12話 「後輩」
「えっと、、、実は遅れたのには理由がありまして、、、。」
「ん?まずはごめんなさいだよね?」
「ごめんなさい。」
「うん、まあそんなに遅れてはないからいいかな。」
玄関の前で俺と慎太郎の間には緊迫な時間が流れていた。
なんで今日はこんなに怖い慎太郎ばかりを見ているのだろう。
俺は材料の入っている袋を渡す。
慎太郎は中身を確認して笑顔になる。
「お疲れ様ー。」
「そういえばなんでお前そんなやる気なの?出し物決める時なんか全然興味なさそうだったじゃん。」
そういうと慎太郎は何食わぬ顔で、
「なんとなく?」
と答えた。
「じゃ、当日楽しみにしてるわ。」
「うん。帰り気を付けてね。また明日。」
俺は自転車に乗り自分の家に帰っている途中、公園に人がいるのが見えた。
そしてさっきあった出来事を思い出す。
「もしかして、、、。」
自転車を止めて公園の小さなライトに照らされている人に近づく。
やはりさっき男にナンパされていた人だ。
「あの~、大丈夫でしたか?」
「あっ、先ほどはありがとうございました。」
何回も頭を下げるのを見て少し嬉しくなる。
人の役に立てるのはやっぱり気持ちいいな。
「あ、あの、、、。高山先輩ですよね?」
「え、う、うん。俺のこと知ってるの?」
まさか俺のことを知っているとは、、、。
恥ずかしいこと言っていたような気もするけど大丈夫だろうか。
「私、一年の神木菫です。高山先輩とは中学からの後輩で、、、。」
「あ、そうなんだ。そういえばなんでこんな時間に一人でいたの。女子一人じゃ危ないよ。」
「えっと、塾の帰りで、、、。この公園はいつも近道で通っているんです。」
「なるほどね。でも今度からは遠回りでも明るい道を歩きなよ。また変な人に声かけられるかもしれないし。」
今回はたまたま俺が見かけたからいいものの次またあの男が声をかけてくるかもしれない。
そうなったらさすがの俺でもどうすることもできないだろう。
「わかりました。本当に助けてくれてありがとうございます。あと少し気になったことがあるのですが。」
「ん、なに??」
「高山先輩ってずっと剣道続けてますよね。でもあの男の人みたいな構え方じゃなかったですよね。」
「ああ、あれは、、、。」
やば、しっかり見られてた。
さすがに引かれるかな、、、。
「ちょっと大げさにした方が相手もビビるし、剣道はあーいうときはあんまり役に立ったないからね。」
「そうなんですね!すごくかっこよかったです。」
よかったー!怪しまれずに済んだ、、、。
とりあえずこれ以上はぼろが出るからなんとか会話を止めないと。
「じゃあ、俺もう帰るから君も気を付けなよ。」
「あ、はい、、、。」
ん、待てよ。ここで一人で帰らせたら俺、薄情な人間だと思われないか。
でもあんまり知らない女子と二人で帰るのはな、、、。
「あの、、、。高山先輩?どうしました?」
「いやっ、あのさ、家まで送ろうか?」
後輩は少し顔を赤らめながら小さく頷く。
こうして俺は自転車の後ろに後輩を乗せて、走り出す。
道を教えてもらいながら五分くらいで後輩の自宅に着く。
「今日は色々とありがとうございました。」
「全然いいよ、じゃあね。」
俺が後ろを振り返ると後輩が少し大きな声で呼び止める。
「今度ちゃんとお礼をするのでっ!」
「うん、楽しみにしてるね。」
こうして俺は今度こそ自分の家に向かって自転車を走り出させた。
予想外の出来事のせいで帰りが遅くはなったが母親はあまり気にしていなかったので俺はすぐに自分の部屋に戻る。
「なんか疲れたな、、、。」
この日は早起きもして動き回ったおかげでよく眠れた。
そしてときは過ぎ、一組との勝負の日を迎える。
果たしてどちらがコスプレカフェの権利を得ることができるのだろうか。