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第三章 ピンチと秘密と皐月現る その7



「あんまり脅かさないでくださいよ。でも既に泥棒

が来てるし、これからはもっと気を付けます」


「大変だと思うけど、私もできる限りフォローする

から。でもなんにせよ、ファムの変身能力は、凄く

て素晴らしい事だよ。本当におめでとう」


 優さんは俺の肩をポンっと叩き、いつも通りの爽

やかな笑顔を見せた。


「ファム、優さんが褒めてくれたぞ」


 ファムを抱いて面と向かってそう言った。すると

ファムは超御機嫌で、万歳をするように両手を天へ

と突き出し、「にゅにゅー」と答えた。


「もう暗くなってきたし、帰りましょうか。今日は

話を聞いてくれて、ありがとうね、優さん」


「私の方こそ、今日は面白い話をいっぱい聞かせて

もらったわ。まあ、こんな事でよければ、いつでも

呼んで」


 俺はファムを肩に乗せ、優さんと一緒に山道を歩

きだした。


「防犯対策で、犬でも飼おうかなと思ってるんです

よ。また泥棒に入られたら嫌だし。やっぱ大型犬の

方がいいかなぁ」


「あっ、犬で思い出したけど、山田さんとこのお爺

さん、もう亡くなったらしいよ」


「マジっすか。いつもくしゃみするたびに入れ歯を

飛ばす、面白い爺ちゃんだったのに、残念やなぁ。

小さい頃は将棋とかして遊んでくれたっけ……それ

で、皐月はどうなったのか、優さん知ってます?」


 俺たちが話しているのは、近所の一軒家に一人で

住んでいた爺ちゃんの事だ。そして皐月というのは

爺ちゃんが飼っていた犬の名前である。


 現代では珍しく、元々は野良犬だったが、爺ちゃ

んが気に入って五年ほど前から飼い始めた。


 中型の真っ白いメスの紀州犬で、爺ちゃんが競馬

の皐月賞で勝った日に出会ったから、名前が皐月に

なった。


「お爺さんが入院してからは娘さんのところに預け

られてたらしいよ。確かアルドゥランの宇宙船の近

くの町だったと思うけど。でも皐月はお爺さんの他

は、快君と茜ちゃんにしか懐かなかったし、今はど

うなっているのやら。また野良に戻って好きに生き

てるかもね」


 しかし優さんはどこからそんな情報を仕入れてく

るのやら。皐月の事よりそっちの方が気になるな。


「まあ皐月は基本的に大人しい奴だから、大丈夫と

思うけど……んっ⁉」


 な、なんだぁ? いま二十メートルぐらい先で、

何か白いものが道を横切ったような気がしたぞ。犬

のようにも見えたが、なんか全体的に形がおかしか

ったような。


「優さん、今の見たよね。この先になんかおるで」


「えぇ、確かに何かいたわね」


「なんかシルエットおかしくなかった? 体は犬っ

ぽかったけど、背中の辺りに何か乗ってるような。

言ってること分かるかな……」


 薄暗くてはっきりと見えなかったが、犬の背中に

何か他の動物が乗っているように見えた、ような気

がする。


「う〜ん、言われてみれば、何か乗ってたような」


「あれあれ、馬にまたがってる人間のような感じで

すよ」


 その時、五メートルほど先の茂みの中から、謎の

生物が突如姿を現した。


 んっ⁉ この真っ白い体は……って皐月やん‼


 んっ⁉ んんんんんっ⁉ せ、背中に乗っている

のは、まさか……どう見ても、まめパンに見えるん

だが。な、なんだぁ? ファムか?


 肩にファムが乗っているのを分かりながらも、眼

前のまめパンが本当にファムかと思った。だってこ

んなところにいるまめパンって、絶対にファムしか

いねぇし。


 皐月は口に銜えていた本のようなものを地面に落

とし、勇ましく遠吠えを上げた。そしてまた茂みの

中へと走り去る。


 なんだったんだよ。っていうか、背中に乗ってた

まめパンはなんだ。なんでそうなった。誰か説明し

てくれってばよ‼


 でも皐月が遠吠えを上げた時、前足を跳ね上げた

白馬にまたがるナポレオンの絵が思い浮かんだ。ま

あ乗ってるのは人ですらなくまめパンだけどな。て

かさっきのまめパン、カッコイイんですけど。


「いまの完全に皐月でしたよね。それにあれは、ま

めパンに見えたんですけど……」


「え、えぇ、そう見えたけど」


 流石に優さんも唖然としていて、すぐにこの状況

を説明できるほどの答えは帰ってこなかった。


 皐月の事はちょっと置いといて、さっきのまめパ

ンだが、冷静に思い出せば、ファムとは雰囲気が違

う。目付きが鋭く精悍で、ワイルドな感じだ。多分

オスじゃないかな。


 でもなんでこんな田舎の山の中に居るんだ。しか

も皐月と一緒に。訳が分からんぞ。どこかの金持ち

の飼い主のところから、脱走してきたのか。それか

ペットショップから逃げ出したとも考えられる。ま

あ何にせよ、えらいこっちゃで。


 そういえば、ファムは無反応だったが、謎のまめ

パンは、俺とファムを交互に見ていた気がする。


「まめパンの方は分からないけど、皐月は逃げてき

たんだろうね。いや、自分の居るべき場所に戻って

きたと言った方がいいかもしれない。でもお爺さん

は亡くなっているし、住んでいた家も壊されて、既

に更地になっている。だからもう皐月が帰ってこれ

る場所はない。それで山の中を彷徨ってたんじゃな

いかな」


 流石です優さん、的確な答えですな。でもこの場

合、皐月は野良犬だけど、まめパンは野良パンとで

も言ったらいいのかな。


「皐月の事は後で考えるとして、まめパンはショッ

プか警察に連絡したほうがいいんじゃないですか。

めっちゃ大騒ぎになりそうだけど。どうしましょ、

優さん」


「そうねぇ……捕獲するにしても、まめパンは可な

り俊敏で、しかも広大な山の中だし、人間じゃ捕ま

えられないんじゃないかな。まあ雑食で何でも食べ

るから、放置しても飢え死にすることはないだろう

し、この事は私たちだけの秘密にして、少し様子を

見た方がいいんじゃないかな」


「マジで放置っすか。大丈夫かな……。てか優さん

流石っすね。ペットショップに何回も行ってるだけ

あって、まめパンの事も詳しいっすね」


「まあね。テレビで何度も特集みたから。とにかく

快君が言ったように、今は大騒ぎになるだろうし、

トラブルを自分から招き寄せることはないよ」


 優さんは、はっきりとは言わなかったが、何やら

深い考えがあるように思えた。


「そういや皐月の奴、なんか落としていったよね」


 俺は地面に落ちている、B5ぐらいの大きさの薄

っぺらい本を拾い上げた。




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