表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

第三章 ピンチと秘密と皐月現る その8




「これって……まめパンの飼い方の本か? なんで

こんなもん、皐月が持ってんねん」


 ペットショップのスタッフが言っていた、ちゃん

としたマニュアル本って、まさかこれのこと?


 皐月が銜えていたから涎でグチャグチャで、既に

ボロボロの状態だ。


 それから月杉家に着くまでの間に、また皐月とま

めパンが姿を見せることはなかった。しかしなんな

の、ツチノコを発見するのと同じぐらいレアな光景

を見たと思う。


「それじゃあね、快君、それにファム」


 俺が手を挙げて答えると、ファムも元気よく手を

振って、優さんを見送った。


 それにしても謎のまめパンが気になる。そのせい

か、嫌な予感が津波の如く押し寄せる。既に俺は、

蜘蛛の巣に捕らえられた蝶のように、脱出不可能な

危険な状況に身を置いているのかもしれない。てか

考えすぎだな。





 その頃、アルドゥランのペットショップでは、ア

レンが真剣な顔つきで、二十歳ぐらいの美しい銀髪

の青年と、何やら話し込んでいた。


 アレンはソファーにどっしりと腰かけていたが、

上下ともに漆黒の服を纏った長身の謎の青年は、立

ったまま腕を組んで壁にもたれかかっている。


「ロキ、あのファムという個体、まだ子供だがどう

思う」


 アレンは謎の青年のことを、ロキという名で呼ん

だ。


「危険だな、まだ子供だからこそ。生後数カ月で変

身能力を身につけたものなど、これまで一匹たりと

もいなかった。遺伝子的にみてもまったく可能性が

なかったにもかかわらずだ。あの個体には、特別な

何かがあると考えた方がいい」


 切れ長の鋭い目付きをした美しい顔立ちのロキは

感情を乗せる事無くクールに言った。


 ロキはアレン同様に狡猾な雰囲気を持っていたが

何かしら野望に燃えるアレンの狡猾さとは少し種類

が違い、どこか冷めた感じである。その青い瞳の奥

に癒えぬ悲しみと、何か自分一人で大きな罪を背負

っている、そんな感じにも見える。


「特別な何か……か。これからどんな特殊能力を身

につけるか分からないということか」


 アレンは眉間に皺を寄せ、これまでにない険しい

表情を見せた。その表情こそが、普段は笑顔の下に

隠れている、本当の顔であった。


「アレンよ、お前にとって脅威になるかもしれん。

どういう訳か分からないが、あの個体にはアクセス

できなかった。この島国程度の大きさなら、どこに

いても俺の精神波は届くはずなんだがな。とにかく

近距離まで近付いて、もう一度試すしかない。もし

もそれで制御下におけない場合は、早めに回収した

ほうがいい。不安要素はどれほど小さくとも、絶対

に残さないのが、生き残るための鉄則だ」


「任せていいのか?」


「ふっ、今更なんだ、俺はそのためにいるんだろ。

今まで通り利用すればいい」


 ロキは耳が隠れる長さの美しい銀髪を正面からか

き上げ、少し呆れ気味に発した。


「死なせるのは惜しい、できれば生け捕りにしてく

れ。いい研究材料になる」


 口元に不敵な笑みを浮かべそう言ったアレンの瞳

には、狂気ともいうべきまがまがしい光が宿ってい

た。


「分かった。その要望に応えよう。とにかく早い方

がいい。今日の夜中にでも行ってくる」


「……やはり私も一緒に行こう。何か嫌な予感がす

る」


「好きにすればいいが、お前には他に、やるべきこ

とが残っているぞ。ここから逃げた奴のことだ」


「分かっている。いま探しているところだ。しかし

全てが計画通りに、うまくはいかないものだ」


「そうでもないだろ。躓いたとはいえ、所詮は小さ

な石ころだ。立ち止まる程の事ではない。それに、

その石ころを砕いて消去できる、俺がいるんだから

な。お前の事だ、ある程度は想定内のことだろ」


 ロキの言葉にアレンは、自分はいつでも勝利者で

あると言わんばかりの余裕ある笑みを浮かべて返し

た。


 その笑みを見たロキは、意味深な言葉を発する。


「だが油断はするなよ。お前は上ばかり見ていて気

付いていないかもしれないが、上に上がろうとする

者の足元には、必ずその足を掴もうとする者がいる

ことを。もしかしたら既に今この時も、蟻のように

群れて足元で動き回っているかもしれない」


「ははっ、今日はよく喋るな、ロキ。いたとしても

踏み潰せばいいことだ」


 アレンは言い終わると同時に、悪党側のボスの如

く、いやらしく含み笑った。


「…………」


 ロキは何か言おうとしたが、あえて何も言わない

といった感じに開きかけた口を閉じ、口元に軽く笑

みを浮かべると、同時に目も閉じてゆっくりと俯い

た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ