第一章 抽選会 その7
「一等を当てたあなたが、景品を受け渡す最後のお
客様ですよ。当選された方は皆さま、オープン前か
ら来ていましたから」
なんか複雑な気持ちだな。何時間も並んで金だし
て券を貰って、尚且つ当てたのは、優さんであって
俺じゃないし。っていうか、券すらゲットしてない
もんなぁ。
んっ? アレンの足元に何やら気配を感じ、俺は
徐に下を見た。
「あっ⁉ まめパンや‼」
当然、実物は初めて見るが、そこにいたのは間違
いなく、まめパンである。
のだが、なんか違和感がある……ってこいつ、人
間のように二本足で立って、しかもトコトコと可愛
く歩いてるし。ムーミン谷かペンギン村の動物住人
みたいだ。
「ほんとだ、めっちゃ可愛い。もしかして、この子
が快のまめパンじゃないの」
茜はしゃがみまめパンの頭を撫でようと手を伸ば
す。だがまめパンは、ボクサー張りの軽快なフット
ワークで茜の手を躱し、隙あらば右ストレートを打
ち込みそうな勢いだ。
「あれ? 嫌われちゃったのかな」
いや、お前のデカすぎる胸に驚いたんやろ。それ
か動物は勘が鋭いからな、触れられたらアホがうつ
ると思ったに違いない。てかそこは、ガブっと噛ま
れるとこでしょ。
「それは私のまめパンなんですけど、スキンシップ
が苦手なんですよ。因みにオスで、もう立派な大人
です」
テレビで見たのより大きいし、ワイルドな感じと
飼い主に似た目力の強さは、確かにオスっぽい。
その時、部屋の奥にあるドアが開き女性スタッフ
が現れた。腕には子猫のように小さい、まめパンを
大事そうに抱いている。
「今日からこの子が、あなたのまめパンですよ」
アレンがそう言った時、スタッフが抱いているま
めパンが俺の方を見た。するとまめパンは急に暴れ
出し、スタッフの腕から抜け出て床に着地し、俺に
向かって駆け寄ると、猿のように俊敏に、足元から
胸元までよじ登ってきた。
俺は緊張して手を震わせながら、そっと小さなま
めパンを抱いた。なんか温かくてマシュマロみたい
に柔らかい。
「これは珍しい。どうやらその子は、誰が自分の主
人か既に分かっているようだ」
「いきなり突っ込んできたからビックリしたけど、
これって懐かれてるんですよね」
「そうみたいですね。でも、まめパンの子供は人見
知りする子が多いんですけど、こんなにすぐ懐くな
んて、初めて見たかもしれません。不思議なことも
あるものです」
第一印象は良かったみたいだ。これも運の良さが
関係しているのだろうか。
「こいつって、やっぱりオスなんですか?」
「その子はメスですよ」
「えっ、メスですか⁉ メスって一億ですよね‼」
「記念すべきグランドオープンの一等賞の景品です
から、最高の物を用意しました。どうぞご遠慮なく
貰ってください。そして末永く可愛がってあげてく
ださいね」
アレン最高‼ ほんまどんなけ儲かってんねん。
古いドラマで見た、バブル全盛期の悪徳不動産の社
長ぐらいに気前いいやん。
でもこういった祭り状態の中でする大盤振る舞い
の後には、後悔するのが世の常だが、まあ貰う方に
は関係ないから遠慮なく頂いておく。
「ありがとうございます。本当に大切にします」
「まだ子供ですけど、まめパンは成長も早く知能が
高いから、地球の人間社会に適応できるように躾を
してあります。だから飼いやすいはずですよ」
「じゃあ見た目よりも大人ということですね。しか
しこいつが一億……お前すげぇな」
俺は自分のペットになったまめパンを顔の前で抱
えて凝視した。すると「ふにゅ〜」と可愛い鳴き声
を上げた。
可愛すぎる‼ 一気にテンションMAX‼ だが
その声は動物のものというより、人間の幼児が発し
た感じに聞こえる。
「少し高いかもしれませんが、本当に貴重な動物で
すから。特にメスは数も少なく、狙って作ることも
できないので、高くなってしまうんです」
アルドゥランでの価値を地球の金額にすると、一
億という値は妥当らしい。本当に貴重な動物のよう
だ。でも地球のパンダは売り買いできなくて、レン
タルだけなのに、まめパンより高いらしい。まあこ
れからは人気ガタ落ちだろうけど。
「ねぇねぇ、私にも抱かせて」
茜の妄想おバカウイルスが感染する可能性がある
が、まめパンが貰えたのは、ほんの少しだけ茜のお
かげでもあるし、ちょっとだけ抱かせてやるか。
「わぁ〜、フワフワでぷにぷにしてる。それにこの
子、初対面の人が抱いてもまったく暴れないし、人
懐っこくてすっごい可愛い」
この時、俺は気になっていたある事を思い出す。
「まめパンがどういう生き物かは、テレビなんかで
説明を聞いて知ってますけど、アレンさんが会見の
時に言ってた、まめパンの奇跡的な秘密ってなんで
すか」
そう質問すると、アレンは口元に意味ありげな笑
みを浮かべた。
「それはまだ言えませんね。でも、その奇跡に立ち
会う事ができれば、必ず答えが分かるはずです。と
にかく、何かしら変な事が起きましたら、まずは私
を訪ねてください」
予想はしていたが、やはり答えは教えてくれない
か。まあ、その奇跡とやらを、自力で体験してやろ
うじゃないか。俺は運が良いのだけが唯一の取り柄
だからな。
「あと、その子はまだ子供ですから、盗難には気を
付けてください。出かける時は連れて歩いたほうが
いいですよ。メスは犬以上に飼い主に忠実なので、
逃げることはありませんから。まあオスなら人間に
捕まるどころか、逆に返り討ちにしてしまう方が心
配なんですけどね。こう見えてけっこう強いんです
よ。メスでももう少し大人になれば、捕まることは
ないと思うので、ある程度は放っておけますけど」
確かにアレンのまめパンの動きは、ポケモン並み
に俊敏だった。喧嘩したらフルボッコにされて負け
るなこりゃ。
「了解です。せっかく貰ったまめパンですから、本
当に気を付けます」
更にまめパンの他にも、小型犬や猫などを運ぶと
きに使う鞄もプレゼントしてもらった。