終章 その4
その時、少し奥の方で何匹かのまめパン達が騒ぎ
だした。そして大きめのまめパンが、ファムと同じ
ぐらいの小さいまめパンに、闘牛なみに荒々しく体
当たりして吹き飛ばした。
どうやら喧嘩でもしてるみたいだ。でもシュート
されたサッカーボールみたいに飛んだけど、大丈夫
なんか?
飛ばされたまめパンはどうにか起き上がったが、
その瞬間、さっきとは違う他のまめパンにまた体当
たりされ、今度は俺の方へと飛ばされてきて、倒れ
たままぐったりしている。
更に喧嘩は続くみたいで、倒れている奴に、攻撃
した奴らが近付いてくる。
「なんだこれ、イジメか?」
喧嘩に割り込むつもりはなかったが、俺は咄嗟に
倒れているまめパンを抱き上げた。
随分とハードだが、まめパンの喧嘩はこれが普通
なのか? と思っているうちに、眼前まで五匹のま
めパンが迫っていた。
なにこいつら、超怖いんですけどぉ‼ 全員背景
に『ゴゴゴゴゴゴ』って効果音を纏っているように
見えるほど、威圧感がある。
胸に抱いているまめパンは、弱々しく鳴き声を上
げ、潤んだ瞳で不安そうに俺の顔を見上げている。
「心配すんな、なんとかなるから。俺は運が良いか
らな」
とは言ったものの、さてどうするか。既に目の前
にいるまめパン達は、今にも突撃してきそうに身構
えている。
そして襲われると思った瞬間、新たに小さいまめ
パンが疾風の如く現れ、イジメっこ側の先頭にいた
奴の顔面にパンチを入れた。
このヒーローカットインはなに? と呆然と立ち
尽くしていたら、パンチを食らった奴がすぐに立ち
上がり、反撃に転じる。それと同時に、イジメっこ
側の残り四匹も襲い掛かり、五対一のバトルが始ま
った。
俺は見ているだけしかできないが、なんだこのポ
ケモンバトルは。やはりまめパンの身体能力は凄す
ぎる。
でも五対一は無茶すぎる。三十秒とせぬうちに、
小さい奴はボコボコにされた。
このまま知らんぷりはできんし、俺は助けに入っ
てくれた奴のところに透かさず行って、胸元に抱き
上げた。
気が付くとまた、イジメっこまめパン五匹が詰め
寄ってきていて、物凄く怖い顔で睨んでいる。もう
パンダじゃなくて熊ですやん、君たち。
「そ、そのへんでやめろ。お前ら体も大きいし、お
兄ちゃんお姉ちゃんやろ。弱い者いじめなんてカッ
コ悪いまねすんな」
追い詰められた挙げ句に出たのが、どこの熱血主
人公やねん、というこのしょっぱいセリフ。
少し強めに言ったけど、こんなんでイジメっこが
引き下がるとは思えない。はずだが、何故かまめパ
ン達は恐る恐る後ずさっていて、なんか白けた感じ
で五匹はすんなりと森の奥へと消えた。
あっぶねぇ、あぁ怖。勢いで偉そうなこと言っち
まったが、こいつらメチャクチャ強いんだよな。危
うくシバかれるところやった。
「もう大丈夫やからな……あれ? この二匹、なん
かファムとニケに似てるな。っていっても、どれも
同じような顔やけど」
腕に抱いている二匹の顔を交互に見ていると、二
匹も俺の顔をじっと凝視している。
「似ているんじゃなく、それはファムとニケだ」
真後ろから突然放たれたその声は、ロキのものだ
った。
「びっくりしたぁ。いつから後ろにいてん」
「少し前からだ」
「……なるほど、そういうことか。さっきのイジメ
っこ達は、ロキを見て逃げたんやな。ってこいつら
ファムとニケなん⁉ いつの間にまめパンに戻って
ん」
「いや、そうじゃない。俺たちと一緒にここに来た
ファムとニケは、まだ人型のままで扉の所にいる」
「なんだそれ、どゆこと?」
「移動したのは、場所と時間の両方だったというこ
とだ」
「時間?」
「いま俺たちは、少しばかり過去の世界にいる。つ
まりタイムスリップしたんだ」
「なんですとぉ⁉ 過去、タイムスリップ、マジあ
りえねぇし‼ お前は何を言いだすねん」
「信じるか信じないかはお前の勝手だが、ここは間
違いなく、過去の世界だ」
ロキは相変わらずクールにトンでもないことを言
ってくれちゃってるが、すぐには信じられん。ただ
本当なら、まめパンの特殊能力は、どこまでいっち
ゃうんだ。もう神のレベルだろ。
「あの……それが本当だとして、俺たちこれからど
うなんの? タイムパラドックスとかってやつも気
になるんだが」
「さあな。まあなるようにしかならないさ。あまり
気にするな」
「いやいやいやいや、気にするやろ普通‼」
ヤベぇ、頭痛くなってきた。大丈夫か俺、それに
この世界。
その時、ニケと思われる方が暴れだして、俺の腕
から抜けだし、ふらつきながら森の奥へと入ってい
く。
「おい、ちょっと待てよ」
「放っておけ。あいつはこの時間に生きるものだ。
俺たちが関わる必要はない」
「まあ……それはそうなんだけど……」
結局、俺はどうしていいか分からず、ただ見送っ
てしまったが、ロキが言うように、今はそれでいい
んだよな。
「ファム、じゃなかった、今は名無しか、お前とも
お別れやな。向こうで寝てるもう一人の自分と会わ
すわけにはいかんしな。でもすぐに迎えに来るから
いい子にしてろよ」
俺はファムとなるまめパンをそっと地面に下ろし
別れを言った。だがまめパンは離れようとせず、悲
しそうにずっと俺の顔を見上げている。
「そんな顔するなよ。こちょこちょこちょこちょ」
あまりにも切ない顔をしてるから、まめパンの脇
腹を思い切り擽ってやった。すると「うにゃにゃに
ゃにゃにゃあ〜」と聞いたことのある奇妙な笑い声
を発した。やっぱこいつファムだな。
「ほら、もう行け。また会えるから」
まめパンを持ち上げて無理矢理向きを変え、お尻
を押してやる。すると名残惜しそうにトボトボと歩
き出した。でも何度も立ち止まっては振り返った。
なにこれ泣きそう。めっちゃ切ないやん。しかし
センチメンタルになってる場合じゃない。




