表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
46/52

母の過去の出来事

去年の11月の下旬だった。


いつものように、お店の営業をしていた。



閉店後に、俊樹さんが、妙な咳をするようになった。



「俊樹さん、大丈夫?寒くなってきたから、風邪でもひいたの?」




「…けほっ……はぁ…そうかな?インフルエンザだと店を閉めなきゃいけないしね。」




私は、俊樹さんの額に手をかざした。




「今のところ、熱はないみたいだけど、念のため早く休んだほうがいいわ。」




「…うん。そうだね。」




私達は、店の近くに住んでいるアパートに戻り、その日は、布団を敷いて早めに床についた。



それから数日後、仕入れから帰ってきた俊樹さんが、激しく咳こんだ。





「…ゲホッ…ゲホッ!」




「俊樹さん!凄い熱!病院へ行きましょう!」




私は、慌てタクシーを呼んで俊樹さんを病院へ連れて行った。




診察を終えた時、医師が、入院するように促した。




「高熱と咳がひどいので、念のため、検査入院してください。」




「…で、でも…私には、仕事が…ゲホッ!」




俊樹さんは、咳こみながら医師に言った。




「お休みしてください。今、無理をすると長引く可能性があります。」




深刻な医師の表情に、一抹の不安が過る。




「先生、インフルエンザではないんですか?」




「…今は、なんとも。とりあえず、検査入院をしてください。」




医師は、

会釈して近くにいる看護師に指示をしていた。





しばらく、俊樹さんは入院することになり、お店は、休業のお知らせを出した。


私は、仕事が終わったのち俊樹さんの身の回りの世話をしていた。



俊樹さんと私は、内縁関係だった。



彼には、頼れる身内はいない。一人っ子で、ご両親はすでに、他界されて天涯孤独の人だった。




「…旦那さんの肺に影があります。この部分です。」



レントゲン写真に、指された部分には、白い影が映っていた。




「…あ、あの、手術すれば治るんですよね?」




「それはなんとも言えません。大学病院に移って精密検査の必要があります。」



担当医師は、そう言って、紹介状を書いた。



それから、大学病院に移ってから俊樹さんの検査は続くのだった。




ある日、

病院内を歩いていると、




「…祥子ちゃん?」




振り返ると、有里家の当主遥次郎氏が立っていた。




「…!ご当主…!」




「あはは、久しぶりだね。ワシはもう、当主じゃないよ。今は、娘婿に任しているよ。」




相変わらずの笑顔の遥次郎氏は、以前に比べて白髪とシワが増えていた。




「…遥次郎さんは、ここで何を?」




「うむ。ワシの友人が、入院しててな。見舞いに来たんじゃが…祥子ちゃんこそここで何を?」




私は、躊躇って、うつ向いてしまった。




「…時間があるなら、少し話さないかね。」




「……はい。」




私は、遥次郎氏と共に、病院内のカフェに入った。




「…源一郎のことは、すまなかったな。あいつは、母親が苦労してきて、体を壊したことを見てきたからな。どうしても、意見を曲げたくなかったんだろう。」



「…そう、ですか。」




思わぬところで、あの町の知り合いに会うなんて、世間とは狭いものだ。




「…祥子ちゃんは、京都にずっといるのかね?」




「…そうです。内縁の夫と小料理屋を営んでいたんですが…彼が、ここに入院してまして。」




「うむ。内縁の…」




「彼は、自分の店を持つのが夢だったんです。それが叶って、小料理屋を開くことが出来たんです。けれど…」




私は、項垂れて顔を両手で覆った。




「…病気なのかい?」




「…今は、検査中でわかりませんけど、おそらく…」



考えたくなかった。せっかく、俊樹さんの夢だったお店が繁盛してきたのに…



なんで、こんなことに…!

知らずのうちに、

涙がこぼれ落ちてきた。



遥次郎氏に、こんな話をしたくなかったけれど、やり場のない気持ちを誰かに聞いてほしかった。



「…祥子ちゃん、力になれることがあるなら言いなさい。源一郎には、内緒にしておくから。」




「…と、当主…」




「はは、元当主だがね。」



遥次郎氏は、私の肩をポンポンと軽く叩いた。





その数日後、検査の結果が出た。




「大変申し上げにくいのですが、旦那さんは、肺ガンに間違いありません。」




「…肺ガン?」




「ガン細胞が、かなり進行しています。手術をしても抗がん剤治療を受けていくしかないです。」




「…それは、もう完治しないということですか?」




「……おそらく。あと半年以て、1年の余命かと。」



「……っ!」




半年しか、俊樹さんは生きられないってこと?



何故?



何故ですか!神様!



俊樹さんは、自分の夢をやっと叶えられたんです!



それなのに、こんな仕打ちないじゃないですか!




私は、病室で眠る俊樹さんの手を握りしめた。



俊樹さん、私は、貴方に沢山の勇気をもらってここまできたの。



離婚して、貴方に出会ってお互いに自分の行く末を語り合ってきた。



息子の千彰に、再会した時イキイキしているって、言ってくれました。



貴方に会えて良かったと、心から言える。



だから、死なないで!



俊樹さん!



止めどなく溢れる涙は、彼の手首まで、流れ落ちていた。



それから、俊樹さんの闘病生活が始まった。



入院費用を相談するために遥次郎氏に会いに、あの町へ帰った。



極秘で、有里家の所有のホテルで会うことになった。


その後、実家に顔を出しに行ったけど…



まさか、東京にいる千歳と源一郎さんがいるとは思わなかった。



千歳は、顔を合わせると怒りをぶつけてきた。



あの頃の千歳が、大人になって実家いた。


元気に成長してくれただけで、もう十分だった。



千歳は、家を飛び出して行った。こんな時間から、東京に帰るつもり?



すると、源一郎さんが何かの鍵を持って2階に上がっていった。



あの町の家か…

私は、そう悟った。



今の私には、千歳を引き止める勇気も気力もなく、ただ、俊樹さんの現状を考えることだけで、精一杯だった。





その後、実家で一泊した後朝イチで、京都に戻ったのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ