第三章 ピンチと秘密と皐月現る その6
「まだ少ししか一緒に居ませんけど、ホンと賢くて
いい子ですよ。それに他のまめパンよりも、可愛い
と思うんですよ」
俺がそう言うとファムは「にゃは」と声を漏らし
て照れ臭そうにモジモジした。
「いきなり親バカね。でも快君に譲って本当に良か
ったわ。ファムも懐いてるし」
「懐いてるといえば、受け取りの時に訊いた話だけ
ど、まめパンには契約のキスってものがあって、唇
にキスされると、主人として認められたことになる
ねんて。因みにもう契約のキスは、ブチュってされ
たよ」
「えっ⁉ 契約のキスを……そうなんだ、流石運の
良い男ね。それより、どこか行った帰りなの?」
「色々と訊きたいことがあって、ペットショップに
行っててん」
「偶然だね、実は私もさっきまで、同じところに居
たんだよね」
「また行ったんですか。凄い気に入ってますね」
「ははっ、なんかはまっちゃってね」
優さんは爽やかに笑って、軽い口調で言った。
俺は優さんのいつも通りの笑顔を見て、ある事を
決意した。
「優さん、このあと時間あるかな、内緒の話がある
ねんけど」
やはり親友の優さんには全てを話しておきたい。
だから真面目な顔をして言った。
「えぇ、大丈夫だけど。何だかいつもと違って真剣
な話しのようね」
俺は優さんを連れて大河内家の私有地である山の
中に入った。
少し歩いたところには、縦横二百メートル程の池
がある。湧水が出ており、そこらの池とは違い綺麗
で様々な生物が生息していた。故にこの池には、鹿
に猪、兎に狸、狐など野生の動物が集まってくる。
子供の頃はここで、茜と泳いだり釣りをして遊んで
いた。
更に池の畔には、和風建築の屋根が付いた休憩所
のようなものがあり、個人の敷地でなければ、立派
な公園といえる。この場所なら、誰にも邪魔されず
話しを聞かれる心配がない。
とりあえず話をする前に、ファムを椅子に座らせ
さっきコンビニで買ったポテチをやることにした。
ポテチの袋を開けて渡してやると、ファムは袋に
顔を突っ込み、クンクンと匂いを嗅いだ。初めての
ものは、食べる前に匂いで大丈夫か確認する習性が
あるようだ。
「いい匂いがするやろ、コンソメ味やぞ」
ファムは袋から顔を出すと、マタタビを嗅いだ猫
のようにうっとりして「ふにゃあぁぁ」と吐息を漏
らした。これは可なり気に入ったとみえる。
器用に一枚だけ手に取ると、パリッと音をさせて
食べた。すると「うにゃー⁉」とテンションMAX
の声を上げる。
多分「めっちゃうめぇ⁉」と言ってると思う。
その後は勿論、凄まじい勢いで、バリバリバリバ
リ、ムシャムシャムシャ、と平らげた。
「ほれ、コーラも飲め」
手渡すと、これまた一気に飲み干す。
更にまだ食べたりないようで、もの欲しそうな顔
をして、無意識によだれを垂らしている。そんな面
白可愛い純真無垢な顔で見詰められると、食べさせ
てやりたくなる。また露骨におねだりせず、我慢し
ているのがなんともいじらしい。てか反則過ぎます
よ。
「仕方がないな。もう一袋だけやぞ」
ポテチを渡すと、ファムは袋に顔を突っ込み、匂
いを嗅いだ後、丸一日なにも食べてないかの如く完
食した。当然コーラもまた一気で飲み干す。
「な、なかなかワイルドな子ね」
優さんは呆れ顔で言う。あんな小さい体であの食
いっぷり、そりゃそんな顔にもなりますわな。
「そうなんすよ。でも可愛いでしょ。ただめっちゃ
食うから食費がねぇ。ってこんな話ししにきたんじ
ゃなかった」
まずは我が家にまめパン狙いの泥棒が来て、ファ
ムが身代わりになって大怪我したことや、異常な治
癒能力について話した。
「色々と大変だったね。覚悟をしておけと言ったけ
ど、まさかこんなに早くトラブルが起こるとは。と
にかく快君とファムが無事でよかった」
「あと、実はまだ他に、ファムの事で信じられない
ことがあるんですよ。優さんには知っておいてもら
いたいから言うけど、笑わんといてくださいよ」
俺はファムの変身の事についても詳しく話した。
でもエロい所は恥ずかしいから除外する。
話を聞いたとたん、優さんは立ち上がって凄く驚
いた。いきなり信じてくれるとは思ってなかった。
いくら気心の知れた俺が言ったことでも、動物が人
間の姿に変身するなんてこと、無茶すぎるもんな。
「す、凄いね。奇跡を起こしたんだね、快君は。流
石というかなんというか、ホンといきなりね」
「でも優さん、こんな訳の分からんこと、見てない
のに信じてくれるんですか? 自分で言うのもなん
だけど、俺が聞いてる方なら、すぐには信じられな
いと思うんですよ。あまりにもアホな話過ぎて」
「私は信じるよ。快君がそんな嘘をいう訳ないから
ね」
「優さんなら、そう言ってくれると思ってたよ」
「という事は、今日はそれを聞くために宇宙船に行
ったのかな?」
「そうですよ。奇跡が変身の事かどうかを聞くため
に、アルドゥランの代表者のアレンに、会いに行っ
たんです」
「そのアレンはどう言ったの? 詳しく聞かせても
らえるかな」
優さんが興味津々だったので、俺はアレンに訊い
た話を、できるだけ正確に伝えた。それから優さん
は、険しい表情で何か考え込んでいた。
「ねぇ快君、これからもっと大きなトラブルに巻き
込まれるかもしれないよ。更に警戒したほうがいい
かも」
優さんは、まるで近いうちに何か事件が起こるこ
とを確定的に捉えている。俺は優さんの口調や表情
で、そんな風に感じた。なんか怖っ。




