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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
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遥の看病

11月半ばの土曜日。珍しくのんびりした休日を送っていた。


父さんに、会いに行くならやっぱ、年末年始かな?


けど…あの町に行くにしても、詳しい行き方がわかんないな。



父さんに聞いても、ざっくり過ぎてわかんないし。



うーん。



遥のやつ、地元だし、知っているよね?



あいつ、年末年始帰るのかな。帰るなら、一緒に…なんてムシがよすぎるな。



でもな、遥しか頼れる人間いないし。この間の気まずさはあるけど…



えーい!一か八かだ!!

当たって砕けろ!



遥の携帯の呼び出し音が、一回、二回と鳴るけど…

応答がない。



うわぁ…まさかの着拒?



すると、五回目で応答があった。




『……も、もしもし…千歳さん?』




ん?

なんか…声が…




「遥、声がガラガラよ。」



『……そ、ぞうですが?』



「あんた、もしかして、風邪ひいてる?」




『…ズッ……大したことない…ですから……ズッ…』



「そんな鼻声で、大したことないわけあるか!」




『…ズッ…ずみまぜん…』



「えーい!喋んな!今すぐあんたん家へ行くから、おとなしくしてな!」




私は、勢いよく、電話を切り身支度を済ませ、遥の家へと向かった。





数十分後。




「……ち、千歳さん…ほ、本当に来たんですね。」



「そうよ!つーか、ほら、横になってなさいよ。一応水とスポドリに、冷却シート、買ってきたから。」




近くのスーパーで、買ってきたものを、テーブルに広げた。




「……あ、ありがとうございます。」




「全く、赤い顔して、声はガラガラだし。どう見ても完全に、風邪ひいてるじゃないの。」




「……は、い。」




ベッドに横たわっている遥は、ずいぶんとしんどそうだった。




「病院には、行ったの?」



「…は……い。」




「インフル?」




「…いえ…疲労から…の…風邪…だ…そう…ゴホッ…ゴホッ…」




「ったく、喋らないでいいから、早く寝なさい。」



遥に、

掛け布団をかけ直し、額に冷却シートを張り付けた。


そっと、

遥の前髪を撫でた。




「こんなになるまで、働いて少しは休みなさいよ。」



「…ち…千歳…さん…ここに…いて……」




熱のせいで、涙目になっているその瞳に、キュンとしてしまった。




「わかったから、早く眠りなさい。」




子犬みたいに、甘える遥がとても可愛く見えた。

こういうのを、母性本能を擽るってやつなのかな。



そっと、髪を撫でているといつの間にか、目を閉じて寝息をたてていた。右手が私の左手をギュッと、握り締めたままで…。



ははは。安心しきった顔して寝てる。よく見たら、ホントに整ってる顔だわね。


女の私より、キレイって、どうなのよ?


まぁ、子供の頃から綺麗な顔立ちしてたな。


天は、二物を与えずっていう諺があるけど…


ありゃ、嘘だね。




「…やれやれ。」




まぁ、とにかく、

電話して正解だったわ。


このままほっておいたら、きっと、無理して仕事するだろうしね。


あんたは、大事な跡取りなんだからさ。


何かあったら、私が、師範のおじいさんに怒られる。



「…本当は…あんたに訊きたいことがあって電話したんだよ。」




年末年始に、父さんに会いに行きたいと思ってる。


だから、あの町に久しぶりに帰ろうかと、思っているのよ。



遥…


一緒に行ってくれる?



自然に、そう思ってしまった。あんたといると、何故か素直になれるのよ。自分でも不思議なくらい…


遥の右手を、両手で包みこみながら、額に当てた。



ぼんやりと、あの頃の遥と私が、笑っている姿が、やたらと、鮮明に思い出された。



そんな懐かしさと、居心地の良さに、いつしか、

深い眠りに、堕ちていくのだった。





ん?


あれ?


気がつけば、遥の右手を両手で握り締めていた。



知らないうちに、眠っていたのか。遥を見ると、ぐっすりと眠っていた。



時計を見ると、17時を過ぎていた。



眠る遥の額の冷却シートを外した。まだ熱があるな。


今日はこのまま眠っていた方がいいかもね。



今夜は、泊まっていこう。一人にするの心配だしね。


額に新しい冷却シートを張り直して、立ち上がった。


よーし!

遥のために、お粥でも作ってやるか!



私は、腕捲りをしてキッチンへと向かったのだ。




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