第四章 事実は小説よりも奇なり その6
「おい、大丈夫か、突然どうした。ファム、しっか
りしろ‼」
「あっ……痛くなくなった」
「どないやねん‼」
ファムは突然ケロッとした表情で、本当に何事も
なかったように平然としている。
「おいおい、ほんまになんともないのか?」
ファムに顔を近付け、目を合わせながら真剣に訊
いた。
「はい‼」
ファムは元気よく返事する。
そういえばファムが人間の姿の時に、ちゃんと会
話が成立したのは初めてかもしれん。
まあ一言だけなんだが、けっこう嬉しいものだ。
赤ちゃんが初めて言葉を発した時の親の気持ちって
こんな感じなのかもな。
でも急に苦しみだしたけど、頭に大怪我したばか
りだし、病院に連れて行った方がいいのかも。幸い
にも人間の姿だし……てかやっぱ無理すぎる。診察
中に変身したらシャレにならん。
しかしさっきの苦しみ方を見たら、放置はできな
い。頭の事だけに、命に係ることかもしれない。と
にかく緊急事態に備え、外に連れて行くための準備
をしよう。
それでまた、ファムに着せる服を探しに親の寝室
へと向かう。
すぐに目についた、ブルーのワンピースと白いハ
ーフコートを選んだ。
まず裸にむいてワンピースを着せたのだが、これ
がもう可愛すぎる。いったい君は何処から来たお姫
様ですか、って感じだ。
問題なのは下着なんだが、明日にでも茜のを拝借
してこよう。だから今はノーパンでいいや。あくま
でも、もしもの時の準備だし。で、コートを着せて
次に靴のサイズを見るため玄関に移動し、母親のス
ニーカーを合わせるとピッタリだった。
「これなら大丈夫だろ。普通に人間の女の子にしか
見えない。ただ金髪の美少女だから目立つけど」
その時、また突如ファムが苦しみだした。しかも
さっきよりも更に酷く、頭を抱えて痛がっている。
「だ、誰かが、頭の……中に……入ってくる……痛
い……」
ファムが発した言葉の真意は分からないが、これ
はヤバいよな。病院に連れて行かねば。
だが先程と同じように、ファムはすぐ苦しむのを
やめた。しかし様子が変だ。
「ファム、大丈夫か?」
ファムは直立不動に突っ立ったままで、体を揺す
っても無反応だ。目の焦点も合っておらず、茫然自
失という感じに見える。
「お、おい、どこに行くきや。ファム、しっかりし
ろ‼」
急に動き出したかと思えば、ファムは玄関のドア
を開け、外に出ていく。
「ちょっと待てって、止まれファム‼」
まるで何者かに操られているように、ファムは俺
の命令を無視し、庭の方から山の中へ入っていく。
おいおい、何がどうなってる。まったく理解でき
んぞ。でも放っておけないし、いまは追い掛けてい
くしかない。なんかすっげー怖くなってきた。
そして追跡を開始したが、わき目もふらず進んで
いくファムに、止まる様子はない。いったいどこま
で行く気だ。このまま進めば、もうすぐ池のあると
ころだ。
「アレンよ、やはりオマケがついてきてしまったよ
うだぞ」
謎の男であるロキが、ファムを精神波によって操
り、自分たちの居るところまで誘導していた。更に
逸早く、追い掛けてきていた快の存在に気付く。
しかしロキの居る場所からは、距離や位置取り的
に、快の姿が見えるわけなかった。
精神波の事もそうだが、既にロキが普通の人間で
ないことは間違いない。
「あの飼い主か、眠っておけば良かったものを。ま
あいい、ここで処理しておいた方が後々面倒がなく
て済む」
「本当にいいのか、地球人を消しても」
「いいんじゃないのか、別に。何か問題があるとは
思えないが」
「今まであえて忠告しなかったが、アルドゥラン人
は随分と前から様々な星に行っているのだろう。な
らば既に、この星が政府の監視を受けている可能性
があるはずだ」
「ふふっ、ロキ、お前おもしろいことを言うな。確
かにその可能性はある。だが心配する必要はない。
こんな辺境銀河の小さな星に、アルドゥラン政府が
興味を持つとは思えんな。それに、我々は許可を得
ずに地球に来たんだぞ、もしも政府の人間がこの星
にいたら、既に捕まっているはずだ」
二人が話していると、ロキの精神制御下にあるフ
ァムが、すぐ目の前まで姿を現す。
「ほう、こんなに早く人型に変身している姿を見れ
るとは。しかも金色の髪の毛とは珍しい。普通は黒
髪だからな。益々興味がでてきたぞ」
アレンは眼前のファムを見て、更にその瞳に強い
狂気を宿らせる。
「素晴らしい研究材料になる。欲を言えば、お前の
ような戦士になってくれればありがたい」
「あまり期待しない方がいい。本物の戦士など、そ
う簡単に作り出せるものじゃない。お前は話や資料
でしか俺たちの事を知らないだろうが、戦士になる
のに必要なのは、強力な特殊能力ではなく、強靭な
精神力だ。安易に戦士を作り出そうとして、もしも
暴走させてしまえば、その先には破滅しかない」
まるで主人の愚行を諫めるように、ロキは重々し
く言った。
「私には、戦士を作り出すことは不可能だと言いた
いようだな」
アレンは明らかに、ロキの言葉に苛立ちを感じて
いた。だがそれが表に出ないように、いつも通りの
クールな口調で言う。
「別に不可能ではないが、大きなリスクを背負うこ
とになるだけだ。人型の個体は、モンスターといっ
ていい強い力を秘めた生命体に変貌する。しかしそ
の力を解放すればするほど、その精神は不安定な状
態になる。実際に多くの個体が戦士として戦場に行
く前に、力を暴走させ死んでいる。周りの全てを巻
き込んでな。政府直属の実験機関でさえ、幾度とな
く失敗を繰り返していた。その事をよく覚えておく
んだな」
「ふははっ、今日は本当によく喋るじゃないか。ま
あ忠告は素直に聞いておこう。だが‼ お前はただ
私の命令をきいていればいいんだ‼」
アレンは苛立ちを抑えきれず、感情の高ぶるまま
吐き捨てるように強く発する。
(野望を抱くことは誰にでもできるが、それを実行
することには才能がいる。そしてお前には、幸か不
幸かその才能があった。しかし、刻一刻と変わりゆ
く状況を見極め、勝者となる事ができるかな)
ロキは口元に不敵な笑みを浮かべながら、胸の内
で語った。
ファムの他に誰かいる。こんな時間に山の中にい
るなんて怪しすぎるぞ。でも行くしかない。ファム
がそこにいるんだからな。
正直ビビってちびりそうだけど、決死の覚悟で近
付いた。
「えっ⁉ あれ、アレンさん?」
直立不動状態のファムの背後まで近付くと、側に
いた二人の顔が確認できた。
驚いたことに一人はアルドゥランの代表者のアレ
ンだった。もう一人は知らない奴だ。
てか超絶イケメンで、なんとも表現しにくい神秘
的な雰囲気を持っている。その謎のイケメンと一瞬
目が合っただけで、俺は首を絞められているような
息苦しさに襲われた。




