終章 その6
「カイ、どうやらまた、飛べるみたいだぞ」
ロキはファムとニケを見て言った。
二人を確認すると、体が光って点滅している。
「えっ、移動なん。ファムとニケ用に茜の下着物色
しようと思ったのに」
そしてロキが俺の肩を掴んだ瞬間、また光に包ま
れタイムスリップした。この時、茜の部屋から券を
一枚持ってきていた。
「おわっ⁉ いきなり外やんけ、マジやっべぇ。お
前ら早く能力発動させろ」
今度は真っ昼間の町中に移動してしまった。普通
に両サイドに家がある道路の真ん中だ。
でもこの光景は見覚えがあるぞ。って、けっこう
我が家の近所なんじゃないの。
しかしどうすんだこの変質者まるだしの状況。誰
か助けてくれぇぇぇぇ。
だが不幸中の幸い、周りには誰もいない。と思っ
たけど、なんか右の方から視線を感じる。
恐る恐る確認すると、一戸建ての庭先に、五歳ぐ
らいの女の子がおり、フリーズ状態で口を大きく開
けて、不思議そうにこっちを見ている。
そりゃ突然、目の前にこんな変な連中が現れたら
誰でも固まるわな。
って、これ絶対ヤバいだろ。完璧に見られてしま
った。なんとかせねば、と考えてたら、女の子が我
に返り、大きく叫んだ。
「ママー‼ ママー‼ 裸の人がいるよー‼」
その子は玄関へと走っていき、勢いよく家の中へ
と入った。
アウト‼ 俺の人生終わった。って事に、このま
まじゃなってしまう。とにかくこの場から逃げるし
かない。ちょうど目の前の角を右に曲がれば、女の
子の家からは死角になる。
だが曲がる前にそっと顔だけ出して、誰もいない
か確かめた。
「ついてねぇ。一人こっちくるやん」
あれ? あの黒いスーツ姿は、優さんじゃありま
せん。こりゃ助かった。ってわけでもない。いくら
優さんとはいえ、今は会えん。もしかしたら過去か
未来の優さんかもしれないし、いきなりこのカオス
な状況は見せられない。
「こら、こんな時にじゃれるな」
ファムが勢いよくジャンプして、俺の背中に抱き
ついた。
「お、おい、てか首が、絞まってる」
ファムが抱きついて暴れたせいで、手に持ってい
た福引券を放してしまった。
券はヒラヒラと風に乗り、偶然、優さんが歩いて
くる道の方へと飛んでいった。
「カイ、また二人が光り出したぞ」
ロキの言葉でファムとニケを確認すると、確かに
また点滅している。
こりゃ俺の特殊能力発動したな。ラッキーなタイ
ミングだ。マジで運が良い、助かったぜ。
そして透かさずロキの手を掴んだ。するとこれま
た簡単にタイムスリップした。
「キ、キターーーー‼ 我が家に戻ってきたぞ‼」
この存在感のないごく普通の部屋は、間違いなく
月杉家だ。しかも最初にタイムスリップした時と同
じ位置に戻ってきている。
とにかく偶然か必然か知らんが助かったようだ。
いや、まだ安心するのは早い。まずは時間軸を確か
めねば。
リビングの時計では17時20分で、タイムスリ
ップした時ぐらいの時間だ。それにテレビに映って
るのも、さっきロキが見ていた番組だし、マジで元
の居るべき時間軸に戻ってこれたみたいだ。
「あぁ良かった。タイムスリップなんて非常識なこ
と、ヘタしたら歴史が変わったり、ビッグバンが起
きたりする可能性あるもんな。俺のせいで世界が滅
びたなんてことになったらシャレにならん」
「まあ今回は、戻ってこれて運が良かったな」
ロキは楽しそうな顔で言った。
「そう、それよそれ。いつも変なことには巻き込ま
れるけど、最終的には問題ない。俺の運の良さはや
っぱ普通じゃないよな。タイムスリップも面白い経
験したと思えばいいだけだし」
だが能天気にはしてられない。これからは飼い主
として、ファムとニケの行動には色々と気を付けよ
う。こいつらは暴走したらマジでヤバい生き物だ。
「あっ、ロキに貰った本がない。そういえば茜の部
屋にいた時もなかったし、皐月のところで落として
きたんや」
まあいいか。今更この状況にマニュアルなんて必
要ない気がするし。
……あれ? もしかして、皐月がニケと現れた時
に銜えていた本って、過去で俺が落とした本なんじ
ゃないの?
俺が落とした本だから、皐月は届けに来てくれた
のかも。それなら、そのおかげでニケと出会えたこ
とになる。
てかさっきの過去で、ロキが勝手に本を持ちだし
たから、ファムを受け取る時に本が一冊足りなかっ
たんじゃないの。
それに茜の部屋から持ち出して、さっき落とした
福引券も、あれから優さんが拾って、結局は電池と
交換で俺の手に戻ってくるんじゃなかろうか。
それでテレビを当てて、テレビがファムになる。
更に最近噂になっている、裸の女を連れた変質者っ
てのも、俺のことかも。
なんか過去でのどうでもいいような出来事が、色
々と今の奇怪な状況に繋がっているように思えるん
だが……気のせいかな? 流石に考えすぎか……。
という感じの夢のようなことがあった。でも、こ
れはまだ序の口である。
もう面倒だから他のことは語らないが、この後も
連続して、これまで以上に現実離れした、摩訶不思
議な経験をいっぱいした。
さっきファムとニケが、俺を主人に選んだ理由が
分からない、と言ったが、もしかしたら過去での出
会いがフラグになっていたのかもしれない。
タイムスリップして俺たちが出会うことは、因果
とか運命とかで決まっていた、と言われても、今な
ら素直に受け入れられそうだ。
その後は受験も終わり、俺も茜もちゃんと合格し
た。
卒業式には、ファムを連れて行かなかった。許可
は貰っていたが、ファムだけ連れて行けばニケが拗
ねるし、二匹とも連れて行くわけにはいかないし、
挙げ句の果てにロキの奴は「俺も行くぞ」とか訳の
分からないこと言うし、ファムはいつ人間に変身す
るかもしれないし、だから一人で行った。そのせい
で、皆からかなりブーイングされた。
まあ友達や同学年のほとんどが、既に家までファ
ムを見に来たけどな。
因みに見学者が来た時は、ややこしくなるから、
ファム以外は二階に隠しておいた。
特にまめパン姿のニケは、人見知りだし、尚且つ
少し狂暴だから、気に入らない奴は容赦なくフルボ
ッコにしそうで怖いし、絶対に会わせられない。
とにかく、こんな感じで俺の中学生最後の思い出
は、なんとも不思議で人生最高の出会いをした、楽
しいもので終わった。
そして今日、俺たちは花見に来ていた。場所は茜
の家だ。
大河内家の庭には数十本の桜が植えてあり、春に
は満開の桜が楽しめる。しかも誰も来ないから独り
占めである。
花見の準備は毎年、茜の家のお手伝いさん達がや
ってくれている。一番大きな桜の側にゴザが敷かれ
その上に置かれた大きめのテーブルには、豪華な料
理がいっぱい用意されていた。
ロキは美しくも儚く散る桜を愛でながら、日本酒
を楽しんでいる。まめパン姿ではあるが、なんとも
絵になっていた。その隣で茜は、酒を飲むロキを心
配そうにも不思議そうにも見ている。
ファムとニケには満開の桜など関係なかった。こ
いつらは花より団子である。用意された料理を貪る
ように平らげていく。この二匹に皐月も続いた。
ほんと美味しそうにいっぱい食う奴らだ。お手伝
いさん達は頑張って、本来は食べきれないほど料理
を用意してくれた。だがこのペースじゃもう完食す
るのは時間の問題だな。
この時、俺は家族になった四匹の動物を見て、し
みじみ思った。
なんとも奇妙な生活が始まったもんだと。
※※※ 第一部 完結 ※※※
物語の序章である第一部は完結です。
第二部はプロットが出来上がればスタートするかも
です。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうござい
ます。




