2 行き倒れ、目覚める
黒髪の青年はオッドアイをゆっくりと瞬かせながら、赤銅色の髪の青年を見上げていた。片目が深緑色でもう片方は紫だ。
おぼつかない視線の焦点が定まるのを待ってから、赤髪の青年はもう一度「気分どう? 痛いとこある?」と尋ねた。
黒髪の青年が小さくうめく。
「胸……」
「胸? 胸苦しい?」
「あと、あし……」
「足ガッツリ凍傷になってたな」
「指とあたま、と、腹……も……ゲホッ」
「百点満点の満身創痍じゃねーか……」
あまりのボロ雑巾加減に、赤髪の青年はしゅんとした顔で黒髪の青年の頭を撫でる。
黒髪の青年は、優しいその手つきに微睡んでいるような、痛みに視界をかすまされているような、ぼんやりとした目をしたまま小さくささやいた。
「だれ?」
「俺? テオドゥーロっていうんだ。お前は?」
「エ……」
名乗ろうとして一度咳き込んでから、黒髪の青年は「エリアス」と名乗った。
赤銅色の髪の青年——テオドゥーロは「エリアスな、よろしく」とわしゃわしゃ頭を撫でる。
「そんでエリアス、ごめんな、俺回復魔法使えないんだわ。胸苦しいのはどうにもできないかも。
足は凍傷だけじゃなくて切り傷もあったし、薬塗り直してやるな。指も冷たくなっちゃったのかな。手袋しとく?
それから頭はどんなふうに痛い? 刺す感じ? 鈍い感じ? 冷やすかあっためるか決めるから教えて」
テオドゥーロはひとつずつ黒髪の青年——エリアスの訴えに答えていく。
エリアスは返事の代わりに、頭を撫でるテオドゥーロの手のひらに自分のそれを重ねた。
瞬間、テオドゥーロの心臓が飛び上がる。思いがけず触れられた指先の感触に顔が熱くなった。
胸の高鳴りを隠そうとしてかえって「え、っあ」と間抜けな声が漏れる。
そんなテオドゥーロの心中など知るわけもないエリアスは、ぽろぽろ泣きながら呟いた。
「かくまってくれんの……?」
エリアスの脳裏には地獄のような日々が幾重にも幾重にも折りかさなって焼き付いていた。彼の顔を心配そうに覗きこんで頭を撫でてくれる人などいなかったのだ。
無我夢中で逃げ出した先で、エリアスは自分の夢の中にいるのかと思っていた。
テオドゥーロは平静を装いながら「いいよー」と軽く答えた。
「逃げてきたんだな。大変だっただろ、うちでゆっくりしてきなよ。俺暇だからお前のこと……名前なんだっけ」
「エリアス……」
「そう、エリアスね。俺エリアスのこと構い倒すし、看病もめっちゃ熱心にしちゃうからね」
テオドゥーロが屈託なく笑ってみせると、つられるようにエリアスがふにゃりと笑う。
うわ、かわいい。
思わず手を出しそうになる自分自身に「いやいや待て待て待て」と制止をかけながら、テオドゥーロはエリアスの頬を撫でた。
「ありがと……ありがとうな……」
朧げな目を細めて弱々しく泣き笑いするエリアスに背徳的な気持ちを覚えながら、テオドゥーロはエリアスの涙をぬぐった。