第四章 事実は小説よりも奇なり その12
「うううううっ、ご主人しゃまをイジメたら、許し
ゃないから‼」
ファムは猫が敵を威嚇するかの如く少し髪を逆立
て、怒れる犬のように唸り声を上げた後、吠えるよ
うに発した。
「ま、待てファム。まずはニケを、あの捕まってる
まめパンを助けろ」
今にも襲い掛かりそうなファムを制して言ったの
だが、理解したかは疑問である。
見た目が人間でも、中身は動物だからな。闘争本
能に火がついたら、俺の命令でも止まらないかもし
れない。
「ほう、どう許さないんだ。因みに俺を倒さなけれ
ば、お前の大切なご主人様は死ぬことになるぞ。さ
あ、見せてみろ、お前の秘められし力を」
ロキの挑発に乗せられ、ファムは何も考えず突っ
込んでいき、格闘戦が始まった。
ファムは俊敏に左右にステップし、フェイントを
入れながら近付くと、やはりニケのことなどお構い
なしに、ロキに殴りかかった。だがロキはファムの
動きを読んで、カウンターで蹴りを合わせる。
蹴りに驚いたファムは、とっさに腕で防御した。
しかしロキの蹴りは強力で、数メートルほど後方に
吹き飛ばされる。だがファムは空中で体勢を立て直
し、うまく着地すると、まるで猪突猛進な猪の如く
突撃した。
これがまめパン同士の戦いか。人間の格闘技の試
合なんて子供の遊びだ。人型に変身した時のまめパ
ンの身体能力は、やはり超人的なレベルに達してい
る。人間とのあまりの違いに、恐怖を感じる。さっ
きから鳥肌が立ちっぱなしで、冷汗が止まらない。
とにかくロキも凄いがファムも負けてない。だが
二人の表情は対照的だ。
ロキは口元に笑みを浮かべながら余裕を見せてい
るが、ファムの方は初めから必死である。それによ
く見たら、ファムの攻撃は当たっていない。遊ばれ
ているように全て簡単に躱されている。同じ人型で
も、訓練を積んだものと素人との差が露骨に現れて
いる。しかもロキは戦士と称される程の本物の戦い
のプロだし、普通に考えてまだ子供のファムが勝て
る訳ない。
これはヤバい。なんかいい手を考えないと、ファ
ムがやられる。といっても、この場面で俺ができる
事なんてないよな。限りなく無駄だろうけど、俺が
突っ込んで、ロキに隙を作るしかない。ただ、ヘタ
したら死ぬかも……。
「皐月、お前はそいつの相手を頼む。動いたら容赦
なく噛んでいいぞ。でも俺とファムがやられたら、
すぐに逃げろよ」
そう指示を出したら、皐月はアレンを威嚇しなが
ら、吠えて返事する。
そして俺は、なけなしの勇気を振り絞って、固ま
っていた体をなんとか前へと押し出す。
「ふはははっ、自ら死にに行くとは愚かな奴だ」
アレンが馬鹿にするように高らかに笑った。
「うるせぇ‼ 自分で何もしない腰抜けに、とやか
く言われる筋合いはねぇ‼」
本当にムカつく奴だ。後で俺が生きてたら、フル
ボッコにしてから簀巻きにして、川流しの刑にして
やんぜ。
俺はテンションを上げるためと、ロキの気を引く
ために雄叫びを上げ、一直線にロキ目掛けて突進す
る。
「恐怖しながらも立ち向かってくる勇気は褒めてや
るが、いまは人間の出る幕じゃない」
ロキは俺に気付くと、まだ8メートルは離れた俺
目掛けて、何かを放つように勢いよく手の平を向け
た。その瞬間、目に見えない風圧のようなものに襲
われた。まるで壁にでもぶつかった衝撃で、俺はひ
っくり返る。
「な、なんだ今のは⁉」
拳法とかである気功術みたいなものなのか? て
か俺に見えないだけで、スタンド的なものが出てい
るのかもしれない。
まあびっくりしたけど大きなダメージはない。で
もこれじゃあ玉砕覚悟の特攻どころか、近付くこと
も無理だ。
「ご主人しゃま、大丈夫?」
ファムが素早く側へとやってきて、心配そうに俺
の顔を覗き込む。
「あぁ、大丈夫、なんの問題もない」
「あとはファムがなんとかしゅるから」
ファムはそう言うと恐れる事無く、またロキに向
かって行く。頼もしいのはいいが、なんとかできる
のかよ。
「ご主人しゃまを傷つけるなんて、絶対に許しゃな
い‼ もう完全に怒ったからね」
「いいぞ、もっとお前の力を見せてみろ。子供とは
いえ、まだまだ限界じゃないだろ」
ロキはこの状況を楽しみ遊んでいると思う。さっ
き俺を殺そうとした時に見せた武器も催眠術も使っ
てないしな。
多分だが、ロキが本気を出せば、すぐに勝負は終
わるかもしれない。いったいどういうつもりだ。
「ロキ、なにをモタモタしている。早く決着をつけ
てしまえ‼」
アレンが痺れを切らしたように強く発した。
その時、激しく格闘戦をしていたファムに異変が
起こる。全身から強烈な光を発し、そのまま光の粒
子に包まれた。
まさに変身する時に見せる現象だ。ってこんな時
に元のまめパンに戻るのかよ。タイミングが悪すぎ
る。と思ったが、少し様子が違う……なにが起こる
んだ?
「ふっ、俺と同じだな。しかしもう二段階変身がで
きるとは、本当に素質があるようだ。まあまだ、制
御はできないだろうが」
ロキがそう言ったのが聞こえた。なんだよその二
段階ってのは。




