第四章 事実は小説よりも奇なり その5
またさっきのように眠りが浅く、それが夢と分か
る夢を見ていて、その夢には、ファムによく似た青
い瞳の金髪美少女がいた。背中には白くて美しい翼
が生えており、まるで天使か女神である。
この動きのない、ただお互いに見詰め合っている
何の変哲もない夢を、けっこう長く見ていた気がす
る。
その後、目覚めた時、俺は無意識に「ニケ」とい
う言葉をボソッと発した。
「ニケ……確か神話に出てくる勝利の女神だったっ
け……いい名前だよな。あのまめパンの名前にしよ
っと。気に入るといいけど」
女神の名前だけど、ニケならあのまめパンがオス
の場合でも変じゃないはずだ。それに、俺が凄く気
に入った。
「あれ? もうこんな時間か。ちゃんとベッドで寝
よ。今日からは皐月がおるから安心して寝れるわ」
少しうたた寝しただけかと思ったが、既に夜中の
1時になっている。ファムはこの時、俺に寄り添い
ソファーで丸まって寝ていた。
ファムを起こさないようにそっと抱え上げ、二階
の自分の部屋に連れて行こうとした。
だが、またしてもファムは、全身から神々しい光
を放ち、瞬時に人間の姿へと変身する。しかも眠っ
たままである。
「お、重い……落ちる落ちる」
小さいまめパンのファムを手に持っている状態で
の変身だったので、床に落としそうになったが、な
んとかお姫様抱っこして、踏ん張って耐え抜いた。
でも腰が砕けそうだ。
それからすぐにソファーにファムを下し、仰向け
に寝かせた。するとトンでもない事が……。
「おわっ⁉ なんてエロ、いや、はしたないポーズ
を⁉」
ファムは片足の膝を立て横に開き、大事なところ
が丸見えの状態になった。俺は反射的にファムの足
を掴んで股を閉じさせる。
あぁ〜ビックリした。こやつは俺の心臓止める気
か。だが良いものを見せてもらった。とりあえず手
を合わせて拝んでおくか。
でも、やはりペット相手にガン見して、欲情する
のは嫌だし、どうしたものか。まあ誰もいないんだ
から、楽しめばいいんだろうが、爪の垢程度しかな
いプライドが、変にヒョコヒョコ出てきて邪魔をす
る。
「はにゃ?」
ファムは寝ぼけ眼をこすりながら起き、無邪気に
擦り寄って甘えてくる。
半端ない裸の破壊力に理性が砕ける前に、俺はマ
ネキンに服を着せるように、まだ服を嫌がるファム
に体操服とブルマを着させた。ほんと五歳児ぐらい
を相手にしてるようだ。
だがこの時、突如ファムに異変が起こる。
その頃、アレンとロキと呼ばれる謎の男は、ファ
ムに異変が起きる少し前に、月杉家の近くまで来て
いた。
この町までは、姿を消せるシステムが付いた、空
を自在に飛べるアルドゥランの乗り物で来ており、
大河内家が所有する山の中に着陸している。
二人は月杉家の裏手の山側に回り込み、百メート
ル程離れた場所から何やら様子を窺っていた。
空には雲一つなく満月が光り輝き、本来は真っ暗
なはずの山中を、幽かに照らしだしている。
その月明かりに照らされたロキの銀髪は、妖しく
も神秘的に、闇の中でも浮かび上がるように美しか
った。
「どうしたアレン、何を考え込んでいる」
「いなくなった個体のことだが、何か重要な事を忘
れている気がする。あと少しで思い出せそうなんだ
が、どうしても思い出せない。まあ思い出せないと
いう事は、大したことじゃなかったのかもしれない
な」
「お前らしくもなく、不安を感じているようだな」
ロキはアレンと目を合わせて言った後、口元に不
敵な笑みを浮かべた。
「この私が不安を感じている……ロキ、お前でも冗
談を言うんだな。まあいい、それより始めようか、
時間が惜しい」
アレンの口調に感情の高ぶりはなかったが、表情
は険しいものだった。
ロキは目を閉じると精神集中し、人間では恐らく
到達できない高みへと、更に集中力を高めていく。
次の瞬間、ロキは目を見開き、自らの脳から精神
波を解き放つ。その精神波の送り先はファムであっ
た。精神波は電波のようにファムの脳へと送り込ま
れる。
「どうやらここまで近付けば、奴の精神にアクセス
できるようだ。まだ完全に制御できるか分からない
がな」
「脳に何かダメージを受けたのかもしれない。それ
ならお前の術が弱まったのも説明がつく」
「これは……遮断された。どうやらもっと強い精神
波を送らなければ、制御下におけないようだ。どう
するアレン、あまり無茶をすれば、奴の脳にダメー
ジを与えてしまう可能性がある。最悪の場合は、死
んでしまうぞ」
「問題ない。続けろ」
アレンは即答した。そう言った時のアレンの瞳は
まるで悪魔にでも取り憑かれたように、まがまがし
い狂気に満ちていた。
ロキは一瞬だけアレンに目線をやり、気付かれな
いほど刹那的に躊躇った。
「分かった、やってみよう。後の事はお前が考えれ
ばいいことだしな。だが少し間を開けよう。連続し
ての精神波は、脳への負担が大きすぎる。制御下に
おく前に、脳細胞が崩壊しては意味がないからな」
「時間調整はお前に任せる。すきなタイミングで仕
掛けろ」
ロキは10分ほどしてから、また集中力を高め、
先程よりも強力な精神波をファムに送り込む。
「……どうやら成功したようだ。いまは完全に制御
下に置いた。だが不安定な事に変わりはない。そう
長くはもたないぞ」
「よし、この先にあった池の方まで呼び出すんだ」
アレンは言い終わった後、いやらしく含み笑う。
なんだ? 突然ファムが苦しみだしたぞ。
「あ、頭……痛い……助けて、ご主人しゃま……」
ファムは本当に苦しそうに膝から崩れ落ち、頭を
抱えている。とにかくこれは普通じゃない。




