私と遥の未来。
有里家の屋敷に、到着するとおばあちゃんと母さんそして、父さんも来ていた。
師範を始め、おばあさんと現当主であるお父さんと雪美さんも勢揃いしていた。
「あはは!千歳ちゃん、久しぶりだな。元気にしていたかね?」
師範は、満面の笑みで私を見据えていた。
「はい。雪美さんには、色々と助けて頂いて仕事も慣れてきました。」
「千歳ちゃんのご家族は、雪美と一緒に、先に居間にいるから行こう。」
遥のお父さんは、穏やかな笑みで、案内してくれた。
居間に通されると、おばあちゃん達が、雪美さんと談笑していた。
「千歳、遥君と一緒にちらし寿司食べてくれた?」
おばあちゃんは、ニコニコしながら話した。
「もう!おばあちゃんも母さんも遥のこと黙ってるなんてズルいよ!」
「仕方ないでしょ?千歳にサプライズで、誕生日プレゼント用意したんだから。有り難く思いなさい。」
母さんは、苦笑しながらも穏やかな表情で答えた。
「うむ。私も、昨日、初めて知ったんだが、仕事がたて込んでてな。」
父さんは、ため息をつきながら、苦笑していた。
「まぁ、何にせよ、千歳ちゃんと遥の結婚が決まったわけだしね。遥、ちゃんとプロポーズしたんでしょうね?」
雪美さんは、私の横にいた遥に視線を移して、言っていた。
「言いましたよ。はなからそのつもりで、母さんのサプライズ計画に協力したんですから。」
遥は、腕を組みながら、ため息を溢した。
そして、遥は、父さんと母さんとおばあちゃんに、挨拶をした。
「色々、ありましたけれど源一郎さん、お義母さん、おばあさん、千歳さんと結婚させて下さい。」
遥は、深く頭を下げた。
「うむ。遥君、ふつつかものの娘だが、宜しくお願いするよ。」
父さんは、今にも泣きそうな表情だった。
「源一郎さん、泣かないでよ?式まで涙はお預けなんだからね。」
そう言いながら、母さんは涙目になっていた。
「ふふ、千歳と遥君、おめでとう!」
おばあちゃんは、涙を拭きながら答えた。
「はぁ。やっと、ここまで来れました。千歳さん、お待たせてしまってすみませんでした。」
遥は、私の手を握りしめ、微笑んだ。
「ううん。遥が帰って来てくれただけで、嬉しいからさ。」
私は、そう言いながら、手を握り返した。
「あはは!それじゃ、めでたい晩餐といこうか!」
師範は、声をあげて食事を促した。
相変わらずの有里家の料理は、豪勢だった。
「遥、毎日、こんな美味しいご飯食べてるの?」
「まさか。来客用に作って貰うだけですよ。」
「ふーん。まぁ、あんた、ご飯作ってたしね。」
「はい。でも、千歳さんの手料理が一番美味しいですから。」
「…バーカ!」
私は、遥の肩を小突いた。
その後、師範と雪美さん達に囲まれて、談笑する。
久しぶりの賑やかさに、幸せな時間を満喫した感じがした。
トイレを借りた後、遥が、私に手招きした。
「千歳さん、ちょっと!」
「何?」
遥は、私の小さなバックを渡した。
「…遥?」
私は、バックを受け取り不思議そうに遥の顔を見た。
「これから、あの母屋に行きますよ。」
「え?で、でも、皆に言わないと。」
「…はぁ。構わないです。貴女と二人きりになりたいので…」
遥は、私の手を引いて玄関まで歩いた。
「遥、お酒飲んでたじゃん!運転出来ないわよ!」
「大丈夫ですよ。立山さんに送ってもらいます。」
全く、準備がいいわね。
使用人の立山さんに、有里家の母屋まで送ってもらい遥は、玄関のドアを鍵で開けた。
相変わらずの厳かな佇まいに、背筋が伸びた。
廊下を歩いていると、久しぶりのあの大きな居間の襖が、見えた。
けど、そこを通りすぎて、奥の綺麗な襖まで来た。
「あはは!この部屋も、久しぶりに入るなぁ。」
「…千歳さんと、初めて帰省した年末のことを思い出しますね。」
襖を開けると、二組の布団が敷いてあった。
ち、ちょっと!
何で、二組なの?
私は、だんだん顔が、熱くなってきた。
「今夜は、これ以上、あの人達の我が儘には付き合いたくなくて。千歳さんとゆっくり過ごしたかったんですよ。」
「はぁ。我が儘なのは、あんたも一緒よ。」
「…ダメですか?」
遥は、
私の顔を覗き込んだ。
「べ、別に、ダメじゃないけど…」
さっきから気になっていたけれど、三年経ったからなのか、遥に大人の余裕が出てきた雰囲気だ。
そのおかげで、こっちは、ドキドキしすぎて、落ち着かない。
「ふっ。千歳さん、顔が赤いですけど、何を想像してるんです?」
くっ!こいつ!からかいやがって!
「…煩いわね。お茶くらいだしなさいよ!」
私は、背を向けて答えた。
すると、後ろから微かに、笑っている遥の声がした。
私は、ムカついて…
「ちょっと!遥!笑わないでよ!」
振り向くと、いきなり抱きしめられた。
「…千歳さん…好きです。照れてる貴女の表情も怒ってる表情も…全てが、愛おしいです。」
遥は、抱きしめる腕の力を強めて言った。
「…バカ。私だって大好きだわよ!」
「ふっ、千歳さんらしい返答ですね。」
遥は、腕を緩めお互いに見つめ合いながら、引かれ合うように、唇が重る。
何度も角度を変えて、貪るようにキスをする。
「…千歳さんに、さっき渡しそびれたんですが…」
そう言って、上着のポケットから小さな箱を取り出して、私に渡した。
「…これ…」
「開けて見て下さい。」
私は、箱の蓋を開けた。
すると、指輪が美しく輝いていた。
「…婚約指輪です。これで貴女は、オレのものだという証ですね。」
遥は、そう言いながら、箱から指輪を取り、私の左手を掴み、薬指にはめた。
「…あ、ありがとう。」
「本物は、式が決まったら渡しますね。」
遥は、薬指の指輪にキスをしながら微笑んだ。
私は、嬉しくて左手を宙に翳した。
「…遥は、私のものになるんだ。」
「そうですよ。…だから、まだこんなものでは足りませんよ。」
意味深に笑う遥は、ネクタイを外しながら、私の左手を掴み布団が敷いてあるところまで、導かれた。
「…は、遥、先に、シャワー浴びたいんだけど…」
「後でいいです。どうせ、お互いに汗かくんですから気にしなくても。」
遥は、そう言いながら、私のワンピースのファスナーを下ろした。
「…ち、ちょっと!……っ!…」
両手で、私の頬を包みキスをする。さっきよりも、激しく熱が入り乱れた。
「…っ…千歳さん…オレの事に集中してください。」
「…遥ぁ…」
布団に押し倒され、露になった素肌に容赦なく遥の唇が攻めてくる。
「…っ……ぁ……」
甘い吐息が、静かな部屋に響く。
「…っ…ハァ……」
遥は、荒い息をしながら、私の身体を貪る。
互いの吐息が、やたらと淫らに響いた。
お互い求め合いながら、心と身体の奥まで、遥のぬくもりに満たされてゆくのだった。
明け方――
目が覚めると、見慣れない天井に気づいた。
そっか、遥ん家の母屋に来てたんだった。
横で、眠りこける遥の姿に思わず笑みをこぼした。
昨夜は、ケモノのように私を何度も抱いていたのに…
寝顔は、可愛いもんね。
そっと、眠る遥の髪を撫でる。
「……ん…」
寝返りをうつと同時に、目が覚めたみたいだ。
「…遥、おはよう。」
「…千歳…さん…」
眠気眼で、遥は欠伸をしながら、起き上がった。
「…気持ちよさそうに寝てたわね。」
「…そう、ですか?」
目を擦りながら、答えた。
「もう朝だね。」
窓の隙間から、明るい光が差し込んでいた。
「朝食の準備を頼みます。千歳さんは、シャワーを浴びてきてください。」
「…ふはは!切り替え早っ!さすが、有里家のお坊っちゃん!」
私は、服に着替えながら、遥をからかった。
「…千歳さん、ズルいですよ。オレが、朝に弱いの知ってて…」
「あはは!昨夜の仕返しじゃー!」
「…はぁ。ったく、貴女には、敵いませんね。」
遥は、そう言って私の左手を掴んだ。
「…遥?」
私は、不思議に思いつつ、その場に正座した。
薬指に光る指輪に、キスを落として私を見つめた。
「千歳、愛してる。」
いきなり、呼び捨てされて胸が高鳴った。
「…呼び捨てするの、遅くない?」
「…癖なんですかね。付き合ってからも言うタイミングがなくて…。」
「はは!でも、これからは遠慮なく言えるよね。」
「はい。貴女は、オレのものだとさっき言いましたからね。」
「なら、もう一回!」
私は、ねだるように顔を覗きこんだ。
「…ふっ、やはりズルい人ですね。千歳。」
遥は、名前を呼んだ後、キスをした。
遥、私たちの行く末は、懐かしいこの町からスタートするんだね。
この先、良いことばかりじゃないと思うけど、あんたがいればきっと、乗り越えて行けるよ。
私の大好きな年下のお坊っちゃん!
今まで、私の傍で支えてくれてありがとう!
そして、これからも宜しくね!
愛しの旦那様!
完。
初めての連載でしたが、かなり反省する点が、沢山ありました。
最後まで、書き続けてきたことが、何よりも成長の過程の一つだと感じております。
皆様、最後まで、
ご愛読ありがとうございました!
西島夢穂。




