わない部員も多く今度は他クラスやクラスメイトではなく、部員と勝負することになってしまった。
元の世界に戻ってきても戦いばかりなのか、、、。
まあこっちの戦いは別に俺が望んでいるものじゃないんだがな。
もちろん、魔王を倒すために戦うのも望んではいなかったがあれに関しては生死に関わるからしょうがないことだと思っている。
そういえばあっちにいたときは毎日日記をつけていたっけな。
俺は掛け声のする道場へ歩みを進めていた。