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第一章  抽選会 その4


 その後、お祭騒ぎのままで数日が過ぎた。


 結局まだ宇宙船には行ってない。入場規制どころ

か、交通規制があるので、あの場所にすら簡単には

行き着かない状況だ。なのでもう少し落ち着いてか

らと考えている。因みに今日は学校に行って、今は

下校中だ。


「あら快君、いま帰り?」


 親しげに声をかけてきたのは、近所に住んでいる

坂本・優子さんだ。


 俺も茜も仲が良く、優さんと呼んでいる。サラサ

ラの黒髪は腰まであり、背が高くて女優張りの超美

人で、大抵はミニスカートのスーツを着ていた。歳

は三十ぐらいのはずなんだけど、見た目は大学生の

お姉さんに見える。


 仕事は何をしているのか教えてくれなくて、謎の

多い人だ。だからかしらないが、近所で仲がいいの

は俺たちだけのようだ。でも優しい人で清潔感があ

り、俺的には学校の友達より気が合う一番の親友か

な。


「快君と茜ちゃんは、相変わらずいつも一緒で仲が

いいね」

「ただの腐れ縁ですよ、この金魚の糞は。ほんとこ

びり付いて離れやしない」

「まあいいんじゃないの、こんな可愛い糞なら」

「二人とも酷いよ、私が目の前にいるのに糞、糞っ

て」

「てかお前おったんかよ。気が付かんかったわ」

「べぇーだ」

「ごめんごめん。つい快君につられて」


 優さんは頬を膨らまし拗ねている茜の頭を優しく

撫でた。


 茜は少し照れくさそうにしているが、尻尾を振っ

て喜んでいるワンコのようにしか見えん。


「そんな天然ボケのゴールデンレトリバーほっとい

ていいのに」

「はははっ、上手いこと言うね、快君。確かに茜ち

ゃんの顔は犬っぽいもんね」

「もう、また二人でバカにしてぇ。天然とかじゃあ

りませんからね」

「はいはい分かったから、ワンコはそこの電柱にマ

ーキングでもしてなさい」

「なんでそんな話になってんのよ。もう知らない、

ふんっ」


「それより優さんは、仕事の帰りなん」

「ん〜と……仕事ってわけじゃないんだけど、今は

アルドゥランのペットショップに行ってきた帰りか

な」

「へぇ〜、もう行ってきたんや。誘ってくれたら一

緒に行ったのに。それでどうです、テレビで見るよ

り迫力あって、おもろかったですか」


「うん、凄く面白かったよ。茜ちゃんと二人で行っ

てみるといいよ」

「すぐ行きたいけど、並ぶのが面倒やなぁ。それで

噂の抽選券は貰ったんですか?」

「勿論。でも今日は行くのが遅かったから、並ばな

かったけどね」

「えっ⁉ じゃあ券はどうやってゲットしたんです

か?」

「実は初日にも行ったのよ。まあ快君みたいに運が

良いわけじゃないから、どうせ当たらないだろうけ

ど」

「マジっすか。初日に行くなんて凄いですね」

「まあね。並ぶのなんてドラクエⅣ買う時いらいだ

ったわよ」


 ドラクエⅣって、俺が生まれる前ちゃうの。やっ

ぱ優さん三十路、いや四十超えてる歳やな。そうは

見えないけど。


 そして優さんは財布から抽選券を出して見せてく

れた。一見は宝くじのような券だ。真ん中には大き

く抽選番号が印されている。


 優さんの話では、それぞれの賞が一発抽選で、代

表者のアレンが抽選会の時に引くとのことだ。


「そうだ、こんな話よりも、二人に教えておきたい

事があるんだった。最近この辺りに、変質者が出る

らしいよ。しかも裸の女を連れてたって話だし、茜

ちゃん、襲われないように気を付けなよ」


 優さんは真面目な顔で言ったが、なんかトンでも

なく凄い状況の話だな。もしかしてこんな田舎で堂

々とAVの撮影でもしてたのかな。


「そんな危ない人が近くに居るんだ。帰り道に出た

らどうしよう。なんか怖いよ」


 茜は俺の方をチラ見して、変な妄想全開で何か言

ってほしそうな顔をしている。恐らく「俺が傍にい

て守ってやるから」とか、そんな感じの言葉を期待

してるんやろな。ほんまアホですわ。思ってても絶

対に言わんぞ、こっぱずかしい。


「でも裸の女を外で連れてるなんて、気合いの入っ

た奴ですね。まあ女の方もだけど、変態ドM極めて

ますやん。ぜひ今後のために、どんなイベントクリ

アしたら、その状況になるのか知りたいっすね」


「その変質者って、快なんじゃないの。超の付く変

態だし」


「アホかっ‼ 変態と変質者を一緒にするな。変態

はただただエロいだけで犯罪者じゃねぇし。まあそ

こまでできるのは、ある意味では羨ましいけども」


「優さーん、ここに変質者予備軍がいますけど、な

んとかしてくださーい」


「誰が予備軍やねん、補欠にすんな。ドラフト一位

で変質者のレギュラーなったろか。って誰が変質者

になるか‼ てかなったら初めにイタズラされるの

お前だけどな」


「はははっ、快君なら、レギュラーどころか新人王

とれるよ」

「優さんにそう言われると、なんか超絶やる気でて

きた」

「ちょっとそこの変態さん、やる気ださないでよ。

冗談に聞こえないから」


「まあ快君が変態で止まってられるように、茜ちゃ

んが傍で見張ってるしかないね」


「もう今でもストーカーやのに、これ以上は勘弁し

てくださいよ」

「私ストーカーじゃないもん」

「やってる奴に限って違うって言い張るねんなぁ。

あぁこわ」


 こいつ本気で気付いてないのがタチ悪いで。ほん

ま茜が可愛い女の子で良かったわ。これも生まれ持

った運の良さのおかげだな。


「それじゃあ私はこのへんで。まあ宇宙船には、機

会があったら一緒に行こうね」

「ういっす。二人だけで行きましょう」


 ここで優さんと別れた。ほんと美人で爽やかな人

なんだが、普段は何をしているのやら。スーツを着

てることが多いけど、会社員って感じじゃないし、

働いてないのかも。株で儲けるデイトレーダーとか

可能性あるな。

 

「さてと、俺も明日、抽選券をゲットしにいくか」


「えっ⁉ ……快、諦めてなかったの?」

「当り前やろ。なんで諦めなあかんねん」

「だって、もう券は手に入らないよ」


 なんですと? 言ってる意味が分からんぞ。


「オープン記念の抽選券が貰えるのは、初日からの

三日間だけだよ」


「……ってことは、初日が終わって、更に三日すぎ

たから……」


 ぬおおおおっ‼ マジでありえねぇ‼ 同じ巻の

コミックを別の日にまた買うぐらい初歩的ミスや

んけ‼ いや、二冊ダブりはよくある。この場合は

三冊やな。って言ってる場合か俺のアホ‼


「お前なぁ、なんで言わへんねん‼」

「だって、知ってると思ってたし、並ぶの面倒臭い

って何度も言ってたから」


 あ〜あ、ロープレでやっと長いダンジョン抜けた

と思ったら、勢いあまって死にかけ状態でボス戦や

って、一撃で全滅するぐらい、俺の野望は早くもつ

いえた。しかもセーブしてないし、って感じやん。

今世紀最大の祭りに参加すらできんとは、泣くしか

ねぇよ。


「ごめんね、快。代わりに良い物あげるから、機嫌

直してよ。本当は二枚あったんだけど、何故か一枚

ないんだよね」


 茜はそう言いながら鞄の中をまさぐり、お札ぐら

いの大きさの券を出す。


「ジャジャ〜ン。これだよ」


 恥ずかしげもなく、ちっぽけな効果音を口で表現

した茜は、本当にいい物という感じのドヤ顔をして

いる。もしかして、超お金持ち特有の権力で手に入

れた抽選券か⁉


「なっ、なにそれ茜モン」

「変な呼び方しないでよ。これは駅前に新しくでき

た家電量販店の福引券だよ」

「てめぇ‼ ケンカ売ってんのかボケかましてんの

かどっちやねん‼ っていうかどっちにしても舐め

てんのか‼ めっちゃ期待したやんけ、俺のドキド

キ返せコノヤロー」


 ほんまこの空気読めないムチプリ娘、マジで天然

やな。なんちゅうタイミングでしょうもない物だし

やがる。いい加減、手に負えないぜ。


 宝箱と思ったら、ミミック出てきてザラキで全滅

ってぐらい切なかったやんけ。


 まあとりあえず貰っとくけども、この間、思い出

したばかりのガキの頃のしょっぱい思い出、三倍過

激に再現したろか‼ 今の俺ならマジでできるぞ。


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