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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
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遥と私の家族

10月の連休――



私は、

遥と共におばあちゃん家に帰省することになった。



その前に、遥ん家の母屋で一泊することにした。



本当は、連休初日に直接帰る予定だったけど…



あの人相手に、話し合うとなると変に意識し過ぎて、冷静を保てるか否か、緊張さえしてしまう。



傍に、遥がついていてくれるなら心強いけど…



心を落ち着かせるには、有里家専用の母屋がいいと、遥本人に言われた。




『…この家にいると、悩み事や何かに迷っている時に自分の心と向き合えることができるんです。』




以前に、

遥が、そう言っていた。




「毎回、来て思うけど、この家は空気が凛としてて、背筋が伸びるわね。」




「そうですね。今の貴女には、ちょうどいいと思いますよ。」




遥は、グラスに入ったお茶を飲みながら答える。




私にしては、珍しい緊張感だった。今まで、あの人を思い出すだけで気分的に苦痛で、体調にも影響が出るくらいだった。



遥に、あの人の話をして理解してくれたから、ずいぶん心強い。




「…はぁ。あの人、先週、退院してから、おばあちゃん家で、療養しているみたいだよ…」




「…そう、ですか。」




遥は、天井を仰ぎ、そのまま畳に寝転んだ。




「…遥を紹介したら、あの人どう思うかしら?」




「千歳さんのお母さんには一度もお会いしたことないですね。」



「…そりゃね。あんたとあの道場で出会った時は、既に家に居なかったし。」




「…そうなんですね。」




「でも、有里家にお坊っちゃんがいることは、知ってるはずよ。」




私も、遥の向かい側で、同じように寝転んだ。




「…千歳さん。」




「ん?」




「…お願いがあります。」



「何?」




遥は、起き上がり私の横で正座した。




「千歳さんに、膝枕してほしいんですけど…。」




「…は?何であんたが、甘えんのよ。」




「違いますよ。オレも、明日、千歳さんのご家族にお会いするから、緊張してるんですよ。」




「…ふーん。でも、おばあちゃんと会った時は、凛としてて礼儀正しく振る舞っていたじゃん。」




「…そうなんですけど、ご両親も一緒なんで、緊張します。まるで、結婚報告をしに行くみたいで…。」




「…結婚報告だったらよかったけどね。」




私は、苦笑しながら仕方なく起き上がり、遥の隣に座った。




「…ほら、どうぞ!」




私は、両手で、膝をポンポンした。



遥は、ありがとうございますと、言いながらそっと、膝に頭を置いた。




「…千歳さんにこうしてもらうと、落ち着きます。」



目を閉じて、答える遥の髪を私は、撫でた。




「…千歳さん。明日は、思う存分言いたいことをお母さんに話してください。」



「あはは!思う存分ね!」



私は、あの人とちゃんと話せるか心配だけど、おばあちゃんは、やっぱり一緒に暮らしたいのかなぁ。



思わず膝枕で、横になっている遥の手を握りしめた。



「オレは、ずっとこれからも千歳さんの味方です。」



「…うん。」




遥の温かい言葉に頷きながら、涙が溢れた。



あーあ。

最近の私、よく泣くなぁ。



「…千歳さん。」




遥は、起き上がり私の唇を塞いだ。




「…っ…ちょ、ちょっと!今日は、ダメよ!遥!」




「貴女が、泣いているからですよ。」




遥は、

そう言いながら笑った。




「…バカ!」



私は、そう言って手で、涙を拭った。




「…オレが、傍にいます。だから、安心してお母さんと話してください。」




「…うん。ありがとう。」



静かなこの母屋に、安心と冷静な感情が広がる。




そして、あの人…もとい、母親との話し合いの時がくるのだった。





翌日――




遥の車で、おばあちゃん家に到着した時は、父さんとおばあちゃん、そして、あの人…。



何故か、

兄さんも来ていた。




「千歳、何故、遥君が来ているんだ?」




父さんは、私と遥が、一緒に家に入ってきたのを見て驚いていた。



そりゃそうよね。遥が今の彼氏なんて、言ってないからね。



この中で、知っているのはおばあちゃんだけだしね。



「源一郎さん、お久しぶりです。」




「…あ、ああ。けど、何故遥君が千歳と一緒に?」




明らかに動揺している父さんをよそに、兄さんが、ストレートに言ってきた。




「千歳の彼氏が、遥ということなんだろう?」




兄さんは、のほほんとお茶を啜りながら答えた。




「何!千歳、本当か!」




父さんは、

勢いよく私を見る。




「…まぁ、そうだね。」




私は、

思わず視線を逸らした。




「そうなのか?遥君。」




「はい。源一郎さんには、もう少し経ってからお話するつもりだったんです。」



「…そ、そうか。年末の時はもう付き合っていたのかね?」




「いえ、あの時はまだ、付き合っていませんでした。だから、祖父と貴方に説得したんですよ。」




「…うむ。成程。」




遥と父さんの話を割って入るように、母さんが、問いかけてきた。




「…ちょっと、話が見えないんだけど?そもそも、この若いコって誰なのよ?」



母さんが、訝しげに言ってきた。




「母さん、有里遥のこと覚えてないのかよ。」




兄さんは、テーブルに頬杖つきながら母さんに問う。



「…有里って、あのお屋敷の?」




「そうだよ。母さんが、あの町にいた頃は、遥が生まれて噂になってただろ?」



母さんは、首を傾げながら考えていた。




「ふふ。こんな形で、遥君が千歳の彼氏ってわかるなんて、やっぱり二人は、運命の絆で結ばれているってことよね。」




おばあちゃんは、ニコニコとしながら、皆の話をまとめてしまったのだった。




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