第四章 事実は小説よりも奇なり その19
「ニケ、お前は自分の意思で、自在に変身できるん
か?」
「完璧ではありませんが、できると思います」
「わぁ〜い、ニケっちすご〜い」
ファムは自分のことのように喜んで、ニケに無邪
気に抱きついた。大人の時とは全然態度が違い、普
通の仲良し双子に見える。でもニケは、抱きついて
頬までくっつけてくるファムに、少し引き気味であ
る。
てかなんで二段階で変身したら性格が変わるんだ
ろ。まだ子供で精神的に不安定だからか? もしか
したら、多重人格なんてこともあるかもしれない。
もう何でもありだから、それはない、とか言って否
定できないよな。
「ニケ、ほんとに変身できるか、ちょっと元に戻っ
てみろよ」
「はい、やってみます」
ニケは目を閉じ精神集中する。その瞬間、全身が
光に覆われ、あっという間に元のまめパンへと戻っ
て、着ていたコートが地面に落ちた。
「おおっ⁉ できたできた、凄いやん。なんか魔女
っ娘みたいやな。よし、じゃあまた人型に変身だ」
ニケはコクっと頷いて答えると、また全身から光
を解き放ち、人間の姿へと変身した。
「んっ⁉ なんか……違う……」
失敗か? 確かに人型ではあるが、大きさが違い
すぎる。ニケはいま、六、七歳ぐらいの姿に変身し
ている。
なんだこれ、面白い。それにさっきまで無かった
アホ毛が、幼女ニケにはビヨヨーンと生えている。
でも、これはこれでなんとも可愛い。俺はロリコン
ではないが、ちょっとときめく。
「お前、めちゃくちゃ可愛いやん」
そう言ってニケの頭を撫でてやると、ニケは頬を
赤らめモジモジとはにかんだ。それがまた天使みた
いにキュートである。更にアホ毛がヒクヒクと動い
ているのも可愛い。もしかして、オッパイ好きのこ
の俺に、まさかのロリ属性があるのか? 自分で自
分のことが心配になってきたぜ。
その時、またニケは集中して光を放ち、中高生ぐ
らいの姿へと変身した。今度は完璧だ。しかしこれ
もある意味、二段階変身といえるな。
だが、ニケはある程度コントロールできるのに、
なんでファムはできないんだろ。同じ遺伝子なのに
何が原因で差が出たのか、少し気になる。
それから程なくして、やっと家に辿り着いた。
本当に疲れた。俺のこれまでの薄っぺらい人生の
中で、今日ほど精神的に疲れたことはないはずだ。
まったく我ながら訳の分からん、また意義ある濃密
な時間を過ごしたもんだ。
まあ間違いなく、今日は世界中で一番、デンジャ
ラスでクレージーでハードな体験をしたはずだ。
しかしまだ、奇怪千万な今日という日は終了して
いなかった。完全に油断していた。
「んっ⁉ え……まさか……ウソやろ……」
ちゃんと玄関から家に入り、リビングに行くと、
上下ともに漆黒の服を着た長身の男が、自分の家の
ようにリラックスした状態でソファーに寝転がって
いた。
ってロキかよ‼ なんで我が家におるねん。まあ
どこに行ったのか気になってたけど。
「よう、遅かったな。今日からやっかいになるぞ」
ロキはトンでもないことをサラっと言った。
んなバカな。俺は膝の力が抜けてガクっと見事に
ズッコケた。それを見ていたファムとニケも、何故
か真似をしてズッコケた。
なんだこの新喜劇は。ほんと最後の最後まで疲れ
るわ。
どこかの国の詩人の言葉で「事実は小説よりも奇
なり」というのがあったと思うが、まさにその通り
だと、俺はいま強く思った。




