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異世界ポエマーは夢を見ない  作者: セキセキヤ
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第1話 現実社会での負け方



春の季節は出会いの季節である。そして今俺は、出会って間もない女子から話しかけられている。

顔は少し童顔で、黒髪のショートボブといったところか。


まあそれもそのはず、高校生活最初のHR後の教室であるのだから。


「あの〜私、"橘莉愛"って言うんだ。よろしくね。」


となりの席から笑顔でこちらを尋ねてくる。こんな笑顔久しぶりに見たな。


「..うん。よ、よろしくお願いします。あ、あ、名前はさっき自己紹介したから、大丈夫だよ。」


よし、多少動揺したけど大丈夫。大丈夫だよね?


「うん。大丈夫だよー。っていうか自己紹介で言ってた、趣味は"詩"を書くことって何?」


やっぱりきたか。いや、、チャンスかもしれない。

これは俺が詩人に戻る第一歩なのだ。


「んー何か詩にしてほしい言葉を言ってもらって、それを詩っぽくすることかなぁ。」


そう言うと橘は嬉しそうに俺の目を見てきた。何か詩にしてほしいのかな。


「じゃ、じゃあさ私自身を詩とかにってできる?」


お、おぉ、なかなか無理難題を言ってくれるね。

すごく自意識が高い女の子だこと。


「ま、まだそのー橘さんのこととか全然わかんないし、ちょっと難しいかな、なんてね。」


「ん。わかった。じゃあ "森" で。」


切り替え早えーな。ま、あってすぐの女の子よりは森の方がいくらかマシだけど。


「いいよ。」


俺は自分のバックからテキトーな紙を取り出し、そこに字を書き留めた。


『森の時間は、いつも軽やかに過ぎていく。そこに一片の曇りもなく、木々が揺れて、妖精の訪れを感じる。あぁ、そうか。僕はもう、この妖精に魅せられていたのか。

いつの間にか、森は僕を染めていた。少し強い風と共に。』


ふっ、完璧かな。


一時期詩人としての才覚は終わったと思ったが、才能あるものは再び才覚を取り戻せるようだ。


「す、すごいねー、なんか、岸田くんは”面白い人“だね。私、これで失礼するね、、。」


橘は笑顔で返してくれたが、その笑顔はよく見たものであった。


やっぱりダメか。まあ仕方ない。


けどまあなんとかなるっしょ。



俺は詩人として名の知れた岸田家の次男として生まれた。

小さい頃からプロの詩人である父に色々と叩き込まれ、その為か、小学校6年の時 短歌、詩の全国大会の詩部門で全国総合成績2位を記録した。


思えばこれが詩人としてのピークだったのかもしれない。


中学に上がり、初めの一年こそ軽やかな流暢な詩が書けていた、と思う。

問題は中学2年の夏、自分が書いている詩がどうにもつまらないと感じた。


自分なりにアレンジしたところ、父からは大怒りを受け、事もあろうに岸田家から破門されてしまったのだ。


原因はわかっている。


森や木々の詩を書いていたら、いつの間にか妖精が現れていたり、太陽や焚き火なのどの詩を書いていたら、

『灼熱の炎は、僕らの鎮魂の灯火をあげ、大声で叫び消えていく。』

なんて書いていたのであるから。


人間味帯びた現実的な詩は、悪魔的な空想上の痛いものになっていたのだ。



そして今、橘と初めて話してからちょうど1ヶ月が経つ頃なのだろうか。俺の周りには人はいない。まして、話しかけるやつも既にいなかった。


なぜなら、あの後から俺はみんなから詩人としてちやほやされることは全くもってなく、ましてやクラスの女子からは岸田の頭には妖精が宿っているとコソコソと噂が流れ浸透した。


その結果、クラスの上位カーストの男子たちも女子と同様に絡もうとはしなかった。


一部のアニメ好きの男子たちが、俺にアニメの話を振って話してくれたが、アニメは嗜む程度でアニメ好きからは "にわか" とされ、ものすごく遠ざけられてしまったのだ。


こうして高校生活開幕からボッチとなったのだった。


『全く、才能がある人っていうのは困るよね。みんなから遠ざけられてしまうから。でもまあ、気分は悪くない。才能があるが故の孤独、大いに結構なことだ。』


なんて詩にもならないカッコつけたことを書くことしか、することもなかった。


いいや、人と仲良くなる方法はわかっている。

詩を辞めて、テキトーな運動部などに入部すれば居場所ぐらいできるだろう。


しかし俺は居場所が欲しいわけじゃない。


どっかのラノベ主人公みたく友達が欲しいわけじゃない。


ただ自分が書いた詩を褒められたいだけなのだから。


まあ、学校というシステムは一回堕ちた奴はなかなか元には戻さないというもんだけど。




俺は岸田家を破門されてからネットの掲示板サイトにて自分の詩を書いている。


まあこれがなんともウケが良くて、結構嬉しい。


ちなみにネットでのPNは"REN"。

そういえばまだ名前を言ってなかったっけ。


俺の名前は "岸田廉" 。


将来有名な詩人になるやつだ。


そして今は日曜の夕方、自分部屋なう。


まあ気晴らしに掲示板でおしゃべりして、詩でも書こうかな。


PCを開き、いつも使っている掲示板へアクセスした。


REN : 最近詩を書いたら同級生に笑われてしまいました。結構ショック..


S.K : 神ポエマーきたぁぁあwwwwwww


TSK: RENさんのポエムはセンスが詰まってるのに気づかない奴らはヤバス(笑)


ギルガメッシュ: 前回のポエムは感動したなぁ。"理由がある恋は、恋ではなく、妥協である" "一つ希望を失っている" は流石に草


いつも通り反応してくれるこの3人。まああと1人いるんだけどね。


けどわかってくれる人がいるだけで少しは救われる。


しかも喜んでくれる、何を書いても。


REN: 笑われた詩をここに書き込んで良いでしょうか?


TSK: お願いします。


S.K: 今日も神ポエム期待してまっせーw


REN: 『森の時間は、いつも軽やかに過ぎていく。そこに一片の曇りもなく、木々が揺れて、妖精の訪れを感じる。あぁ、そうか。僕はもう、この妖精に魅せられていたのか。

いつの間にか、森は僕を染めていた。少し強い風と共に。』

どうでしょう?


S.K: 神作きたぁぁあwwwwwww


ギルガメッシュ: ここに一つの名言が生まれた。"森は僕を染めていた" まじで草。


TSK: いやぁあ、今回は妖精さん、かっ。いつも通り絶好調ですね!


いつも通り絶好調..か。

そっか、いつも通りなんだよね。


何を変わらない、詩に近い駄作を書いているんだけなんだよね。


REN: また詩ができたら評価お願いしますよぉ〜今回もありがとうございました。


そう書き込むとpcを閉じて、ベッドに寝転がった。


夕焼けで光る、部屋の天井をまじまじと見ると、"この世界の中で自分は孤独で一人だ" と

そう思えてしまった。


このまま寝ちゃダメだ。そう思えた。


けど課題も終わって暇だし、外に出て散歩でもしようかな。


そう思って、ベットから起き上がった時、ひとつの違和感を感じた。



"閉じたはずのpcが開いている"



「あれ?さっき閉じたはずだよな。」


びくびくしながら、pcに近づくとメッセージ

みたいなものが見えた。てか映っていた。



『おめでとうございます。見事あなたは被験者に抜擢されました。』



はぁーあ、ただの迷惑メールじゃねーかよ。


なんだよ。結構期待しちゃったのに。


pcまで俺のことを悲しませんなよ。


はぁ〜きっと疲れててpcを閉じたと勘違いしちゃったのかな。



そして今度こそ、pcを閉じた。


さっきのメールのせいでちょっと萎えちゃったし、やっぱ寝よう。


夕日が沈む中で俺はゆっくりと深い睡眠へ入っていった。


しかし、目覚めは最悪だった。


ベットで寝てたはずなのに妙に頭がいたい。しかも物理的に痛かった。


はぁーっと息を出して目を覚ます。


しかしそこは、全くもって見慣れない街並みだった。というか中世のヨーロッパ風の建物がずらりと並んでいる。


あれれ? これって、もしかして異世界転生っていうやつなんじゃないの!?


そういえば、俺は選ばれたんだっけ、”被験者“に。


そうさ。異世界に選ばれた特別な人間だったのさ。


こうなったら、楽しむしか選択肢はなさそうだ。


.......けどなんで、俺なんだ?

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