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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
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昔話のその後で…

静まりかえった、部屋。

抱きしめる遥の鼓動と呼吸がやたらと、響いていた。

それは、とても懐かしくて優しいぬくもりだった。




「……オレの話は、以上です。」




遥は、

抱き寄せた身体を離した。


あの頃の遥は、まだ、小学2年だったのにも、拘わらず、色んなこと考えてたんだと思った。




「まさか、あんたの初恋が私だったとは…。」




「あの頃、オレにとって貴女は大きな存在でした。突然、いなくなってしまったことが、辛かったんでしょうね。」




目を伏せて、懐かしむ姿の遥に、少し、罪悪感が込み上げた。




「…そう。ゴメン…ね。」



私も、あの頃は、家がバラバラだったし。自分のことでいっぱいいっぱいだったから…




「いえ、貴女を困らせるつもりでこんな話したわけではないんです。なんとなくあの頃のオレを知って欲しかったんです。」




「え?」




「千歳さんと、再会するなんて本気で思ってなかったんですよ。」




そうだよね。私も遥に会うまでは、あの町のこと、ほとんど忘れてた。




「私も、同じだよ。」




「大人になった千歳さんに再会して、正直、戸惑いましたけど…。」




「あはは!いつの間にか、こんなオバサンになってたからね。」




笑いながら、遥の頭をわしゃわしゃと撫でた。




「…まぁ、こういうところは、全然変わってないですけどね。」




「悪かったわね!」




「でも、貴女に、頭を撫でられると懐かしい気持ちになります。」




「そっか。あんたの頭を撫でるの癖だったのかな?」



あの頃、師範の孫っていうのもあったけど、聡明且つ礼儀正しい子供だったから感心してたのかも。




「きっと、貴女に頭を撫でられて、特別扱いされたと思ったんでしょうね。」




「ははは。それで、好きになったんだ。」




「今思えば、淡い思い出ですけど。」




再会して、話を聞かなければ、思い出すこともなかったかもしれない…。




「取り敢えず、飲み直すわよ!」




「まだ、飲むつもりなんですか?」



「ぷはー!当然でしょう?ほら、あんたも飲みな!」



「…やれやれ。本当に、貴女は、困った人ですね。」



呆れながらも、遥は、私のわがままを聞いてくれる。



「…貴女に付き合って飲んでしまったら、オレのほうが酔ってしますね。」




「その時は、私が、介抱してやるから大丈夫よ。」




「…なんだか、とても不安になりますね。」




「言うようになったわね。あの頃は、ツンデレのお坊っちゃんだったのに。」




「心外ですね。さっきも言いましたが、オレは、もう大人です。」




「わかってるよ。あんたが私の手首を掴んで歩いてた時、大きな手してたし。」



遥の手の大きさに、男って感じがしたんだ。あの頃の小さな手とは違って、一瞬ドキドキした。




「本音を言うと、貴女が、大人の女性になっていたことに、戸惑いました。」




「ま、そうよね。大人になっても中身はあの頃と変わってない気もするけど…」



「だからかもしれません。貴女に話をしたくなったのは…。不思議ですね。」




「私も、驚いたわ。あんたが、こんなイケメンになっててさ。ちょっとドキドキしたわよ。」




懐かしむように、微笑みながらまた、遥の頭を撫で撫でした。




「…だ、だから…そんな顔…しないで…ください。」



呟くような小さな声で、両膝を立てて、顔を埋めてしまった遥――




「…遥?」




埋めていた顔を上げ、若干赤い頬と熱を帯びた瞳で、私を見つめた。




「何?じっと見て…。」




「…………。」




遥は、いきなり私の腕を掴み、唇を塞いだ。




「…!!」



唇が離れた瞬間、私は、遥に反論した。




「ち、ちょっと!はる…」



有無を言わせないように、再び、唇が重なった。



次第に、深くなっていくキスに、互いの息は乱れる。


遥の舌先が、私の唇の隙間から、侵入してくる。



片手で、後頭部を押さえつけられ激しく求めてくる甘い熱に翻弄されながら、自然とそれに答える。




「……っ…ん…ん…」




二人の吐息が、部屋中に響き渡る。



甘い熱を堪能して、息が乱れたまま、互いの唇が淫らに離れた。




「…っ…ぁ…は、遥ぁ…」



「…っ…ち…千歳さん、そんな声で…名前呼ぶのは…ズルい…です。」




「…ズ、ズルいのは…あ、あんたのほう…よ。」




唇を手で押さえながら、遥を睨み付けた。




「貴女が、オレを煽るからでしょう。」




「あ、煽ってないわ!バカ遥!この!クソ生意気な坊っちゃんが!!」




思わず、遥の胸ぐらをつかんだ。




「なら、オレが男だということをもっと自覚してください。」




「な、何言ってんの!」




「オレを子供扱いしているとこういうことになるんですよ。」




「ぐぬぬ!た、たった今、わかったわ!!女慣れしてる坊っちゃんってね!!」




「人聞きの悪いことを言わないでください。こんなキス、貴女以外にしたことないですよ。」




「嘘つけ!!この変態!!」




あーあ。完全に、遥に振り回されてる。



恥ずかしさを誤魔化すために、言い返したものの…


考えれば、この歳になって騒ぐ程のことではない。



くそ!!遥のヤツめ…

あんなキスしやがって…。


不覚にも、上手いと、思ってしまった。



男の顔なんてすんじゃないわよ。バカ遥!!



この後もしばらく…

胸の奥が、ざわついて、

落ち着かなかった。




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