第一章 抽選会 その1
アルドゥラン人の宇宙船が飛来してから一週間が
経過した。
今のところ最初に着水した大阪の舞洲にいるのだ
が、とりあえず、という感じで政府から発表される
あやふやな情報と、マスコミ関係やSNSで無責任
に垂れ流される情報とがごちゃ混ぜになり、何が何
だか分からない超絶カオスな状況である。
テレビでは毎日、同じような特番が流され、今ま
でUFOや宇宙人が存在すると言っては馬鹿にされ
ていた研究家たちが、鼻高々に各テレビ局に一日何
度も出演し、独自の見解を力説している。
てか流石に、一週間でこいつらは見飽きたな。一
年に一回、会うか会わないかの親戚のおじさんぐら
い、たま〜に出てくるのが丁度よかった。
とにかく宇宙人宇宙人ばかりで嫌気がさすところ
だが、本物の宇宙人ネタは別格だ。飽きるどころか
お祭騒ぎは歯止めがきかないほどにエスカレートし
ていく。
そして世界中の人々がガセ情報に振り回されてい
る間に、アルドゥラン人と国連のお偉いさん方の話
し合いは早急に進んでいたようで、ついに次の日、
アルドゥラン人が同席する記者会見が、世界中で同
時に放送されることになった。
場所は国会議事堂、日本時間で午後六時からの生
放送で、誰もがテレビやスマホの画面に釘付けにな
る。
会見には金髪に青い瞳のアルドゥラン人がいた。
白人タイプの男性で、年の頃は二十代後半ぐらい、
モデルのような細身の長身で、顔はイケメンといえ
る。切れ長の鋭い目付きで狡猾そうだが、会見中は
絶えず笑顔の神対応だった。
しかし公表されていたとおり、人類とまったく同
じに見え、普通にスーツを着ている。しかも数多く
ある地球人の言葉もペラペラだし。なにやらコンピ
ューターにインプットした情報を、簡単に脳に記憶
させる機械があるため、言葉が話せるとのこと。
肝心の記者会見は、まさかのしょっぱい内容で、
アルドゥラン星の情勢や人については謎のままであ
る。だが、驚く発表もあった。それは彼らが地球に
来た目的についてだ。
因みに使われている言葉は、日本の地であること
が考慮されたのか、日本語が主に使われている。
「私たちは、アルドゥラン政府のものではありませ
ん。ただの一般人であり、ペットショップを営む一
企業の人間です」
代表者のアレンが、穏やかな口調で説明した。
それまでセミのようにうるさく質問を飛ばし、せ
わしくカメラのシャッターを切っていた記者たちだ
ったが、誰もが怪訝そうな顔をして、一瞬、時が止
まったように静まる。
「それじゃあ、あなた達は地球に商売でもするため
に来たんですか?」
日本人の物分かりのいい記者が、透かさず質問を
する。
「はい、その通りです。地球の皆様から営業の許可
が下りれば、アルドゥラン星のペットを販売する店
を、すぐにオープンさせたいと思っております」
この突然の訪問者がペットショップとは、なんと
いうサプライズだ。
でもこいつら、遥か彼方の地球くんだりまで商売
しにきたとは、その商売人根性は称賛に値する。そ
して自ら姿を現したのは、堂々と商売をするためだ
ったのか。どんなペットか分からないが、地球に存
在しない生物を内緒で売れば、すぐにバレて大問題
になるし、数多くさばけないから儲からない。ちゃ
んと先の事まで考えてやがる。
それからあっという間にまた一週間が過ぎた。
この間に大阪は、大混乱の大混雑になっている。
宇宙船を見るため、撮影するために世界中から人が
集まってきていた。
旅行会社にホテル、鉄道に航空会社はもうウハウ
ハだろうな。経済効果は計り知れないぜ。
だがこの先、宇宙人が商売をするといっても地球
に存在しない生物を売るということは、やはり色々
と問題があった。とにかく地球の生物の生態系を壊
してはいけないということだ。
もしも宇宙ペットともいえる新種の生物が、何の
規制もなしに世に出回れば、間違いなく生態系は崩
壊してしまう。恐らく元から地球にいた生物たちの
方が絶滅してしまう可能性が大きい。と、テレビで
評論家やどこぞの大学教授が言っていた。
まあ普通に考えて、許可が下りたとしても当分は
先の話のはず、なのだが、どういう訳かいとも簡単
に営業許可が許された。
おいおい、随分と甘いじゃないか。アイスに角砂
糖をトッピングしてシロップと練乳かけて食うぐら
い甘いだろ。それでいいのか、お偉いさん方よ。と
誰もがツッコミを入れたに違いない。
これは脅されているのか、何か裏取引でもしてる
のか、どっちかだな。でも人類側が強くでれないの
も分かる。科学力の違いは一目瞭然だからな。些細
なことでもめ事を起こし、それこそ戦争にでもなっ
たら取り返しがつかない。
だがそれなりに厳しい制約が、販売する側と買う
側にも取り決められていた。
まず宇宙ペットを買うには、誰が何を買ったかを
登録しなければならない。それ自体はどうという事
はない。大変なのは買った後なのだ。
いざ買ったはいいが飼いきれなくて捨てたり、繁
殖させ売買したり、故意でなくても逃げられたりす
れば、飼い主は厳罰を受けることになる。
とにかく責任重大であり、普通のペット感覚では
飼えない。でも今のところ販売許可がおりたペット
は一種類だけということだ。
そしてオープンに向けて、店舗である宇宙船の改
装工事が始まっていた。