終章 その5
「よし、とりあえず、ファムとニケのところに戻ろ
うぜ」
入口まで戻ると、二人はまだ人間の姿のままで寝
ていた。まったく、ご主人様の気苦労もしらずに、
可愛い顔して眠りやがって。まあここまで可愛いと
それだけで神だし、何をやっても無条件で許される
ってもんか。
「そういえば、こんな本があったが、必要か?」
船内の様子を見にいったロキは、本を一冊持ち帰
っており、徐に差し出した。
「これって、まめパンの飼い方の本やん」
皐月がニケを連れて現れた時に、恐らくこれと同
じ本を持ってきたが、あれはボロボロだったから捨
てたし、これは有り難く貰っておくか。
「おいお前ら、そろそろ起きろ」
二人の頬をツンツンと突きながら言ったらその瞬
間、同時にパチっと目を見開き、獲物に襲い掛かる
猛獣のように、また勢いよく抱きついてきた。
俺はそのまま倒れ込んだが、タイムスリップした
時と同じように思わずロキの足首辺りを掴んだ。
すると三人の体から閃光が迸り、俺たちは強烈に
目映い光に包み込まれた。だがその光は数秒ほどで
消える。
「……どうやらまた瞬間移動したようだな。って、
どこやねんここ」
目を開けるとそこは、建物外だった。空は青く晴
れ渡り、時間的には朝か昼ぐらいで、移動先は、ど
こかの家の庭のようだ。一応は日本みたいだが、見
覚えのない場所だ。
しかし、神レベルの物凄い特殊能力を、こんなわ
けワカメな方法で、簡単に発動しちゃっていいのか
よ。深く考えると恐怖すら感じるこの事を、どう受
け止めていいのやら。ていうか、短時間で色々あり
すぎ‼
その時、後方から犬が吠えたので、反射的に振り
返った。
「あっ⁉ お前、皐月やんけ」
そこに居たのは間違いなく皐月である。俺を見て
嬉しそうに、尻尾を扇風機の羽のようにグルグルと
振っている。
「ここって皐月が預けられていた家か。んっ、って
ことは、元の時間に戻ってないやん。なあロキ、俺
ら戻れるんか、元の時間と場所に」
「どうだろうな。ただ、能力が発動する方法は理解
した。後は戻れるまで繰り返すしかない」
「この能力って、自在に発動できんの?」
「今この時だけの限定能力かもしれないが、恐らく
はできる」
「お前、やっぱ凄いな。頼りになるぜ」
ロキの説明では、ファムとニケと俺の体がくっつ
いている時に、俺がロキに触れて四人の体が間接的
にでも繋がれば、能力が発動するらしい。
前提条件として、ファムとニケが泥酔しているの
が重要みたいだ。行き先は何かしら関係ある場所に
移動している。
なんか超簡単なんですけど、いったいどんな法則
やねん。能力の凄さに対して適当すぎる。でも今は
深く考えず、とにかく帰れるまでやってみるしかな
い。
俺は今も抱きついているファムとニケを引き離そ
うとしたが、なかなか離れないからそのまま皐月に
近付いた。
皐月にとっては俺と会うのは久しぶりだから、凄
く喜んでいて、ペロペロと顔を舐めてきた。
「皐月、そのうちここに、まめパンっていう小さい
のが逃げてきたら、そいつと一緒に俺のところにこ
いよ。待ってるからな」
皐月と目を合わせ、頭を撫でながら言った。皐月
は俺の言ったことを理解してないだろうけど、ひと
吠えして返事をした。それから逃げやすいように首
輪を少し緩めてやる。これでいつでも自由に抜け出
せる。
「カイ、今ならいけるぞ」
ロキはそう言って手を差し出す。この時また、フ
ァムとニケの体は蛍のようにピカピカと点滅してい
た。
「じゃあな、皐月」
ロキの手を握った瞬間、三人は全身から閃光を発
し、俺たちは光に包み込まれる。
数秒後、周囲を覆った光が弾けて消えると、また
違う場所へと移動していた。
「無駄にだだっぴろい、この見覚えのある和式の部
屋は、茜んとこだな。とりあえず、誰もいなくて助
かった」
そこは大河内家の茜の部屋だった。流石に大金持
ちだけあり、ただの部屋が普通に二十畳ほどある。
そして漆塗りのデカいタンスが五つもあるが、一棹
が一千万以上するらしい。ほんと古美術とか骨董は
恐ろしいな。一般人の俺には理解できん額だ。
更に「どこのお姫様やねん」と誰が見てもツッコ
ミを入れるだろう、畳の和部屋に似合わない、キン
グサイズの天蓋付きベッドがある。
とにかくまた我が家へは帰れなかったが、かなり
近付いてはいる。ここからなら歩いて帰れるが、問
題は、過去現在未来のどこにいるかだ。
この時、勉強机の上に見たことあるものを発見し
た。でもファムとニケが抱きついていて、手の届く
ところまで行けない。
「こら、離れろ。テイっ、テイっ」
引きずって移動するのは面倒だから、二人の頭に
チョップを喰らわせ、力が抜けた瞬間に逃げ出すこ
とに成功した。
机の上には、お札ぐらいの大きさの券が二枚置い
てある。一枚を手に取って確かめると、思った通り
6等の電池を当てた時に使った、家電量販店の福引
券だった。
「この券が茜のところにあるということは、まだ過
去にいるみたいやな」
そう独り言を発した瞬間、またファムとニケが襲
い掛かるように抱きついてくる。
「ちょっとこら、いい加減にしろ。お前ら裸なんだ
ぞ。そんな気持ちいいもんくっつけられたら我慢す
るの大変だろ」
と言っても、泥酔しているファムとニケは理解せ
ず、ムチプリの体、というか巨乳のおっぱいをムニ
ムニと押し付けてくる。
「何故、我慢するんだ?」
ロキが真顔で言った。
「えっ……だってそりゃ……俺は人間で、お前たち
はペットだし……エッチな事なんてしたらダメでし
ょ、普通は」
「アルドゥランでは、人型に変身した我らと主人が
性行為をするのは普通の事だぞ」
「えっ、そうなん⁉ なんか色々すげぇな、アルド
ゥラン人」
「ファムとニケのために教えておくが、我らの幸せ
は、主人が喜ぶことだ。特に性処理に自分の体が使
われるのは、嬉しく思う。我々がどんな命令にも服
従するのは、それが嬉しいからだ。だから遠慮なく
命令すればいい。ファムとニケは既に、この世界の
ことは学習済みだ。経験がなくとも性交はできる」
「え〜っと、その……いきなりそんな凄いこと言わ
れてもなぁ」
「ちゃんと相手をしてやらないと、必要とされてな
いと勘違いして、性格がおかしくなる場合もある」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
「本当の話だ。ただお前の場合は、二匹を同じよう
に相手してやらなくてはならないため、体力的に大
変だろう。メスは性欲が強いからな」
「ど、どうすりゃいいんだ俺は‼ ってなんでこん
な話になってんだ‼」
「深く考えるな。人間は毎日発情状態で、性行為が
特別好きなんだろ。だったらただ、楽しめばいいん
じゃないのか。人間と我らの間には、子供ができた
という奇跡の事例はないし、何も問題はないぞ」
「いや、そういう事じゃなくて、気持ちの問題とい
うか……道徳というか……」
「まあ好きにすればいいさ」
「あの、因みにロキさんは、ご主人とエッチな事と
かしてたのかな……」
「だから言っているだろ、主人の性処理をするのが
普通だと。俺にとってもそれは、至福の時だった」
「ロキのご主人って、確か傭兵とか言ってたよな。
もしかして、お、男だったりして……」
「あぁ、主人の性別は男だったぞ」
どっひゃー、マジか‼ 向こうにもBLってある
んだな。てか驚く事でもないか。今や色んな性別が
あって、けっこう普通の事だもんな。
「その、変なこと聞くけど、いくら主人とはいえ、
ロキは男とすることに抵抗はなかったの?」
「……俺の場合は少し特殊な体だからな、俺も主人
も抵抗はなかったと思うが」
「特殊って、まだ秘密があるのかよ」
「秘密という程ではないが、俺は生まれつき、オス
とメス両方の生殖器を持っている。いわゆる両性具
有と呼ばれる体だ」
「りょ、両性具有……」
マ、マジかーーーー⁉ ロキさん凄すぎーー‼
やっぱまめパン半端ねぇ。
これはガチのフタナリってやつなのかな。凄く興
味がある。見てみたい……。
「そんな体のせいか、俺は女の姿にも変身できる」
「女に変身⁉」
「主人と性行為をする時は、いつも女の姿でしてい
た。だが男女どちらに変身しても、生殖器は両方あ
る状態だがな」
「あの……女の姿のロキさんが、見てみたいんだけ
ど、いま変身ってできるのかな?」
「いつでもできるが、面倒だから断る。まあそのう
ち見せてやる」
くっそー、意地悪しやがって。でもロキは色んな
意味で特別の中の特別だ。
てか、いま茜の部屋に居るの忘れてた。悠長に話
してる場合じゃない。




