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無題  作者: 名なし
第1章
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第7話 『それぞれの思惑』

「こっちからは出すトコよく見えなかったからさー、いやー、なんか隠し技みたいな? すんごいの出たっ! って思ってたんだよねー。そうかそうかー、まさかのお尻かー。

 でもあたしら助けるためだからしょうがなかったんだよねー。もちろん感謝してるよ? してるけど............お尻ってことはアソコから魔法が出るんだよね? 

 ないわー、やっぱないわー。カッコ悪すぎんじゃん!」

 

 腕を組みながらほっそりとした顎に右手を添え、思案げに眉を寄せる構えをしつつ、盛大にお口を回転させていたサシャは、爆笑とともにフュフテのお尻魔法を勢い良く寸評する。

 組んだ腕を解き、ばしばしとフュフテの肩を叩いて笑う彼女の頭からは、現在逃走中につき要警戒だという要項は、綺麗さっぱりと忘れ去られているようだ。

 これぞまさにサシャ、といったところか。

 一方で、


「............ちょっと格好良かったのに......尻は、無理。......今回はいい......でも、次はダメ。汚い。............もっと自分を、大切にして」


 人形のように整った無表情の面差しがわずかに不機嫌な様相を表し、宝石を思わせるミシャの瞳は、絶対零度でフュフテを射抜いていた。

 傍から見れば恐ろしいのだが、よくよく目を凝らすとその瞳の奥には、フュフテをおもんばかる微かな温かみが隠されている......かにも見える。たぶん。


 それに、ぽつぽつと語られるミシャの呟きは、独り言に等しい音量だが、幼少から共に育った彼らの耳には、最後の一言まできっちりと聞こえている。

 ぶっきらぼうな口調と、何を考えているか分かりづらい容貌が、人から誤解を招きやすいのだ。


「うん......そうだね、ミシャの言う通りだ。見られると面倒なことになるしね......次から気をつけるよ」


 フュフテの相槌を聞いた少女達から、微苦笑と溜息と渋い顔がそれぞれ返される。


 三者三様の反応に胸を痛めつつ、フュフテは汗を拭いながら力なく笑い、重い吐息を吐く。

 どうやら身を挺して行動した結果は、彼の醜態の目溢しに一役買ったらしい。


 作戦を実施した結果、こういった目で見られることは当然のようにフュフテには分かっていた。

 だからこそフュフテは、いままで彼女達の前ですら魔法を使わなかったとも言える。


 まさかのニーナ以外に気付かれていないという望外の奇跡が起こっていたが、空気を読まない彼女に暴露される形で真実は晒された。

 そのことに「おのれ......余計なことを......!」と恨み言が出そうになるが、まぁ遅かれ早かれ知られるのは時間の問題だったことから、潔く諦めるしかない。

 

 むしろ、もっと酷い展開を予想してたのに。

 本当に、想定外な彼女たちの厚情にびっくりだ。


 心配しているのだ--幼馴染の彼を。

 危惧しているのだ--不当に貶められるやもしれぬ、その軽率な行動を。

 恐れているのだ--目に映らぬ悪意と、数の暴力を。


 フュフテとて、好き好んで同じ愚は犯さないだろう。

 はっきりと口にはしていないが、同じ森の民ならば当然、何が言いたいか分からぬ筈はない。

 きっと、自分達の意を汲んでくれるはずだ。

 そう--、ニーナ達は信じている。


 だがしかし、彼女たちはただひとつの重大な思い違いをしている。


 彼が、二度とお尻から魔法を放たないことなど、それこそあるはずがないのだから--。



 --しばしの談笑を経て、再びフュフテは索敵を開始する。


 実は洞窟を出てからずっと、喉もとに魚の骨が引っかかる感覚にも似た違和感が、フュフテの意識の片隅にこびりついていた。


(なにかおかしくないか......? なんで見張りが誰もいなかったんだろう......それに)

 

 こうして警戒を怠るわけにもいかない中、止めどなく流れる思考にこめかみをそっと抑え、フュフテは瞬きを数度おこなう。

 

(あの男たちは、なぜか武器以外何も持ってなかった。食料も持ってないってどういうことだ? もしかして......)


 何かを見落としている焦燥感がどうしても拭えず、意識が徐々に研ぎ澄まされ、警戒レベルが自然と一段階上昇していく。

 暖かい日差しに照らされているはずなのに、頬から顎先に冷たい汗が伝い滴り落ちた。


(ひとフロアの洞窟......杜撰な警戒......糧食の不携帯............そうか!)

 

「ニーナ!」


 閃いた思考を伝えるべく声を上げた刹那、急激に集まる濃密な魔力を感知する。

 

 硬質な金属が弾ける甲高い音が一瞬あたりに鳴り響き、一拍おいて四方から大気を切り裂く斬撃が、フュフテ達に襲いかかった。

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