序章 「新たなる時代の幕開け」
この作品は、微エロ、下ネタ、女の子に対するセク
ハラなどがあります。苦手な方はご注意ください。
それは元旦に起こった前代未聞の珍事だった。人
類にとって新たなる時代の幕開けを期待させる訪問
者が、何の前触れもなく突如、巨大な円盤型の宇宙
船に乗り現れたのだ。
その日は、家が隣で歳も同じということもあり、
必然的に腐れ縁の幼馴染である、大河内・茜と、朝
から近所の神社へと初詣に行った後、大阪の梅田に
遊びに来ていた。
「ねぇ、もう暗くなってきたし、大観覧車に乗ろう
よ。私まだ乗った事ないんだよね」
茜はまるで、飼い主に散歩に行くのをねだる犬の
ように、絶対に乗りたいと言わんばかりの目で、長
身の俺の顔を見上げていた。
駅前のビルにその観覧車はあり、真っ赤に塗装さ
れた姿は遠くからでもよく目立ち、頂上辺りでは街
を一望でき夜景も楽しめる。今では大阪の名所の一
つとなっている。
「えっ、お前まだ乗った事なかったんや。まあ、な
んだかんだで地元の人間は乗ってなかったりするも
んな」
「なにその言い方、なんかムカつく。まるで乗った
ことあるみたいだし」
「あるよ、二回ほどな。勿論デートで」
不機嫌な表情になりつつある茜に、あえて素っ気
なく言ってやった。でもデートも乗ったのも嘘だけ
どな。
「私とは一度も乗ってないのに、なんで他の子と乗
っちゃうのよ」
茜は既に半泣き状態である。こいつはちょっと苛
めると、怒られてシュンとしている犬みたいな顔に
なる。その顔がまた面白くて可愛い。
「別にいいやろ。だいたい彼女でもないお前に言わ
れる筋合いはない」
「うっ……それはそうだけど……」
彼女じゃない。この言葉を出すと茜は黙り込むの
で重宝している。まったくもって便利な言葉だ。し
かし立場が逆なら最悪だな。
こうやって意地悪したりしているが、俺は茜が大
好きである。因みに、茜の方もガキの頃から俺のこ
とが好きなのは間違いないと思う。
いわゆる両想いのリア充なんだが、どちらからも
告白はしていないので、友達以上恋人未満という関
係だ。
茜は男の方からの告白を待っているみたいだが、
それはなんか嫌、というか悔しい。そうなるように
仕向けている、茜の普段の行動がバレバレでムカつ
くからだ。
だから今のところ、茜に対して恋愛感情は持って
ないように振る舞って苛めている。まぁ、照れくさ
いのと、俺がドSというのもあって、当分はこのま
まの関係が続くと思う。
でも茜はアイドル張りに可愛くて実際にモテるの
で、油断は禁物である。周りの男どもはみんな狙っ
ているからな。
とはいえ、既に俺のストーカーと化して金魚の糞
のようにくっついているので、それほど心配はして
いない。
ただ、もうすぐ高校生になるので狼の数が増えて
色恋沙汰に巻き込まれそうなのが嫌なんだよなぁ。
「最近、冷たすぎるよ」
茜は呟く程度にではあったが、俺に聞こえるよう
に発した。だが聞こえなかった振りをして、更に意
地悪をする。
「あっ、あの子めっちゃ可愛いやんか。しかも色白
で巨乳だし。あんな子が彼女だったら最高なんやけ
どなぁ」
どう見ても茜より可愛くなく、雰囲気と髪型、服
装も似ている子をあえて褒めた。すると案の定、茜
は拗ねた顔をし、反抗的な目で俺を見上げている。
茜の服装は、デートのつもりで気合いを入れたの
か、寒いのに赤チェックのプリーツミニスカートに
黒のニーハイブーツ、そして以前、なんとなく可愛
いと言ってしまった白いハーフコートを着ている。
髪型も、俺の好きな長さであるセミロングにずっと
していた。
まったくご苦労なこった。その努力が健気で嬉し
くもあるが、あざとすぎてムカっとしているだけに
結局は報われないのが憐れである。最近では、茜が
頑張れば頑張る程、苛めてやりたくなる。やっぱ俺
って、完全に変態ドSだな。
「あれのどこが可愛いのよ。それに私の方が色白だ
し、胸だって……ずっと大きいよ」
対抗心を剥き出しそっぽを向いて拗ねている茜の
姿は、ギュっと抱き締めたくなるほど可愛い。だが
抱き締めん‼ 何故なら、ここでデレても面白くな
いからだ。頭の中の天使な俺は『おいおい、ここで
我慢とかなんの罰ゲームだよ。無茶すんな』と言っ
ているがな。
「お前は相変わらず分かってねぇな。俺は巨乳が大
好きなオッパイ星人なんだよ‼」
「ちょっと、そんなこと大きな声で堂々と言わない
でよ。ていうか、それだったら、わっ、私だってき
ょ……巨乳なんだけど」
茜は頬を赤くして弱々しく発したが、俺の様子は
ちゃんと窺い見ている。
「アホか、俺の目は誤魔化せんぞ。お前は巨乳じゃ
なくて爆乳だろ。いいか、俺の中での巨乳は、89
から93までという狭き門を通過した乳のみ」
いったい街中で何を話してんだか。我ながらアホ
な事を力説してしまった。
「ヘイ、そこのクリーチャー、その胸に装備した極
悪な凶器、何センチか言ってみろ」
「……はっ、89かな」
茜は俯きながらボソッと言った。
「嘘つけ‼ どこが89やねん‼ てめぇ、世の偽装
問題に喧嘩売ってんのか」
俺は絶妙なタイミングで茜の胸目掛けツッコミを
入れる。
「だいたいそれで89って、よくもまあ堂々とそれ
だけの物を見せびらかして言うな。ある意味、嫌味
な女だな」
「き、着太りするタイプだから」
「おおいっ‼ どんだけ着太りやねん。何を着たらそ
んなスイカ入れたみたいになるねん。しょうもない
ツッコミ入れさせんな。怒らんから言ってみろ、本
当のサイズを」
「……94ぐらいかな」
「そらそうやろ。つまり間違いなく爆乳やん。しか
もいま中三だし、まだ確実に大きくなるだろ。三桁
までいくんじゃないか。まあ、そこまでいったら凄
いな、爆乳超え。でも爆乳だったら問題外だけど、
超えたらそれはそれで有りかもな」
バカにするように半笑いしながら言ってたら、な
んか本気で面白くなり、最後に一人で大笑いした。
だが茜の爆乳は、張りがあって垂れてないし、重力
とガチ勝負して完勝しているのが凄い。なのでなか
なかに侮れんエロさだ。
「その笑い方ムカつく。それだったら意地でも三桁
いってやる」
茜は眉間に皺をよせ、吐き捨てるように発する。
「っていうか、1センチしか変わらないじゃん」
「おいっ‼ 乳フェチ舐めんなよ‼ 1センチ違え
ばまったく別物やっちゅうねん。お前はとりあえず
その爆乳のせいで、これまでホウセンカの種の如く
無残に弾け飛ばした服のボタンたちに謝れ」
「そんなの知らないわよ‼」
こんなアホな会話をしつつ、偶然か必然か分から
ないが、新時代の幕開けとなるだろう衝撃的瞬間を
目撃する観覧車へと向かった。
俺たちはゴンドラに乗り込むと、向かい合わせに
座る。
「茜、スカート短すぎやろ、パンツ見えてるぞ」
実際は見えていないが、こいつはガキのくせにセ
クシー下着ばかり身に着けているから、今日も恐ら
く黒とか赤とか紫といった過激なパンツを穿いてい
るはずだ。
「なに見てんのよ、この変態巨乳バカ」
茜は睨みながら憎たらしく言い放ったが、少した
れ目で優しい顔立ちが邪魔をして、男目線ではムカ
つくどころか可愛く見える。しかし、わざと見えそ
うなほど短いスカートを穿いているのはお前だろ。
最近はまともに攻めても無駄だと気付いたのか、
チラリズムをくすぐってみたり、色気を取り入れあ
の手この手で体を張って頑張っているが、なんかも
うときめくよりも、面白くてしかたがない。だが今
日は苛めすぎたようで、少し開き直っている。
「見たくなくても見えるもんはしゃあないやろ」
「じゃあ下を見なければいいでしょ、見たくもない
んなら」
「いやいや、見えるものは遠慮なく見せてもらいま
すよ。ていうか、見てほしいんやろ」
俺は茜の膝前に座り込み、ガシっと両膝を掴む。
「おりゃ‼」
そう発して一気に、茜の膝を上へと持ち上げる。
茜は突然の事に抵抗できず「きゃっ‼」と叫ぶだ
けで、座ったままM字開脚のポーズになった。
当然スカートは捲れ眼前には股間がフルオープン
状態でお目見えする。
予想は黒のセクシーパンツだが、堂々と中を覗き
込むと、珍しく可愛い系の白とピンクのボーダーパ
ンツだった。
それにしても、太もものムチムチ感と食い込みの
エロさパネぇ‼ ホンと幼馴染みで普段から変態行
為に免疫のある茜だからこそできる荒技だよな。
「この変態‼ なに考えてんのよ‼」
流石に恥ずかしかったのだろう、茜は慌てて手で
隠した。だがその瞬間、調子に乗りすぎた俺に悲劇
が起こる。嫌な打撃音と共に激痛を感じた。それは
力一杯内側に閉じた茜の両膝が、俺の顔面をクリテ
ィカルヒットで挟んだからだ。
「あっ、ごめん、大丈夫?」
「うぅぅ……こめかみ急所なんですけど」
カッコ悪すぎるぞ俺。この時、改めて思う。お金
持ちでお嬢様育ちの茜はいったい俺のどこに惚れた
のやら。これといってイケメンでもスポーツ万能で
もなく、頭が特別いいわけでもない。しかもドエロ
のドS。自分で言うのもなんだが、ショボい奴であ
る。
まあ、こんな普通な俺だが、実は運が良いことが
唯一の取り柄である。それもなんだか取り柄という
にはしょっぱいんだが、これが馬鹿にできない運の
良さなのだ。
ガキの頃から小銭などを拾うのは当然として、大
金の入った財布などもよく拾った。勿論ちゃんと警
察に届けている。そして持ち主が現れ、そのつど謝
礼を貰っていた。しかしあまりにもよく拾うので、
一時期警察に怪しまれる程だった。
他にも、懸賞ハガキを送れば、ことごとく当たっ
てしまう。テレビに冷蔵庫、電子レンジなどなど、
いま家にある、家電製品のほとんどは、俺が懸賞で
当てたものだ。
商店街で恒例となっている福引大会では、温泉旅
行に霜降りの高級和牛に米俵など、これまで景品を
当てまくっている。だが他の客からヤラセという不
満の声が上がり、最近では福引所の看板に、名指し
で参加禁止と書かれるしまつだ。ある意味、罰ゲー
ムである。何も知らない人がその看板を見たら、俺
が悪いことしたみたいに思われるから、名指しはそ
ろそろやめてほしいところだ。
更にラッキースケベは数知れず、何処からともな
く風が吹き、パンチラなんかは当たり前。故に学校
では男どもから風使いの称号を与えられている。
それにこれまで大きな怪我や病気もしたことがな
く、虫歯の一本もない健康体。とにかく俺は、運が
良いということだ。
でも運が良いとかよりも、女に好かれる体質の方
が百倍良かった。俺の周りにいる女といえば、昔か
ら茜オンリーだからな。まさにダメ少年とセットの
居候キャラのようにくっついてきやがる。まあ運よ
くそのオンリーが可愛いのが救いなんだけど。
そしてアホな事をやっている間に、衝撃の瞬間が
訪れることとなる。
俺たちの乗るゴンドラが頂上付近に達したとき、
真っ昼間のように辺り一帯が明るくなり、今まで闇
を照らし出していた数々のネオンたちが、その存在
価値を失った。
「ねぇ、ちょ、ちょっとあれ、あれ何?」
いまだ顔を押さえ蹲っている俺に、茜は声を震わ
せ言った。
誰もが空を見上げた。夥しい数のスポットライト
が宙に浮いているように見えた。
あまりにも突然で巨大すぎ、真下にいた俺は、そ
れが宙に浮く物体だと気付くのに、少し時間がかか
った。
「ねぇ、これって新しいアトラクション?」
「なわけあるかっ‼」
「じゃあ何なのよ⁉」
「そ、そりゃ、UFOなんじゃないの……かな?」
当然、何も理解できず、ただの中学生の俺たちは
唖然とするしかなかった。
その巨大な円盤型の白き物体は宇宙船であり、ド
ーム球場の五倍以上はある。初めて見たこの時は、
訳の分からんまま腰を抜かすほど驚いた。もしも椅
子に座っていたなら、ものの見事にずり落ちていた
だろう。
それから謎の宇宙船はその場にとどまり続け、移
動したのは明け方だった。
しかし宇宙人が堂々と現れたことで、瞬く間に情
報は広がり、当然だが日本だけじゃなく世界中で大
パニックになった。
もうネットの掲示板は荒れ放題で、インスタやツ
イッター、ブログ、その他の様々な動画サイトに映
像がアップされ続け、カオスな状態である。
でも国家機密レベルの話では、既に人類と同等か
それ以上の知能を持った宇宙人が存在することは、
随分前から分かっており、幾度となく接触はあった
らしい。
だが今回の地球への飛来は、事前に連絡があった
わけではなかったようだ。だから宇宙船はその場に
とどまり、人類側の出方、というか誘導を待ってい
たのだ。
前もって宇宙人の存在を知っていた各国の政府は
今回のような非常事態に備えてそれぞれに作ってい
た対策マニュアルにより、迅速に対応した。
まずは飛来した宇宙人について情報を公開し、安
全であることを明確に示した。そのおかげで恐怖か
らくる混乱だけは早急に静まった。のだが、ここか
らが大変だ。世界は宇宙人の話題でうめつくされ、
トンでもないお祭り騒ぎとなった。
公表された情報では、彼らは地球より遥か離れた
外宇宙にある、アルドゥランという名の星から来て
いた。その星は地球より大きいが、ほぼ同じ環境で
あり、アルドゥラン人は人類と同じ進化を辿り、容
姿は俺たちとそっくりらしい。
専門家の話では、地球と同じような星が存在する
ことは、無限に広がる宇宙の中ではありえることだ
が、太陽系の遥か外宇宙とはいえ、ほぼ同じ姿形の
知的生命体が存在するのは、奇跡といっていいらし
い。
そして宇宙船は日本政府の指示により、大阪の巨
大な埋め立て地である人工島、舞洲の辺りに移動し
て、隣接するように海の上へと着水した。
いったいこれからどうなるのやら。まあ間違いな
く面白くはなりそうだ。
おっと、そういえばすっかり忘れていたが、自己
紹介がまだだった。
俺は、月杉・快。なんか名前からしてそうだが、
運が良い事だけが取り柄で自慢、現在、中学三年生
の大阪人だ。