第一章 抽選会 その3
次の日、朝十時のオープン前から宇宙船の周りは
人で溢れかえっていた。
発表されてからすぐに並びだした者も多く、この
日のために急遽来日した外国人の姿もある。いった
い何人いるのやら。ヘリコプターによる上空からの
映像では、人の列が巨大な蛇のように見えた。しか
し並んででも行く価値はある。
まずは世界各国のテレビ局が優先的に入場でき、
生中継されるらしい。ということで、今日は学校を
サボり、家でゆっくりテレビ観戦である。
既にテレビ中継は始まっており、周辺の様子を映
したり、並んでいる人にインタビューしたりで、現
場はお祭騒ぎで出店もずらりと並んでいた。
その時、オープンを告げる花火が晴天の空へと打
ち上げられた。
何百人かがぞろぞろと、急造されたにしては立派
な橋のような道を歩き、巨大な店舗と化した宇宙船
の中へと飲み込まれていく。
だが、いくら巨大とはいえ全ての客を一度に持て
成すことは不可能だろう。案の定、入場制限され、
何時間も待たなくてはならない状況になっている。
店舗内からのテレビ中継の方だが、各局まったく
同じ映像が流れている。記者会見の時に現れたアル
ドゥラン人、アレンが取材を受けていた。
少しすると後ろからやってきたスタッフが、何か
をアレンに渡した。
なんだぁ? 一見、30センチ程のぬいぐるみの
ようだが、その見たことのある白黒の物体を、アレ
ンは胸元に抱えた。
「地球の皆様、これが売り出される、まめパンとい
うペットです」
全てのカメラがまめパンをアップで映し出し、世
界中に放送された。
おいおい、ちょっと待てよ。宇宙人のペットとい
うから、無茶かもしれんがケロロみたいなの期待し
てたのに、普通にパンダの子供やん。
でも考えようによっては、パンダをマイペットに
できるのは凄い事だな。てか独占してる中国、今頃
ブチキレてるか泣いてんじゃね。
そしてここから、アレンによるまめパンの詳しい
説明が続いた。
話によるとまめパンは、大人になっても30〜5
0センチという小ささらしい。驚くべきことは、性
格や動きが人間的で、知能も人間の6歳児以上はあ
る。ちゃんと教えれば、善悪の違いや言葉も理解し
て、ほとんど人間の子供と変わらない。
寿命は、個人差はあるが二百年以上も生きる長寿
だ。そして犬のように従順で、飼い主にはよく尽く
す。でもオスは気性が激しく、懐くまでに時間がか
かる。だが、いったん心を許せば、男気のある性格
で、仁義を重んじるという、なんとも頼れる奴との
こと。メスは穏やかな気性で、とにかく甘えん坊の
寂しがり屋みたいだ。
因みにオスは運動能力が高く、猿のように俊敏で
行動範囲も広い。更に縄張り意識が強く、活発に自
分のテリトリー内を動き回る。
オスと異なりメスは、普段はゆっくりとした動作
で、行動範囲は飼い主の傍、という狭さだ。しかし
危機を感じた時には、本来の力を遺憾なく発揮させ
る。
このまめパンの販売許可がおりた理由は、他の宇
宙ペットと違い、繁殖能力がないため、地球の生態
系が崩壊する心配がないからだ。
生殖機能はあるが、オスとメスが一緒に居ても自
ら種を増やすことはせず、繁殖期もない。
なぜ繁殖しないかという理由は解明されてないら
しい。しかもまめパンは、一度は完全に絶滅してい
て、人の手によってクローンとして復活を遂げてい
た。
その後はクローンから生殖細胞を採取し、特別な
機械を使い、人工的に生み出し増やしている。
途中から難しい話になってちゃんと聞いてなかっ
たが、まあこんな感じだな。
だが更にまめパンにはトンでもない秘密があるら
しい。その事について記者たちは、アレンに答えを
求めたが、意味ありげな笑みを浮かべるだけで、さ
らりと躱した。
「とにかく飼ってからのお楽しみですね。ただ、そ
の奇跡ともいえる秘密を解いた方は、私のところへ
来てください。まずは誰にも内緒で」
アレンは相変わらず笑みを絶やさず、最後にテレ
ビカメラに向かってウインクした。
このキザ野郎、もったいつけやがって、気になっ
て寝れねぇだろうが。お前に俺の睡眠を邪魔する権
利はないぞ。
っていうか、まめパン絶対欲しい。でも買うのは
無理だ。色々と驚かされたが、ずっこけた一番は、
やはり値段だ。世界中の一般人が、「なめんな‼」
と心の底から思ったはずだ。
だって一匹、二千万円だぞ。更に数が少なく希少
価値のあるメスは五倍の一億円。
アホか、オスでも田舎なら新築マンション買える
やん。くそっ、やっぱ今回の抽選会で当てるしか、
手に入れる方法はないな。
それから各局のテレビは、本格的に店舗である宇
宙船内部を映し出す。
今のところ一階となる部分だけ、客が観覧できる
ようになっている。しかしフロアの一部分だけでも
とても宇宙船の中とは思えない広さだ。
全ての規模が地球サイズの遥か上をいく。観覧だ
けのテーマパークとしての究極の姿が、ここにある
と言えた。
水族館には当然の如く、見たこともない魚や生物
たちがいた。地球の生物と似ているものも多くいる
が、まったく大きさが違う。
例えば家の水槽でも飼えそうな、手の平に乗るサ
イズの小さいアザラシやトド、シャチやイルカに似
た可愛いのがいたり、地球では絶滅した恐竜みたい
なのがいる。
動物園エリアも同じで、猫ぐらいの小さく可愛い
虎やライオンに似た猛獣がいたと思えば、馬のよう
にデカい犬や猫がいたりした。
他にも興味深い爬虫類が色々と揃っている。だが
いまテレビに映っている、ゾウぐらいペロリと食べ
てしまいそうな巨大な蛇は、流石にヒクぜ。あまり
にもデカすぎだろ。てかもう龍ですやん。
昆虫コーナーには、一メートルかそれ以上もある
ような、カブトムシやクワガタに似た虫が何種類も
いた。
たぶん男子の多くは、このカブトとクワガタ、め
っちゃ戦わせてみてぇ、と思ったはずだ。これだけ
の大きさなら、人間の格闘技の試合見るより数段迫
力があって凄そう。まあ大きさが大きさだけに、首
が取れたりしたら、エグい絵になるかもだけど。
ほんとテレビで見てるだけでも面白い。今日は並
んででも行くべきだった。
でもこの巨大な宇宙船、上にはまだ何階もあり、
地下となる階もあるらしい。内部の全体像は想像も
つかない。とにかくトンでもねぇ。それにこんな大
きい物が重力のある空を自在に飛んだり、幾つもの
広大な銀河を旅してきたなんて、改めてアルドゥラ
ン人と地球人との科学力の差を感じさせられた。
そして大盛況の初日は無事に終了した。けど最後
まで入場できなかった可哀相な客の方が、圧倒的に
多かったようだ。まあ、あれだけ人が居て並んでた
ら、そうなるよな。結局は行かなくて良かった。