有里家と私の家族。
私の家族と遥は、あの町にある有里家の屋敷に到着していた。
父さんと遥の車に、分かれてここまで来たのはいいけど…
おばあちゃんまで、着いてくるなんて…。
内心ドキドキしていると、門に入るなり、師範が勢いよくこっちに走ってきた。
「あはは!これはこれは!皆さん勢揃いで!」
相変わらずのデカイ声と、ガタイのいい身体に、圧倒する私達家族。
「お祖父さん、そんな勢いよく出てこなくても、家の中で待っててください。」
「何を言うか!源一郎の家族が勢揃いで来てくれるなんぞ滅多にないだろ?」
「…まぁ、そうですね。」
遥は、視線を逸らして困惑な表情で言う。
それから、遥の家の敷居を初めて跨いだ。
ううっ。
緊張するなぁ。
広い玄関ホールに、遥のおばあさんとご両親がいた。
「…祥子さん!もう!どこに行ってたのよ!」
遥のお母さんは、母さんに抱きついた。
「…雪美ちゃん、ごめんなさい。」
母さんは、涙目になりながら、遥のお母さんを抱き返していた。
父さんと兄さん、そして、おばあちゃんは、師範と遥のお父さんに挨拶をしていた。
なんとも、不思議な光景につい、笑みが溢れる。
そして、遥が私の手を握りしめてきた。
「遥…。」
「…千歳さんをこの家に、迎えるのは、もっと先だと思ってました。」
「…うん。そだね。」
そんな私と遥の話を聞いていた遥のおばあさんが…
「ふふ、うちの夫と黒沢さんは、師弟関係で、祥子さんと雪美は高校の先輩後輩で、千歳ちゃんと遥は、東京で再会。運命のいたずらなのかしらね。」
「…そうですかね。」
「そう言えば、千歳さんのおばあさんがおばあ様の姿を見たことがあると、聞きました。」
遥は、視線をおばあちゃんに向けて答えた。
「あら?そうなのね。ここまでくると、有里家と黒沢家は、切っても切れない強い縁で結ばれているということになるわね。」
な、なんか、そう言われると恥ずかしいな。
私は、思わず俯いた。
「千歳さん、おばあさんがこっちに気づかれたみたいですよ?」
おばあちゃんは、私達のところに来て、遥のおばあさんに挨拶した。
「はじめまして。祥子の母でございます。今日は、突然に、お伺いして申し訳ございません。」
「ふふ、いえいえ。うちに家族が揃うことは珍しいんですけど、やはり何かの縁なんでしょうね。」
遥のおばあさんは、にこやかに、おばあちゃんと話していた。
横にいた遥は、使用人らしき人に話をしていた。
「立山さん、今日は、千歳さんのご家族と会合しますので、その後の夕食の準備をお願いします。」
「はい。畏まりました。夕食のメニューは、和食と洋食のどちらにいたしましょうか?」
「千歳さんのお母さんは、体調があまりよくないので何か軽いもので栄養が摂れる食事をお願いします。」
「ならば、和食が宜しいですか?遥お坊っちゃん。」
「はい。お願いします。」
遥の的確で、気配りな指示を出す姿を見ていると、本物のお坊っちゃんだと気付かされる。
「千歳さん、夕食は家で食べていってくださいね。」
微笑む遥に、胸の奥が高鳴るのだ。
ったく!久しぶりに、遥にドキドキさせられたよ!
その後、遥の家族と私の家族とで主に母さんの話が、展開された。
話を聞いていた遥のお母さんは、涙ながらに聞いていた。
「…十数年もの間、そんな出来事があったんですね。僕達は、お義父さんから何も聞いてなかったので。」
遥のお父さんは、しんみりとしながら、答えた。
「祥子ちゃんの内縁の夫である俊樹さんは、京都で有名な料亭の女将さんも、太鼓判を押すくらいの料理人だったらしい。」
師範は、腕を組みながら、真剣に話していた。
そうかぁ。
俊樹さんという人は、誇り高き料理人さんだったんだなぁ。
「…遥次郎さんのおかげで彼のお葬式や四十九日も、無事に終わらせることができました。本当に色々と、ありがとうございました。このご恩は、必ずお返しします。」
母さんが、師範に頭を深く下げ感謝していた。
「あはは!祥子ちゃん、何も返す必要はないよ。君が俊樹さんの分まで、長生きすることが何よりも、恩返しになる。」
「…遥次郎さん。」
「祥子さん、彼の一周忌には私も呼んでね。」
遥のお母さんは、母さんの手を握りしめて言った。
「ええ、ありがとう。」
「師範、母さんの恩返しならもうひとつあるぜ。」
兄さんは、席を立ち、私と遥の真後ろに立って肩を叩いた。
「遥と千歳は、いずれ結婚するらしいからさ。師範には、もってこいの恩返しだろう?」
兄さんは、ニコニコしながら、皆の前で話した。
「ち、ちょっと!兄さん!それは私と遥が、話すつもりでいたのよ!勝手に言わないでよ!」
「遥、本当か!千歳ちゃんをゲットしたんだな!」
ゲットって…
師範、何気に若者言葉を使ってるし。
「…はい。まぁ…でも、今すぐに結婚するというのはないですけどね。」
「何じゃと!結婚を前提に付き合っているんだろう?ならば、早いうちに…」
「だから、ダメですよ。千歳さんもオレも向こうで、仕事しているんですよ?それに…」
遥は、私をちらりと見てから答えた。
「まだ、オレ自身が、未熟なんですよ。千歳さんを幸せにする限り、中途半端な大人のままでは、嫌なんですよ。」
遥の力説に、皆は、唖然としていたけれど…遥のご両親は、頷いていた。
「遥は、千歳ちゃんより子供だしね。まだまだ時間は必要ね。」
遥のお母さんは、ニコニコしながらも、厳しい眼差しで彼を見ていた。
「そうだな。お前は、大人の男として有里家の後継ぎとしてはまだ、未熟だ。」
お父さんも、かなり厳しい言い方だ。
「…はい。わかってます。だから、千歳さんとの結婚は、まだ先になります。」
師範は、残念そうな顔だったけれど、現当主であるお父さんには。逆らえないみたいだ。
「…はぁ。千歳より、遥君のほうがしっかりしてると思うけれど。」
母さんは、ため息混じりで答えた。
「まぁ、そうだな。」
父さんまでも、苦笑い?
「遥、千歳は、かなり子供っぽいところがあるから、安心していいぜ。」
兄さんは、ゲラゲラと笑いながら、遥の肩を叩いた。
「ちょっと!皆して、酷くない?」
救いを求めるように、遥を見ると…
「ふっ、膨れっ面な千歳さんも可愛くて、子供っぽいですよね。」
「遥!」
私は、思わず遥の頬っぺたをつねった。
「ふふ、やはり、千歳と遥君は、運命の赤い糸で結ばれていたのよ。」
おばあちゃんは、ニコニコと微笑みながら答えた。
「そうですね。遥と千歳ちゃんは、きっと、生まれた時から強い縁で堅く結ばれていた気がします。運命以外の何物でもないです。」
遥のおばあさんも、同じように上品な所作で微笑んでいた。
それから、有里家で、夕食をご馳走になった。
思わぬ展開で、有里家にお邪魔したけれど、これで、良かったんだと思った。
俊樹さん、母さんは、こんな素敵な人達に囲まれています。
だから、きっと、
母さんは、強く生きていけると思います。
そんなことを思いながら、私は、これからの行く末を真剣に考える時期だと、思ったのだった。
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