第二章 奇跡は突然⁉ その2
「快、大変だよ。お店から出た時に撮られたのがも
うテレビに流れてる。それに、外にいっぱい人が居
るみたいだし、凄い事になってきたね」
茜はパンツが見えそうで見えない短さの、フリル
の付いた白いワンピースにピンクと白のボーダーの
ニーハイソックスに着替え、庭に隣接している山の
方から来て、いつも通りリビングの窓から入ってき
た。手には長方形の箱と、野菜などが入ったスーパ
ーのビニール袋を持っている。
てか大変なのはお前の個人情報だけどな。しかし
茜のワンピース姿は制服と同じで、胸が大きすぎて
似合ってないんだよな。なんかただエロいだけ。
まあオッパイ派の男子にはそれがいいんだが、ホ
ンと中学生の体じゃない。もうね、俺が裁判長なら
公然猥褻で有罪確定ですよ。
「騒がしいのは、物珍しい今だけだし、堂々として
ればいいんじゃないの」
実際のところこの近辺での騒ぎだけは、すぐに静
まるのは間違いない。何故なら月杉家は、この街で
一番の権力を持つ大河内家と、唯一近所付き合いが
あり、家族ぐるみで親しい仲だからだ。
必然的に月杉家に関われば、何かあった時に大河
内家が出てくることになる。それを街の人間はよく
理解しているため、本来は何の影響力もない月杉家
だが、ちょっかいを出す奴はいないのだ。まさに大
河内家は最強のガーディアンであり、いつも傍にい
る茜は、ロトの盾といったところだ。
「それよりなに持ってきてくれたん?」
「シュークリームだけど、この子は何を食べるのか
な。竹じゃないよね」
茜はコートを脱いだ後、ブルンと胸を揺らしなが
ら、当たり前のように密着して俺の横に座り、シュ
ークリームの入った箱を開けた。
するとまめパンが匂いに反応したのか、なにやら
興味を示したので、テーブルの上にまめパンを置い
て、シュークリームを手渡した。
「ちょっと快、そんなカロリーの高いもの食べさせ
て大丈夫なの?」
「まだ食べるかどうか分からんやろ。少し観察しよ
うぜ」
まめパンはすぐには食べず、まずはクンクンと匂
いを嗅ぎ、食べられるものと判断すると、皮の部分
にかじりついた。
むしゃむしゃと食べ進み、クリームの部分を食べ
ると、ダイエットが成功して自分へのご褒美に、久
しぶりに甘いものを食べた女子のように幸せそうな
顔をして「ふにゃ〜」と気の抜けた声を発した。ど
うやら食べさせて問題ないようだ。
その後は、俺たちが引くぐらいの勢いで、一気に
シュークリームを平らげた。
なんか面白いのでもう一個手渡すと、また凄い勢
いで完食した。
そして満足したのか、テーブルから俺の膝へと飛
び移り、丸まってゴロゴロして甘え始めた。
まめパンは見た目も動きも可愛いが、食う時はワ
イルドな奴だとよく分かった。
「こいつに名前を付けてやらんとな。一応はもう考
えてあるねんけど」
「どんな名前なの?」
「まあ色々と考えてんけど、『ファム』って名前な
んかどうかなと」
「ファムか、なんか可愛いし、いい名前だね。意味
とかはあるの?」
「あるよ。どこの言葉か忘れたけど、ファム・ファ
タル、ってのが元やねん。男の運命を大きく変える
女、とか、男を破滅に導く女、ていう意味があるら
しい。運命を変えるってところはピッタリやろ」
「破滅って意味は微妙だけど、まあ、この子が気に
入ればいいんじゃない」
「よし、じゃあお前は今日から、ファムって名前だ
ぞ」
俺はファムを眼前に抱え上げ言った。すると「キ
ュ〜」と鳴き声を発して、喜んでいるように両手を
上げた。どうやら気に入ってくれたようだ。
「じゃあそろそろ晩ご飯の準備するね」
茜は超お嬢様のくせに家庭的な奴で、料理もなか
なかの腕前である。
しかしファムの主食となるものは、何を用意した
らいいのか。だが帰り際に渡された、飼い方のマニ
ュアルを思い出した。確か鞄に入っているはずだ。
こ、これは……微妙……いや、そんなレベルじゃ
ない。渡された時はテンションMAXだったし、気
にもしてなかったが、よく見れば、この薄っぺらさ
はなんだ。開く前から嫌な予感しかしねぇ。A4サ
イズの紙で、右端をクリップみたいので綴じてある
だけという手抜き。いや、ここは敢えてシンプルな
作りと言っておこう。まだ中は見てないしな。もし
かしたら凄い役に立つかもしれん。
表紙となる一枚目には、正しいまめパンの飼い方
(初心者用)とだけ書いてある。おいおい、既に一
ページ無駄にしてやがる。
……やはり嫌な予感的中。ページをめくりその全
貌を確かめると、表紙合わせて三枚しかねぇし。
しょっぱすぎるぞアルドゥラン人よ。更に文字の
印刷はデカいうえに、一枚に数行しか書いてない。
どんだけ手抜きやねん。忙しいのは分かるが、絶対
もっと書くことあっただろ。これじゃあ嫌がらせで
すやん。
まあ一応いま知りたいことは書いてある。とりあ
えずまめパンは雑食性らしい。って役に立つのこれ
だけしかねぇよ。
逆に書いてないという事は、何でも食わせていい
ってことなのか。それとも自分で探し出せという、
遊び心いっぱいのお茶目なレクリエーションとでも
いうのか。
後は既に発表されている情報が少し書いてあるだ
け。これは破り捨てていいレベルだぞ。金を出して
買ったわけじゃないから文句は言えないけど。
ということで俺は、マニュアルという名の紙を力
いっぱい小さく丸め、ゴミ箱にダイブさせた。
この時テレビでは、まめパンを購入できたラッキ
ーな金持ちたちのインタビュー映像が流れていた。
その何人かは、俺でも知っているような大企業の
社長やハリウッドスターで、裏取引臭い匂いがプン
プンした。あと偶然だろうけど、近くに集まる事無
く、うまく世界中に散らばって売れている。そして
今は在庫が無く、第二弾の発売は未定である。




